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第四十九話 「専用武器」


 ヴィオラにも改めて鍛冶メニューの全貌を明かすと、彼女も驚いた反応を見せた。

 そして『是非私の武器も作ってほしいです』とお願いされる。

 僕も自分の武器が欲しかったので、僕たちは武器作りのために素材集めをすることにした。

 今後の魔物討伐でも役立つことは間違いないし、鍛冶メニューなら僕にぴったりの武器が作れると思うから。


『モニカさんは武器を持たないんですか?』


 以前ヴィオラにこう尋ねられたことがある。

 彼女はパーティーメンバーとして僕の戦いをいつも隣で見ていて、ずっと素手で戦っていることに違和感を抱いていたらしい。

 僕自身、物理的な打撃が通用しづらい魔物もいるから、武器を持って戦いたいとは前々から思っていたけど……


『僕の筋力値に耐え切れるだけの武器が、なかなか見つからないからさ』


 ステータスメニューによって僕の筋力恩恵値は、前人未到の“1000”を超越している。

 それこそが僕がAランクパーティーで戦えている理由であり、同時に見合う武器が見つからない原因でもあった。

 筋力恩恵値1000超えの人間に持たせられる武器なんて早々見つかるはずがないからね。

 だから今まで素手や蹴りで魔物をぶっ飛ばしていたけれど、今回手に入れた鍛冶メニューの機能なら、僕に合った武器もきっと作り出せるはずだ。


 というわけでさっそく翌日から、素材集めのためにある場所へと向かうことにした。


『ポップス王国の西部に、魔物の大量発生により放棄された“エフェクト廃坑道”という場所があります。そこでは鉱石を餌にする【結晶竜(ファフニール)】が出没し、【結晶竜(ファフニール)の輝石】を素材にすることで武器がまったく損耗しなくなる【不滅】というスキルを宿した武器が製作できます』


 僕が求めている武器は、圧倒的な筋力にも耐えうる強固な武器。

 そのことをヘルプさんに相談すると、上記の答えが返ってきた。

 というわけで僕たちはその提案に従い、ファストトラベル機能を使って再びポップス王国へと戻って来る。

 そして西部地区にあるエフェクト廃坑道なる場所へ向かい、程なくして到着した。


「マップメニューによると、結晶竜(ファフニール)は廃坑道の途中にある拓けた場所に住み着いてるみたいだ。その一匹を目標に進んでいこうか」


「はい!」


 そう言い合って、改めて坑道を進み始めた。

 すでに人の手が介入していない坑道で、あちこちに魔物もいて道に迷いそうになる。

 けれどマップメニューの機能で敵の位置や道順も手に取るようにわかり、僕たちは文字通り躓くこともなく奥へと進むことができた。

 やっぱりメニュー画面は色々と便利だ。

 ちなみに鍛冶メニューを覚醒させた後、また何か驚きの機能が解放されないかと思って、再びシステムレベルを上げようとしてみたのだが……


【システムレベルを上げますか? 必要素材:黒妖精(デスピクシー)の羽】

【Yes】【No】


 なんと今度はお金ではなく、魔物の素材を要求されるようになってしまった。

 支払い金額が100000ノイズにまで到達し、そこでキリ良く条件が変更されたということだろうか?

 まあお金を減らさずに済むのはすごくありがたいことだけど、特定の魔物の素材が必要になったせいで上げる難易度はむしろ増してしまったように思える。

 何よりこの必要素材は、ヘルプさんいわくかなり希少なもののようだ。

 魔物自体の出現率も非常に低く、狙って取りに行けるようなものではないらしい。

 しばらくはメニュー画面のシステムレベル向上は見込めそうになかった。


「頑丈な武器が欲しいと言っていましたけど、具体的にどんな種類の武器を作ろうと思っているんですか?」


「あぁ、それなんだけど……」


 僕は懐から使い古されたナイフを取り出しながら、ヴィオラの問いかけに答えた。


短剣(ナイフ)にしようかなって思ってるよ」


「えっ? ナイフ、ですか……?」


「やっぱり前々から使い慣れてる武器だし、作るならナイフかなって」


 ヴィオラは怪訝な顔をする。


「確かモニカさん、以前は筋力がないせいでどの武器も持てなかったって言っていませんでした? それで仕方なくナイフを使っていたと。ですから筋力を上昇させた今は、色々な武器を扱えるようになったんじゃ……」


