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第五十四話 「守るべき存在」


 神の愛し子の護衛依頼を受けることになって、さっそくくだんの少女に会うことになった。

 トランスの町の近くにある『バラードの町』という場所にいるらしく、半日を掛けてそこへと向かう。

 こぢんまりとしているその町に辿り着くと、ヘルプさんの案内でギルドを訪ねて、受付さんに特別依頼のことを話した。


「祝福の楽団のモニカ様とヴィオラ様ですね。少々お待ちくださいませ」


 そう言ってギルドの裏手に引っ込んだ受付さんは、少ししてから一人の少女を奥から連れてやって来る。

 十四にしてはだいぶ小柄に見える体。

 肩ほどの長さのライトブラウンの髪。

 幼なげな童顔には翳りがあり、淡褐色の瞳には光が宿っていないように見える。

 暗い印象を受けるその少女は、僕たちとは目を合わせようとせず、ずっとそっぽを向いて黙っていた。

 この子が、神様から特別に莫大な恩恵を授かった、神の愛し子。


「こちらが今回、お二人の護衛対象になりますライア様です」


「は、初めまして。僕の名前はモニカだよ」


「……」


 ライアと呼ばれた少女は、チラッとこちらを一瞥するだけで何も返してこない。

 警戒されてしまっているのか、それを見かねたヴィオラが僕に続けて言った。


「私の名前はヴィオラと言います。今回は私たちがあなたのことをお守りしますから、どうか安心してくださいね」


 それでもライアは何も言わない。

 受付さんの背に隠れるように立ち、僕たちから距離を取るだけだった。


「元々、あまり口数が多くない子なので気になさらないでください。いつも護衛を務めてくださっている冒険者パーティーの皆様とも、ほとんど言葉を交わしませんから」


「は、はぁ……」


 大人しめな子なんだな。

 彼女と同い年の妹を僕は持っているけれど、妹はどちらかと言うと活発かつお喋りな性格だったので温度差がすごい。

 魔人に呪いを掛けられてからは落ち着いた感じになったけど、それでもこの子ほど静かではなかったな。

 これから日を跨いでの長旅を共にするので、できればコミュニケーションを取って少しは雰囲気を和ませたいなと思うんだけど。


「本来であれば、いつも護衛を務めている上級冒険者のパーティーに依頼を渡すはずなんですけど、三ヶ月に一度のはずのライア様の体調変化が早めに訪れたため、スケジュールを合わせることができずに祝福の楽団に急遽来ていただきました」


 トランスの町の受付さんが言っていた“諸事情”とはそういうことだったのか。

 本来は三ヶ月に一度の身清(みすす)ぎの儀が、何が原因かわからないけど体調変化が早まってしまった。

 護衛依頼を務めていたのは上級冒険者のパーティーらしいし、忙しくてスケジュールを調整するのも難しかったってことだろう。


「これまでの傾向から、おそらく二週間以内に身清(みすす)ぎの儀を完了しなければ、恩恵の拒否反応が発生すると思われます。それまでにどうかライア様をリミックス高山の山頂まで連れて行っていただけたらと」


「はい、わかりました」


 改めて期限についても教えてもらい、それを念頭に置いて護衛依頼を進めることにした。




 ライアと合流を果たした後、ポップス王国の南西部にあるリミックス高山へ向かうことにした。

 場所的に西部にあるエフェクト廃坑道にファストトラベルしてから向かう方が早いとわかり、さっそく三人で移動する。

 一応、【セーブ】も忘れずに。


「じゃあ、僕の手を離さないようにしてね」


「……?」


 ライアは初めて見るメニュー画面に怪訝そうな様子を見せた。

 まあ色々説明するより見せた方が早いと思って、僕はマップメニューを開く。

 西側にあるエフェクト廃坑道を長押しすると、画面が切り替わって文字列が表示された。


【エフェクト廃坑道に移動しますか?】

【Yes】【No】


 僕は間髪入れずに【Yes】の方を押し、その瞬間視界がぐにゃっと歪む。

 ヴィオラはすでに見慣れた光景のはずだけど、初めてそれを見たライアはビクッと肩を揺らしていた。

 そして気が付けば僕たちは、エフェクト廃坑道の入口へと転移していた。


「さ、さっきまで、町に……」


 ライアは訳がわからないと言うように辺りを見渡している。

 転移魔法も体験したことがないのか、とても新鮮な反応を見せてくれた。

 まったくの無感情というわけではないようで、年相応な反応もしてくれるんだと密かに安堵する。


「今のはファストトラベルって言って、僕が使える力の一つだよ。すごく便利な転移魔法って思ってくれたらいいかな」


「……」


 ライアはぽかんと口を開けて固まった。

 ここまで気軽に使える転移魔法なんか存在しないから、この反応も当然のものだろう。

 他にもメニュー画面には様々な機能があるので、それを見せる度にまた新鮮な反応が見られるかと思うと少しわくわくする。


「さっ、リミックス高山へ向かおうか」


 何はともあれ時間も限られているので、僕たちはやや急ぎ足でライアの身清(みすす)ぎの儀を行えるリミックス高山を目指し始めた。

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