第五十一話 「名匠モニカ」
販売向けの武器として以下のようなものを製作した。
『鬼王の角』を素材にした筋力の恩恵値が上昇する武器。
『岩体の核』を素材にした頑強の恩恵値が上昇する武器。
『賢屍の骨片』を素材にした魔力の恩恵値が上昇する武器。
恩恵値上昇の効果は誰にとってもありがたいもの。
それが付与された武器となれば需要が多いのは明らか。
そうでなくても素の性能が店売りの武器以上に優れているので充分に客は呼べるはず。
というヘルプさんの提案を受けて、僕は保管していた上記の素材を使い切って武器を大量生産した。
その数、脅威の百本。
「随分とたくさん作りましたね」
「まあ、指先一つで一瞬で作れちゃうからさ。気付いたらこんな数になってたよ」
メニュー画面をポチポチしているだけでポンポン出来あがっちゃうもんだから、調子に乗って作りすぎちゃった。
それに素材もかなり余っていたし、いくらあっても腐るものでもないから。
アイテムメニューの中に収めておけば腐食する心配もなく、保管場所に困ることもない。
やっぱりアイテムメニューも相当に便利だと改めて感じる。
「ちゃんと売れてくれたらいいなぁ」
次いで僕たちはトランスの町の商業ギルドへと向かった。
この町で商売を始めるには、商業ギルドにて諸々の手続きをする必要がある。
その一、出店許可の取得。
その二、出店場所の確保。
その三、貸借料の支払い。
それらを怠って物を売った場合、厳しい罰則が課せられるとのこと。
ということを、これまたヘルプさんに教えてもらったので商業ギルドで手続きをした。
ヘルプさんの案内に従って滞りなく手続きを済ませて、いよいよ武器販売開始となる。
ちなみに出店場所として選んだのは冒険者ギルドの前の通り。
ここは貸借料が少し高めではあったが、冒険者たちの目につきやすい場所なのでせっかくだから選んでみた。
布を敷いて、その上に作った武器を置いて簡易的な出店が完成する。
「わ、私、お店番なんてしたことないので……どど、どうしたらいいのか……!」
「こ、ここは僕に任せておいてよ」
まあ僕も自信ないけど。
それでも武器を売るために、僕は精一杯の声で客引きをした。
「武器はいかがですか! 色々な種類を揃えてます!」
ここだけはヘルプさんでも助けられない部分なので、僕自身が頑張る他ない。
その懸命な声出しが功を奏したのか、ギルドから出て来たばかりの冒険者パーティーが足を止めてくれた。
「おい、こんな場所で武器売ってるぞ」
「見かけたことねぇ武器商人だな」
男性二人組の冒険者パーティー。
彼らは並べられた武器を物珍しげに見つめていたので、『どうぞ手に取ってみてください』と声を掛けた。
すると二人は歩み寄って来て、各々僕が作った武器をじっくりと見始める。
「ほぉ、こいつは大したもんだ。見ただけでかなりの業物だってわかる」
「んっ? なんか不思議と、持ってるだけで力が湧いてくるような……」
「あっ、そのままご自身の恩恵を確かめてみてください」
そう勧めると、二人は怪訝な顔を見合わせた。
けれど深く問いかけてくることはなく、冒険者の必須道具である『手鏡』を取り出して恩恵を確かめてくれる。
男性二人の【恩恵を開示せよ】という声が重なった次の瞬間、彼らの目が大きく見開かれた。
「はっ!? なんで筋力がこんなに上がってんだ……!」
「ホントだ! 俺の方も恩恵の数値が上がってるぞ!」
「僕が作った武器には特殊なスキルが宿っていまして、装備した人の恩恵を増幅させる効果があるんですよ」
「「……」」
二人は揃ってぽかんと口を開ける。
ちなみにこういう武器スキルの効果は、基本的に最初に装備した一本だけが適応されるようになっている。
二本や三本も装備して恩恵値爆上がり! みたいなことはできないということだ。
まあ一つだけでも相当な効果が得られるから充分だけど。
「お、恩恵を、増幅させる効果……!」
「武器を装備するだけで、それだけの効果を……!」
二人はわなわなと体を震わせながら、声を揃えてこう言ってくれた。
「「こ、この武器買わせてくれ!」
「は、はい! ありがとうございます!」
僕は内心で大きく胸を撫で下ろす。
本当にちゃんと冒険者の人たちに武器を買ってもらえた。
ヘルプさんの言った通りだ。
やっぱり鍛冶メニューで作った武器には、間違いなく冒険者たちに需要がある。
僕も嬉しさから密かに体を震わせていると、不意に男性から思いがけないことを問いかけられた。
「で、こいつは一本いくらなんだ?」
「あっ、そうですね……」
やばっ、値段のことを決めるのをすっかり忘れていた。
どうしよう、武器の相場なんてまったく想像がつかないぞ。
確か前に見た武器屋の剣の値段が、3000ノイズだった気がする。
でもあそこは安物の鉱石を使っていて質はあまり良くなかったし、僕の武器の場合はスキルも付与されているからなぁ……。
あっ、こういう困った時は、いつものあの方に。
(ヘ、ヘルプさん、一本いくらくらいで売ればちょうど良さそうかな?)