「うーん、そうなんだけどね。でも結局、筋力があっても武器の扱いに慣れてないと実戦では使えないかなって思ってさ。何より剣とかで戦うよりも、僕の場合は筋力でゴリ押した方が早いし」


 ナイフはあくまで格闘が通用しない相手用。

 基本的な戦闘はやはり格闘を主軸にしていった方がいいと僕は思ったんだ。


「あとナイフなら、製作の材料も他と比べて少なくて済むみたいだから、とりあえず最初に作るならちょうどいいかなって」


「なるほど、ナイフだと小さいので使う材料が少なくなるんですね」


 ヴィオラも納得したように頷いてくれた。


「まあ確かにモニカさんの場合は、武器自体が必要ないくらい強いですからね。でもあとから『やっぱり剣がよかったー』とか『ハンマーに変えて叩き潰したいー』なんて子供みたいなこと言わないでくださいよ」


「あ、あはは……」


 僕なら確かに言いそうである。

 そんな話をしている間に、気が付けばくだんの結晶竜(ファフニール)が居着いている広間の直前までやって来ていた。

 僕とヴィオラは壁の方に寄りながら、ひっそりと広間の方を窺う。


「グルゥゥゥ……!」


 廃坑道の拓けた場所には、全身に透明な水晶を纏った竜がいた。

 廃坑道に住み着いているだけあって体はそこまで大きくないが、鉱石を餌にしているからか牙と爪が恐ろしいまでに鋭くなっている。

 壁を削って鉱石を掘り出すための爪と、鉱石を噛み砕くための牙。

 あれが結晶竜(ファフニール)


『かつてエフェクト坑道で採掘業を行っていた坑夫たち数十名の命を刈り取った竜種の魔物。討伐推奨ランクはA。お二人の力でしたら討伐は容易かと思われます。全身を強固な結晶で覆っていますが、熱に弱いためまずはヴィオラ様の魔法で結晶を剥がすことを推奨いたします』


