第四十八話 「武器製作」
ヘルプさんから教えてもらった情報を、改めてヴィオラにも共有する。
すると彼女も、僕と似たような反応を示した。
「ヘルプさんから教えてもらったんだけど、この鍛冶メニューは武器が一瞬で作れるみたいなんだ」
「い、一瞬で!? わざわざ加工する手間とかが必要ないということですか」
「それと、魔物の素材を用いて製作するから、強力なスキルも付与されるみたいだよ」
「……」
ヴィオラが口を開けてぽかんと固まっている。
無理もない。
スキルについては定かではないけど、瞬時に武器を作り出すだけでもとんでもない機能だからね。
とりあえずどのような使用感なのか、試しに少しだけ鍛冶メニューを触ってみることにした。
まずは最初の画面まで戻る。
◇メニュー◇
【アイテム】
【ステータス】
【パーティー】
【マップ】
【鍛冶】
【ヘルプ】
【セーブ】
【ロード】
例に漏れず、鍛冶メニューも最初の画面に新しく追加されていた。
人差し指でそれに触れると、水音が鳴って画面が切り替わる。
◇鍛冶◇
【製作】
【修復】
「これが、鍛冶メニュー……」
製作は武器の製作ができる項目だろう。
でもこの『修復』がどういう機能なのかはさっぱりわからない。
これも鍛冶メニューの機能の一つだよね?
『【修復】メニューは所持している武器防具の損耗を、必要金額を支払うことで一瞬で直すことができます。損耗具合によって必要金額が変動し、完全破損していたとしても修復が可能です』
おぉ、これもかなり便利そうな機能だな。
武器だけでなく防具の損耗も一瞬で直してくれるなんて、すごく助かる。
もしかしたらこれ、日用の服とかのほつれも直してくれるんじゃないかな。
それも後ほど試してみるとして、とりあえずは“製作”のメニューを覗いてみることにした。
ポチッと。
◇製作◇
【直剣】
【大剣】
【短剣】
【槍】
【大槍】
【斧】
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「最初に武器の種類を選択するのか」
製作メニューに表示された武器の種類を見て、僕は一人でこくこく頷く。
画面の下の方にもまだ武器の種類は続いていて、作れる武器の種類は割と豊富なようだった。
ヴィオラがいつも使っている、魔力の増幅を促せる“杖”も作れるみたいだ。
ヴィオラの武器も後々作ってあげることにして、ひとまずは一番上の『直剣』を選んでみることにする。
もう一回ポチッと。
◇直剣◇
【樹魔の木剣】
【魔偶の石剣】
【骨人の削り刃】
【巨蜂針の細剣】
【竜角の直剣】
:
:
:
「えっ、こんなに種類あるの……!」
豊富な武器の種類に負けず劣らず、というかそれ以上に凄まじい数の種類だった。
下の方にもまだまだ名前が続いていて、直剣だけでも二十以上の種類がある。
どれを作ればいいか迷ってしまうほどだ。
どうやら表示されている武器は、素材が足りていて現在製作可能なものらしい。
アイテムメニュー内に他の魔物の素材があれば、さらに製作可能な武器は増えるようだ。
ここまで色々な魔物の素材を武器の材料にできるとは思わなかった。
「と、とりあえずは、この『樹魔の木剣』を作ってみることにしよう」
僕はそう言いながら、一番上の【樹魔の木剣】を指で押してみた。
◇樹魔の木剣◇ ◇必要素材◇
攻撃力:100 樹魔の梢×1
耐久力:250 樹魔の枝×5
スキル:【光合成】
【樹魔の木剣を作製しますか?】
【Yes】【No】
そんな画面が出てきて、僕は自ずと首を傾げる。
「攻撃力? それにこのスキルは……?」
なんのことだかさっぱりのことが多かった。
耐久力は武器の耐久性に関する事柄というのはまあわかる。
でもこの“攻撃力”って、具体的に何を示した数字なんだろう?
『攻撃力は武器としての有用性――鋭利性や硬度などを総合して算出された数値になります』
「それってつまり……」
剣で言えば“切れ味”に関する数字ってことか。
切れ味100。これがどの程度の凄さなのかいまいち判断ができない。
なんてことを思うと、その疑問を感じ取ってヘルプさんが続けて教えてくれた。
『参考までに店売りの標準の鋼鉄の剣は、攻撃力耐久力ともに数値で示すと平均“50”ほどとなっております』
「えっ……」
じゃあこの【樹魔の木剣】は、店で買う剣よりもずっと性能がいいってことか。
切れ味はもちろん耐久力も随分と上だし、鍛冶メニューで製作する武器の方が高性能である。
で、一番の疑問であるこのスキルについても、ヘルプさんに教えてもらおうかな。
『こちらの【樹魔の木剣】に付与される【光合成】のスキルは、日を浴びている間【樹魔の木剣】の損耗が自動的に修復されていきます』
「自動修復……?」
剣の刃こぼれとか傷を、日照を受けることで回復させることができるのか。
確かに普通の剣にはないような特別な力が宿るようだ。
スキルとは本来、十二になった人間が神様から恩恵と共に与えてもらう超常的な力。
それを武器に付与できるのは規格外の能力だと言えるけれど、正直それだけの効果だと肩透かし感が否めない。
と、思っていたら、続くヘルプさんの説明で前言を撤回させられることになった。
『同時に、装備者の肉体の傷も日を浴びることで自動的に治癒されるようになります』
「えっ!?」
装備している人の傷も?
それはあまりにも強力すぎる。
装備者に自動治癒の能力を付与する剣なんて……
そして僕はお試しで、『樹魔の木剣』の作製をしてみることにした。
右手の人差し指を伸ばして、【Yes】の文字をぐっと押す。
すると……
【樹魔の木剣を作製しました】
簡素なその文だけが、目の前に表示された。
そしてすぐにそれは閉じてしまい、『◇直剣◇』の画面に戻る。
「い、今ので、剣が出来上がったんでしょうか?」
「さ、さあ?」
作製したとは書かれていたけど、手応えはまったく感じなかった。
ていうかその剣はどこ? まさか【アイテム】メニューの中に入っているとか?
確認のために、僕は最初の画面に戻って【アイテム】メニューを覗いてみる。
するとそこには予想通り、『樹魔の木剣』が入っていた。
試しに顕現させてみると、異様な雰囲気を帯びた木製の直剣が手元に現れる。
「ちゃ、ちゃんと出来てる……」
「本当に一瞬で武器が出来上がってしまいましたね……!」
ヘルプさんから聞いた通りとは言え、本当に一瞬の出来事で驚かされた。
しかもそれは店売りの剣よりずっと優れた性能をしていて、おまけに超常的なスキルまで宿っている。
「鍛冶メニュー、すごいかも……!」
10万ノイズを支払った価値は充分にある機能だ。
他の武器にはいったいどんな破格のスキルが宿るのだろうか。
やばい、色々と調べたくなってきた!
僕は新しいおもちゃを買い与えてもらった子供のように、高揚感を迸らせたのだった。