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第五十六話 「アイテムメニューの生かし方」


 それからも度々魔物に襲撃された。

 明らかにその頻度はおかしく、普段の危険区域の探索中とは比較にならないほど襲われた。

 居場所を気取られる位置ではないのに、何百メルも離れたところから魔物が殺到して来たり。

 やはり神の愛し子は特殊な気配を発しているらしく、魔物に嗅ぎ取られやすい体質のようだ。

 確かにこれでは護衛がいなければ、絶対に高山の山頂までなんて辿り着けるはずがない。


「ライアちゃんからは、特に何も感じたりしないんですけどね。変なニオイがするわけでもありませんし」


「人間の僕たちじゃ気付けない気配らしいし、ニオイとかも何もないと思うよ」


 その会話をライアが気まずそうに聞いていて、遅まきながら不躾だったと反省する。

 女の子に対してニオイとか気配とか失礼なことを言いすぎた。

 そんなやり取りもしながらリミックス高山に向かって歩いていると、やがて森に差し掛かったところで日が落ちてきた。


「今日はこの辺りで野営にしようか」


 リミックス高山までは歩いて二日ほど掛かる。

 そのため道中にて野営を行う必要があり、僕たちは森に入ったところでテントを張ることにした。

 するとライアが、怪訝な顔で唐突に首を傾げる。


「ここで、野営……?」


「う、うん、そうだけど。もしかして野営嫌だった? ちゃんと丈夫なテントもあるし、食料とか水も完備してるから、困ることとかはないと思うけど……」


 年頃の女の子なら野営に嫌悪感があるのは当然か、と遅まきながらそれを悟ったけれど、どうやら違う理由で訝しい顔をしていたらしい。


「どこに、テントとかあるの?」


「えっ? あぁ、そういうことか」


 僕とヴィオラは動きやすいようにとても身軽な格好をしている。

 戦闘において必要最低限の装備しか身につけておらず、手荷物はほとんどない。

 で、野営用の設備はいったいどこにあるのか疑問に思ったのだろう。

 そういえばまだ僕のメニュー画面について詳しく説明していなかったな。

 僕は得意げに右手の人差し指を立てて、何もない空中を下からなぞるように動かす。

 するとメニュー画面が浮かび上がって来て、再びそれを見たライアはやはり訝しい顔をした。

 そんな彼女の前でタンッタンッと軽快にメニュー画面を操作し、アイテムメニューの中からあるものを選択する。


【テントセットを取り出しますか?】

【Yes】【No】


 即座に【Yes】の文字を押すと、目の前にテント設営用のセットが出現した。


「えっ!? ど、どこから……?」


「これも僕の力の一つだよ。色んな道具をこのメニュー画面の中に仕舞っておくことができるんだ」


 続けて僕は食料や水、椅子やテーブル、さらには寝袋や焚き火セットなんかも取り出す。

 見る間に野営設備が充実していく様子に、感情の起伏が乏しかったライアが驚いた顔で固まっていた。

 こういう時のアイテムメニューは本当に便利で、初見の人はびっくりするに決まっているよね。

 あまり大きなものは仕舞えないという制限があるけれど、組み立て式のテントなら許容範囲内だ。


「何か足りないものとか欲しいものとかあったら僕に言って。割となんでもアイテムメニューの中に入ってるからさ」


「……う、うん」


 ライアを軽く驚かせることができたところで、僕たちはさっそくテント設営に取り掛かった。

 男性用と女性用で二つ用意する。

 よく僕とヴィオラも二人で野営することがあって、こうやって寝床を二つに分けている。

 彼女は一緒のテントでもいいと言ってくれているけれど、さすがにそれは異性としてどうなんだろうと思って、いつも二つ分のセットを持ち歩いているのだ。

 それから簡易的な湯浴み用のテントも設置して、衛生面の管理も徹底する。

 温かいお湯もアイテムメニューの中に入れておけば熱を保ってくれるので、大きめの水槽に入れて持ち運べば湯浴みまで外でできてしまう。

 アイテムメニューの中がどういう構造になっているのか、本当に理解不能だけど。


 そして代わりばんこで湯浴みを済ませると、食料と水を分けて皆で晩御飯を取ることにした。

 ここまで快適な野営ができるとは思っていなかったのか、ライアは終始呆然とした様子を見せていた。

 その後、晩御飯も滞りなく済ませて、いよいよ就寝の時間となる。

 もちろんその就寝でもメニュー画面の機能が大活躍だった。


「僕のメニュー画面にはヘルプさんっていう機能もあって、ものすごい物知りさんなんだよ」


「ヘルプ、さん……?」


「色んな情報をすぐに教えてくれて、旅の手助けまでしてくれるんだ。で、僕が寝てる間でも、魔物が近くに来たら僕に通知してくれるから、安心して寝ていいよ」