頭の中で密かに問いかけると、ヘルプさんは即答してくれた。
『各店舗で販売されている武器の性能と値段を基準に、アルモニカ様の武器の性能から算出される適切な販売金額は……およそ50000ノイズになります』
「えっ!?」
50000ノイズ!?
Aランクの冒険者依頼の報酬、丸々二つ分の値段じゃないか。
規格外の武器とはいえ、それはいくらなんでも高すぎなんじゃ……
でも、あのヘルプさんがこう言ってるんだし、試しにこの値段を提示してみようかな。
ぼったくりとか言われたら嫌だけど。
「え、えっと、一つ50000ノイズになります」
「「なっ!?」」
男性冒険者二人は驚いた反応を見せた。
ほら、やっぱり。
いくらなんでもこの値段は高すぎだよね。
Aランクの冒険者依頼を二つ達成して、その報酬金を丸々注ぎ込まなきゃ買えないわけだから。
そりゃこの冒険者さんたちもこんな顔になるのも当然……
「こ、こんなすげえ武器がたったの50000ノイズかよ!」
「ぜ、是非俺らに買わせてくれ!」
「……」
予想と反した言葉を返されて、今度はこちらが唖然とする番だった。
そっちの意味の驚きだったんだ。
これだけすごい武器がたったの50000ノイズで衝撃的だったと。
僕としては、指先一つを動かしただけでパッと作ったものだから、そこまで価値を感じてもらっていることに違和感を覚えるんだけど。
すると二人組は合わせて10万ノイズを支払って、筋力の恩恵が上昇する剣と斧を買って行った。
「やりましたねモニカさん。ちゃんと買ってくれましたよ」
「う、うん。思った以上に好感触で、正直びっくりしてるよ」
スキルが宿った武器ってここまで需要があるんだ。
まあ、そうでなくても鍛冶メニューで製作した武器は性能そのものが良質だからね。
それだけでも相当な価値があると思ってもらえたんじゃないかな。
この調子で少しずつ製作した武器を売っていこう。
というか一本50000ノイズで買い取ってもらえるなんて。
これならAランクの依頼を受けるよりも、ひたすらに武器を作って売った方が早くお金を稼げるんじゃないかな。
けどそれも今みたいに順調に売れ続けてくれたらの話だけど。
とりあえず一週間くらいは続けてみようかな。
というわけで僕は、少しでも解呪費の足しになればと思って、懸命に呼びかけを続けたのだった。
それから一週間後。
「ここが神器を売ってるっつー武器屋だよな!?」
「俺にも神器を売ってくれ!」
「10万……いや20万ノイズ払うからよ!」
僕の簡易的な武器屋の前には、二十を超える冒険者の人だかりが出来ていた。
大人気店の大行列のようである。
どうやら、とある冒険者が僕の武器を使って、危険指定されていた大型の魔物を討伐したらしい。
それによって僕の武器の噂が広まり、スキルが付与されていることから“神様が作ったような武器”として『神器』と呼ばれるようにまでなった。
そしてそれを求めて、冒険者たちが押し寄せて来る事態にまでなったということである。
「俺も恩恵が上昇する武器が欲しいんだ!」
「他にはどんな武器があるんだ!」
「頼む、全部見せてくれ!」
「えっと……」
想像以上に大盛況して困惑しています。