 というヘルプさんの助言を受けて、開幕の初撃をヴィオラにお願いする。

 そして鎧となっている結晶が剥がれたところで、僕が接近して力で押し倒すことになった。

 手短に作戦会議を終えると、ヴィオラが杖を構える。


「【ブレイズレイン】!」


 そう叫びながら結晶竜(ファフニール)に杖の先端を向けると、奴の頭上に橙色の雲が発生した。

 直後、雲の中から細い炎が雨のようにして降り注ぐ。

 ヴィオラが習得している炎魔法の一種。

 あまりにも唐突に降り注いだため、結晶竜(ファフニール)は避けることができず全身に炎の雨を受けた。


「グガアアアァァァ!!!」


 見ると、奴を覆っている透明な結晶が、炎に洗い流されていくかのようにドロドロと落ちていった。

 ヘルプさんの情報の通り熱に弱いらしい。

 これで結晶竜(ファフニール)を守る結晶の鎧は完全に失われた。


「――っ!」


 すかさず僕は走り出す。

 その気配を悟った結晶竜(ファフニール)が、魔法を受けた怒りを僕にぶつけるように、鋭く大きな爪を振り上げた。


「ガアアッ!」


 高速で振り下ろされたその一撃を、僕は横に飛んで危なげなく回避する。

 攻撃直後で隙を晒す結晶竜(ファフニール)に肉薄し、結晶が禿げた横腹に全力の蹴りを叩き込んだ。


「う……らあっ!」


 ドゴッ!!! と鈍い音が鳴り響く。

 その衝撃が風となって吹き荒れて、結晶竜(ファフニール)の肉体も超速で壁の方に飛んで行った。

 勢いよく壁に激突すると、坑道全体が激しく震えて、結晶竜(ファフニール)はそのまま力なく地面に倒れ込む。


結晶竜(ファフニール)の絶命を確認。戦闘お疲れ様でした』


「ありゃ、見た目より脆い奴だったな」


 いや、ヘルプさんの助言とヴィオラの魔法のおかげか。

 あの強固な結晶の鎧を剥がせたから容易く討伐することができたんだ。

 奴も今まで強固な結晶に守られていたから、生身の肉体を打たれることに慣れていなかったんだと思う。


「ヴィオラ、開幕の初撃ありがとね」


「いえ、お役に立てたのなら何よりです」


 視認した魔法を習得し扱うことができる『賢者の魔眼』を持つ魔法少女ヴィオラ・フェローチェ。

 魔力値が低いせいでその潜在能力を活かし切れていなかった彼女も、パーティーメニューの機能によって魔力値を極限にまで高めることができた。

 そんな彼女に欠点はもうなく、幾百幾千の魔法を高水準で扱うことができる。

 ヴィオラがいてくれたから的確に結晶竜(ファフニール)の弱点を突くことができたので、僕一人だけだったらかなり時間が掛かっていたことだろう。

 お互いに健闘を称え合った後、ヘルプさんの助言に従って結晶竜(ファフニール)から素材を採取することにした。


『武器製作で使用する結晶竜(ファフニール)の素材は、【結晶竜の輝石】となっております。背中部分に結晶とはまた別の、一際明るい鉱石が埋め込まれているのでそちらを採取してください』


 見ると、確かに結晶竜(ファフニール)の背中にはポツポツと光る石が埋まっていた。

 ヴィオラが剥がした結晶と少し似ているが、石自体から光が放たれていて一層綺麗に見える。

 それをナイフを使って慎重に掘り出し、なんとか傷付けずに七つほど採取できた。


「おぉ、綺麗……!」


「まるで宝石のようですね!」


 透明でありながら中から神秘的な光が放たれている結晶石。

 確認のためにアイテムメニューの中に押し込むと、確かにそれは『結晶竜の輝石』という名前の素材だった。


「これで鍛冶メニューの製作のところに、新しい武器名が追加されてるんだよね」


 僕は指を小気味よく動かして、ピッピッピッとメニュー画面を操作する。

 鍛冶メニューから製作メニューへ移り、武器の種類の中から【短剣】を選択する。

 そして出て来た画面を下の方に動かしていくと、前に見た時にはなかった【竜晶の短剣】なる武器名が新たに出現していた。

 タンッとそれを押してみる。


◇竜晶の短剣◇   ◇必要素材◇

攻撃力:300   結晶竜の輝石×3

耐久力:ーーー

スキル:【不滅】


【竜晶の短剣を作製しますか?】

【Yes】【No】


 必要素材がたった今手に入れたばかりの『結晶竜の輝石』になっている。

 そしてスキルは【不滅】。

 ということはこの武器が、ヘルプさんが教えてくれた絶対に破損することがない不変の武器か。

 おまけに攻撃力が300もある。

 店売りの標準の剣とは比べ物にならないほどの切れ味だ。

 まさに僕が求めていた最高の武器。

 僕は迷わず、【Yes】の方に指を伸ばした。


【竜晶の短剣を作製しました】


「……出来た」


 こんなにもあっさりと。

 アイテムメニューの中から、出来たばかりの『竜晶の短剣』を取り出す。

 すると透き通るように綺麗なナイフが手元に落ちてきた。

 宝石のように輝いて見えるそれを感動しながら見つめていると、ヴィオラも驚いたように僕のナイフに釘付けになる。

 次はヴィオラの武器を作ってあげなくちゃね。

 僕の武器を作るのにも協力してもらったし、ますます祝福の楽団の戦力を増強させたいから。

 そう思って、ヘルプさんに『ヴィオラにはどんな武器を作ってあげたらいいだろう?』と問いかけようとすると……


 不意にヘルプさんが、面白い提案をしてきた。


『これほど強力な武器ならば、かなりの需要があると思われます。他の冒険者たちに向けて販売するのはいかがでしょうか』


「えっ……?」

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