 僕の意識がない間でも、ヘルプさんは逐一マップメニューを確認してくれている。

 敵が接近して来たら大音量で通知をしてくれるので、野営中に寝ずの番をする必要はない。

 だからいつも僕とヴィオラは、野営中でも穏やかな睡眠を取ることができているのだ。

 こういった点でも頼もしいヘルプさんである。

 ライアはまたも驚いた様子を見せて、戸惑いながらも女性用のテントの方へ入って行った。

 僕たちはそれを見届けた後、火の始末などに取り掛かる。

 それが済んだら僕たちも寝ることにしようかと、ヴィオラに提案しようとすると……


「ライアちゃんの体質、どうにかならないものなのでしょうか?」


「んっ?」


 不意にヴィオラが、困り顔でそう言った。


「今日だけでもかなりの襲撃に遭いましたし、ここまで魔物に襲われやすい体質なんてすごく可哀想です。それに定期的に儀式も行わなければならないなんて、どうにかして治してあげられないのでしょうか?」


「うーん、どうだろうね。神の愛し子は神様に愛されてるってだけだから、病気や呪いとも違う感じだし、治せるようなものでもないんじゃないかな」


 そもそも神様という存在そのものが曖昧で、本当に実在しているのかさえも怪しいものだ。

 仮に本当にいたとして、そんな存在に愛されているのを治すなんてどうすればいいというのだろう?

 ダメ元でヘルプさんに聞いてみる。


『過去に神の愛し子がその体質を改善したという事例は存在しません。そのため治療方法については情報がなく回答ができません』


 ま、そうなるよね。

 昔の神の愛し子が体質改善に成功しているのなら、その事例を参考にライアの体質も治しているはずだし。

 にしても、神様もはた迷惑なことをしてくれるものだ。

 まあ僕たちは神様からの恩恵にすごく助けられているので、一方的に神様を悪く言えないけど。

 神の愛し子についても、神様がその子のことを気に入り過ぎて多めに恩恵を与えてしまっているというだけだし、結局のところ神様も悪気があるわけじゃないんだよなぁ。


「ヘルプさんにも聞いてみたけど、治療方法はわからないってさ」


「そう、ですか……」


 ヘルプさんからの回答を伝えると、ヴィオラは落ち込むように肩を落とす。

 その様子を見て、僕はふと疑問を抱いた。


「ライアのこと、すごく気に掛けてるね。なんか自分のことみたいにさ」


「そ、そうですかね? まあ、同じ孤児院の育ちなので、親近感みたいなものとかはありますけど」


 きっとその辺りが理由で、ライアのことを自分のことのように心配しているのだろう。

 それと純粋に、ヴィオラが優しい心の持ち主だから。


「というかそれを言うなら、モニカさんの方こそライアちゃんのことをとても気に掛けているんじゃないんですか? 妹さんと同い歳なんですし」


「き、気に掛けているのは確かだけど、別に妹と同い歳だからってわけじゃないよ」


 人を妹好きみたいに言わないでほしい。

 僕は純粋にライアの境遇を可哀想だと思って、助けたい気持ちになっているだけだ。

 ……いやでも、ヴィオラの言うことも合っていると言えるのかな。

 僕は心のどこかで、ライアと妹のコルネットのことを重ねて見ている気がする。

 神の愛し子として悩まされているライアと、呪いに苦しめられているコルネット。

 いまだに妹の呪いを治してあげられていなくて、その罪悪感があるから、せめてライアのことはなんとかして助けてあげたいと考えているのかもしれない。


「妹さん……確かコルネットさんって言いましたよね」


「うん、そういえば前に教えたっけ」


「コルネットさんはどういう妹さんなんですか?」


 思いがけない問いかけを受けて、僕は少々面食らう。

 ヴィオラからコルネットに関して質問を受けるのは初めてだ。


「コルネットのこと気になるの?」


「はい。実はずっと、モニカさんの妹さんってどういう子なのかなと気になっていました。何より兄妹同士ってどういう話をしたり、どんな風に遊んだりするのか知りたいと思っていまして」


 そうだったんだ。

 もしかして貧民街の孤児院育ちで兄弟がいないから、そういう話に興味があったりするのかな。

 思えばコルネットの解呪費集めのために、ヴィオラにも協力してもらっていて、妹のことを何も教えていないのはまずいことだよね。

 僕は火の始末をしようとしていた手を止めて、腰を落ち着けようとヴィオラに促す。

 そして二人して椅子に座ると、遅まきながらではあるけど、僕は妹のことについて彼女に話した。


「コルネットはまあ、一言で言えばすごく活発な女の子だよ」

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