第五話 「万能」
ヘルプさんの力を色々と試した結果、一つ明確にわかったことがある。
このヘルプさん、かなり“万能”である。
“豊富な知識”を用いて、僕が疑問に思ったことには何でも答えてくれる。
例えば……
「この近くに高く売れそうなものとかあるかな?」
『そちらの茂みに生えている水色の薬草は、“フェアリーリーフ”と言ってスコア大森林でのみ僅かに採取が可能な希少な薬草となっております。高品質の傷薬や解毒薬の材料になり、カントリーの町で売却すれば100ノイズ、行商人に売却した場合は250ノイズで買い取っていただけます』
「えっ、この草が?」
そこら辺に生えている薬草や木の実の性質も教えてくれて、それによって改めてこの辺りには換金できる品が多いとわかった。
そのため【アイテム】の中には換金材料がたくさん増えていき、今から町でお金に換えるのが楽しみである。
また、ヘルプさんは優れた“計算能力”や“解析能力”も備えており、知識以外の形でも質問に答えてくれたりする。
今の天候から雨が降る確率を割り出してくれたり、拾った鉱石や木材を一つ一つ分析して性質を教えてくれたり。
と、こんな風にヘルプさんは多方面で手助けをしてくれる。
博識であり、聡明であり、解析能力も備えている超万能なオトモなのだ。
気が付けば僕は言葉遣いも砕けていて、町に戻る道すがらヘルプさんにこんな質問までした。
「僕、妹のコルネットの呪いを治すために、莫大な解呪費を集めようとしてるんだ。その解呪費を稼ぐ一番の近道って、ヘルプさんはなんだと思う?」
『コルネット様の呪いから算出される解呪費用は、総額5000万ノイズ。そちらを最短で取得するには……』
ヘルプさんは少し考えるように間を置き、直後に無感情な声音で返答した。
『“盗賊”になるのが一番かと』
「一番ダメでしょそれ!」
いや、確かに大金をいち早く稼ぐなら、盗みやら犯罪に手を出すのが一番の近道だと思うけど。
そんなお金で助けられたってコルネットは喜ばないぞ。
ていうか今のは僕の質問の仕方が悪かったかな。
「も、もっと平和的に、真っ当な方法で稼ぐなら、一番の近道って何かな?」
『現在のアルモニカ様の状況から考えますと……冒険者として大成するのが最適かと』
「やっぱそうだよねぇ」
田舎の農村生まれの平凡な少年が、大豪邸を五つほど建てられるほどの大金を稼ぐにはそれしかないよね。
ヘルプさんがこう言うのだから、僕の考えは間違っていなかったようだ。
ただそうなると、一つの不安が胸中に湧いてくる。
「僕、これからちゃんと強くなれるかな? 冒険者として成功できるくらい強く……」
『メニュー画面のシステムレベルを上げていけば、次々と機能が拡張されます。戦闘でも役立つ機能が解放されれば、冒険者として成功するのも不可能ではないかと』
「機能の拡張、か……」
今回新しくメニュー画面に増えたヘルプさんみたいに、他にも別の機能を解放すれば強くなれるってことか。
確かにヘルプさん自体も戦闘ではかなり役立つし、さらに戦闘向きの能力が目覚める可能性だってある。
僕の【メニュー】スキルは、戦闘系の能力ではないと思ったけれど、システムレベルの存在に気付いたおかげでその認識はぐるりと変わった。
僕はまだまだ、強くなれる。
というわけで、ヘルプさんの助言に従ってさっそくシステムレベルを上げようとする。
お金がないことも忘れて、再び『メニュー詳細』からシステムレベルの文字を押してみると……
【システムレベルを上げますか? 必要金額:30000ノイズ】
【Yes】【No】
「30000!?」
想定外の金額が提示されて、僕は目をギョッと見開いた。
ヘルプさんを覚醒させた時は10000だったはずなのに、突然30000ノイズへの値上げ。
な、なんで……?
『システムレベルは高くなるほど、上昇に必要な資金が高額になっていきます』
「なんでそんな世知辛い仕組みになってるの!?」
お金を欲している僕から、これ以上何も搾取しないでくれ。
妹の呪いを治すためにも、強くなるためにも、お金が必要になるなんて本末転倒じゃないか。
だがしかし、ヘルプさんのような優秀な機能が他にも覚醒すると考えたら妥当な値段なのか。
ずっと一律10000ノイズでシステムレベルを上げられたら、我ながら反則だと思うし。
それに今回のヘルプさんみたいに便利な機能が覚醒すれば、それに使ったお金も結果的にはすぐに回収することができる。
躊躇って貯金に回すよりも、システムレベルは積極的に上げていった方がいいだろうな。
にしても、ヘルプさんより高額な30000ノイズも必要とする“新機能”って、いったいどういうやつなんだろう?
「ヘルプさん、次に解放される機能ってどんなものかわかる?」
『申し訳ございませんが、そちらは回答いたしかねます』
「えっ、どうして?」
『アルモニカ様のメニュー画面がどのように変化していくのかは未知数です。現存しているスキルの中に類似したものもなく、スキルの解析もできないため、予測は不可能となっております』
「そ、そうなんだ……」
現存しているスキルの中に、【メニュー】に似ているものってないんだ。
という新情報よりも、ヘルプさんにも答えられないものがあるのだとわかったことの方が衝撃的だった。
こうなるとメニュー画面がどう変わっていくかは、実際にシステムレベルを上げるまではわからない。
それに一度システムレベルを上げたら、強制的に【セーブ】が執行されてしまうから、なかったことにはできないし。
「そういえば、ヘルプさんには【セーブ】と【ロード】のことを言っても大丈夫なんだよね? 第三者が知った時点で時間が戻っちゃうはずだけど……」
『私はあくまで【メニュー】スキルの機能の一部ですので、第三者には該当いたしません。【セーブ】と【ロード】の存在もすでに承知しており、時間を巻き戻した場合も記憶を引き継いだ状態が維持されます』
「えっ、僕だけじゃなくて、ヘルプさんも【ロード】前のことを覚えておいてくれるってこと?」
“左様でございます”と相変わらず無感情な声音で返事をしてくれる。
これまで【セーブ】と【ロード】を使った場合は、僕だけが【ロード】する前の記憶を持っていたけれど……
今後はヘルプさんも覚えておいてくれるってことかな?
それはなんだか、とても心が軽くなる。
実を言うと、【セーブ】と【ロード】を使って時間を巻き戻すのは、あまり好きではないのだ。
僕だけしか覚えていないことがあるというのは、なんだかすごく寂しいと思っていたから。
仲間が死んだ時のことなんか、自分しか覚えていないというのはかなりしんどいし、ヘルプさんだけでも同じ記憶を共有できているというのは心の救いだ。
「改めて、これからよろしくね、ヘルプさん」
『よろしくお願いいたします。精一杯アルモニカ様のお手伝いをさせていただけたらと思います』
なんだか堅苦しい挨拶を返されてしまったが、こうして僕はヘルプさんというとても心強い味方を得たのだった。
「じゃあさっそく、カントリーの町で今一番手頃な宿屋さんがどこか教えてくれる? 安くてそれでいて綺麗な場所がいいなぁ」
『町の西部にある商店通りの一角に、“雛鳥の止まり木”という宿屋があります。そちらでしたら値段も手頃で内装なども整っております』
ヘルプさん、超便利。