第四十七話 「鍛冶メニュー」
繰り返すようだけど、僕は【メニュー】というスキルを持っている。
十二歳の時に神託の儀を受けて、この規格外のスキルを授かった。
人差し指で何もない空間を下から上になぞるように弾くと、メニュー画面が現れる。
そのメニュー画面には様々な機能が搭載されており、ここまで僕はたくさん助けられてきた。
道具を無限に収めることができる【アイテム】メニュー。
自分の恩恵の数値を自由に変更できる【ステータス】メニュー。
仲間の恩恵の数値まで変更できる【パーティー】メニュー。
敵の位置などを地図上で示し、ファストトラベルもできる【マップ】メニュー。
あらゆる情報を参照して最適な回答をくれる【ヘルプ】メニュー。
時間を記録することができる【セーブ】メニュー。
記録した時間に戻ることができる【ロード】メニュー。
思い返すと、本当に随分と機能が充実してきた。
最初は【アイテム】と【セーブ】と【ロード】しかなかったんだから。
そのせいでただの荷物持ちだった僕はSランクパーティーから追い出された。
でも後になってメニュー画面に“システムレベル”なるものがあると判明。
それを上げたことで新しい機能が解放されて、ここまで能力を増やすことができた。
Aランクに昇級してからはシステムレベルを上げていなかったので、ヴィオラはそれを疑問に思っていたみたいだ。
「確かシステムレベルを上げるには、お金が必要なんですよね? 少しでも貯蓄に回したいから、システムレベルを上げなかったんですか?」
「うん、今のままでも充分にAランクの依頼は達成できてるからね。新しい機能も必要ないかなって思ってさ。それに次に掛かる費用が10万ノイズだから」
正直10万ノイズくらいはポンと出せるくらいにはなったけどね。
ただ少しでも貯蓄に回したい気持ちが強くて足踏みをしている。
システムレベルを上げた方がいいんだろうか? それともこのままが正解なのか?
二人で宿部屋に入り、お互い身軽な格好でくつろぎ始めたタイミングで僕はヴィオラに問いかけた。
「ヴィオラはどっちがいいと思う? システムレベルを上げた方がいいか、今のままでいいか」
「うーん……私としては、メニュー画面に新しい機能が覚醒するのは見ていてとても面白いので、上げてもらいたいなぁと思いますけど。それにもしかしたら使い方によっては、Sランクへの昇級を早めることができる機能かもしれませんよ」
「……そっか」
僕自身、できることが増えるのは面白いし純粋に嬉しい。
それにヴィオラの言う通り、Sランク昇級への足掛けになってくれる可能性もある。
10万ノイズは痛いけど、その機能によって10万ノイズもすぐに取り返すことだってできるかもしれないからね。
ちなみにヘルプさんはどう思う?
『申し訳ございませんが、そちらは回答いたしかねます。以前もお答えした通り、アルモニカ様のメニュー画面がどのように変化していくのかは未知数です。解析も予測も不可能なため、こちらからは賛同も否定もできません』
そういえばそうだったね。
ヘルプさんはあくまで現存する情報を参照して回答を出してくれる。
メニュー画面内の機能を解析する力も持っているけど、次に覚醒する機能までは予測ができない。
それとシステムレベルを上げた瞬間に自動的にセーブ機能が起動されるので、時間を巻き戻すこともできないのだ。
となると博打覚悟でやってみるしかないよね。
「じゃあせっかくだから、システムレベル上げてみようかな」
「あっ、私にも見せてください!」
ベッドに腰掛けている僕の隣に、ヴィオラが素早くやって来る。
するとヴィオラは不意に僕の顔を見ると、ピタッと体を硬直させた。
直後、ハッと何かに気付いたように目を見開き、なぜか少しだけ僕から距離を空ける。
その意味はよくわからなかったけれど、とりあえず僕は彼女にも見せるようにメニュー画面を開いた。
ヴィオラが首を伸ばしながら見守ってくれる中、僕は『◇メニュー◇』と書かれている文字列をタンッと押す。
◇メニュー詳細◇
システムレベル:5
フォント:タイプ1
ウィンドウカラー:タイプ1
サウンドエフェクト:50
次いでシステムレベルの文字に触れると、脳内に雨粒が滴るような音が響き渡って見慣れた文が現れた。
【システムレベルを上げますか? 必要金額:100000ノイズ】
【Yes】【No】
僕は『Yes』の方におもむろに指を伸ばしていき、高揚感を味わいながらぐっと強く押す。
すると再び頭の中に水音のようなものが響き、目の前の画面が切り替わった。
【システムレベル上昇 鍛冶メニューが解放されました】
鍛冶メニュー?
なんだか今まで見た中で、それなりに機能が予想できそうなメニューだった。
「鍛冶メニュー? “鍛冶”と言うと、“武器”の製作に関することでしょうか?」
「う、うん、たぶんそうだと思うよ」
これまでは【ステータス】やら【マップ】やらと意味がわかりづらいものが多かった。
けど今回の【鍛冶】に関してはかなりわかりやすい気がする。
これはおそらく武器を作れる機能ではないだろうか?
それならまあ、それなりに使いやすい機能だと思う。
冒険者なら武器は必須だし、僕もそろそろ武器の一つでも持とうかなって思っていたから。
果たして10万ノイズを支払うほどの価値があったかどうかはわからないけど。
『新機能“鍛冶メニュー”を解析…………解析完了』
そんなことを考えている間に、ヘルプさんが相変わらずの素早さで解析を終えてくれる。
すると僕の予想を裏切るかのような答えを…………否、むしろ期待以上の解析結果を、ヘルプさんは教えてくれた。
『鍛冶メニューでは、魔物の素材を用いた武器の製作が可能です。アイテムメニュー内に該当素材があれば、【製作】メニューで瞬時に作製することができます』
「魔物の素材を用いて、瞬時に……?」
『また、魔物の素材を用いるため、製作した武器には強力な“スキル”が付与されるようになっております』
「……」
瞬時に武器を製作。
さらには魔物の素材を使うことでスキルの付与も可能。
本来魔物の素材は加工が難しく、武器製作には適さないと言われている。
けれどメニュー画面内でそれらをすべて行ってくれるようで、現実離れした加工も実現できるようだ。
具体的にどのようなスキルが付与されるかはわかってはいないけど、ここまで聞いただけでもわかる。
また、“とんでもない機能”がメニュー画面に覚醒してしまった。