第五十二話 「護衛依頼」
武器の販売を始めて十日が経過した。
たったそれだけの期間で、初日に作った百本の神器はすべて売り切れてしまった。
その合計売却金額、500万ノイズ。
なんと、十日で500万も稼いでしまったのだ。
「……」
「……」
僕とヴィオラはメニュー画面に表示されている『所持金』を見つめながら固まってしまう。
現在の所持金、850万ノイズ。
まさかここまで急速にお金が貯まるとは思ってもみなかった。
鍛冶メニュー、本当に恐るべしである。
ヘルプさんの読みはいつも正しいとはいえ、神器がこんなにも皆の需要を満たすものだとは想定外だ。
「こ、この値段で、こんなにもたくさんの方に買っていただけるなんて思いませんでした」
「ぼ、僕も、まさか十日で全部捌けるとは思わなかったよ」
それほどまでに鍛冶メニューで製作された武器が、僕らの予想を上回る性能をしていたということだ。
まあ、蓄えていた魔物素材を使い切ってしまったので、しばらくは武器販売ができなくなるけど。
ただそれも、また討伐依頼をこなしながら魔物素材も集めていれば、百本分くらいの材料は近いうちに集まるだろう。
それでまた作った武器を売って、再び討伐依頼のついでに素材集めも行っていけば、目標の5000万ノイズまでかなりの早さで到達できるんじゃないかな。
それを考慮して、ヘルプさんに再計算をしてもらった。
『Aランク依頼と鍛冶を両立させていきますと、目標金額の5000万ノイズまでおよそ一年ほどで到達すると予想されます。当初予定されていたSランクへの昇級も不要になりますので、鍛冶メニューの活用を強く推奨いたします』
ヘルプさんからも太鼓判を押してもらえる。
よもや三年もかかると言われていたのに、鍛冶メニューが増えただけで一年に縮まるなんて。
長い道のりだと頭を抱えていたけれど、これならコルネットを救うのにそう時間は掛からなそうだ。
「……希望が、見えてきた!」
というわけで僕たち祝福の楽団は、Aランク依頼を達成する傍らで、武器製作の方も頑張っていこうという方針になったのだった。
そんなこんなでいつも通りの冒険者生活に戻ろうと、ギルドに依頼を受注しに行くと……
「ギルド側から祝福の楽団に対し、特別依頼が発行されております」
「えっ?」
いつかに聞いた台詞を受付さんから言われた。
特別依頼。
およそ一ヶ月前、ポップス王国のレジェール領にて『冒険者狩り』という異名の魔人が冒険者に牙を剥いていた。
本来であればAランク以上のパーティーが討伐を任されるはずだったけど、冒険者の人手不足が重なったことで僕たちにその討伐の依頼が回されてきた。
当時はBランクでAランク相当の依頼が突然来たものだからすごく驚いて、その時のことを思い出しながら僕は返す。
「もしかしてまた、冒険者狩りの時みたいな魔人討伐の依頼とか……?」
「あっ、いえいえ。今回は討伐系統の依頼ではありません。あぁでも、実際に魔物などと戦う機会は多いと思うので、実質的に討伐系統の依頼になりますかね」
「……?」
何やら玉虫色の答えが返ってくる。
討伐系の依頼じゃないけど、実質的に討伐系?
いったいどんな依頼なんだろう?
「詳しくご説明をしますと、今回祝福の楽団に受けていただきたいのは“護衛依頼”になります」
「護衛依頼?」
「本来であれば熟練のAランクパーティーが定期的に請け負っているはずの護衛依頼なのですが、今回は諸事情によりそのパーティーが依頼を受けられなくなってしまいまして」
困り顔を見せた受付さんは今一度僕たちの顔を見て続ける。
「そこで現在、この近辺で活動中の、実力あるパーティーに代わりに護衛依頼を引き受けていただきたく、祝福の楽団が選ばれたということです」
「なるほど……」
この辺りにいるAランク以上のパーティーは忙しい人たちが多い。
特に長期に渡る遠征依頼で不在のケースが多く、現時点で自由に動けるのは僕たちくらいしかいないみたいだ。
それで祝福の楽団にその護衛依頼が回って来たのは理解できるけど、実力のあるパーティーしか受けられない護衛依頼ってどういうものなんだろう?
よほどの重要人物の護衛なのか、それとも危険な道を通ったり暗殺集団に狙われたりしているのか。
まあ何はともあれ断る理由はないし、ギルド側からの特別依頼の達成は良い心象にも繋がる。
受けない手はない。
ヴィオラもきっと了承してくれるはずと思いながら、彼女に確認を取ろうとすると……
「ちなみに成功報酬は500万ノイズとなっております」
「「えっ!?」」
僕とヴィオラの声が重なった。
500万ノイズ!?
そんな高額報酬の依頼聞いたことないぞ。
なおさらこの依頼は受けるべきだと思う傍ら、逆に些細な不安も生まれてきてしまう。
いくらなんでも報酬が高額すぎるので、それ相応に難しい依頼になっているんじゃないかと。
500万の護衛依頼。いったいどんな護衛依頼になっているのか。
「ど、どのような人物の護衛をすればいいんでしょうか?」
緊張しながら問いかけると、受付さんは改めてその護衛対象について教えてくれた。
「『神の愛し子』の護衛です」