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第四十三話 「魔人」


 どういうことだ? なんで冒険者狩りの反応が消えているんだ?

 今の一瞬の間に樹海を抜けたのか?

 いや、いくら魔人だからといってそんなことが可能だとは思えない。

 僕のマップメニューは広大な大樹海をすべて映し出しており、ほぼその真ん中にいた冒険者狩りが一瞬のうちにマップ外に逃げ去るなんてできるはずがない。

 じゃあ、いったいどうして……


「ガアッ!」


 マップに映し出されていた通り、黒狼の魔物たちが襲いかかって来て、思考を妨げられてしまう。

 僕は舌打ち交じりに黒狼の相手をしながら、頭の中でヘルプさんに問いかけてみた。


『可能性として考えられるのは、転移魔法による瞬間的な長距離移動で、マップ外に逃れたのだと思われます。何者かに討伐されて生体反応を示さなくなった場合でも、マップ上に死体情報が映りますので、以上の説が濃厚かと』


「転移魔法か。それならまあ確かに……」


 狼の一匹を殴り飛ばしながら、僕は納得したように人知れず頷く。

 でも、そこまで長距離の移動を可能にする転移魔法が果たして使えるだろうか?

 極限まで高めたヴィオラの魔力値でさえ、ここから樹海の入口に転移できるかどうかも怪しいというのに。

 それ以上の長距離転移が冒険者狩りにできるとは思えない。

 それこそ僕の『ファストトラベル』と変わらないくらいの性能じゃないか。

 現存している魔法や魔人の能力の中から考察すると、ヘルプさんの言った通り転移魔法が一番有力な説にはなるんだろうけど。

 もしそうだとしたら、冒険者狩りがどこに行ったのか改めて探さないといけなくなってしまったな。

 改めて辟易しながら、また飛びかかって来た黒狼を右脚で蹴り飛ばしていると……


 刹那、マップ上に示された自分たちの現在位置の“真後ろ”に――


「あはっ!」


「――っ!?」


 冒険者狩りの反応が出現した。

 咄嗟にそこから飛び退くと、一瞬遅れて僕が立っていた場所に刃が通過する。

 思わず背筋を凍えさせながら振り返ると、そこには一体の魔人が佇んでいた。


「おや、今ので首を落としたと思ったのですが、素晴らしい反応速度ですね」


「……」


 一見すると二十代そこらの普通の青年に見える。

 しかし純白の髪と、病的なまでに青白い肌が人間性を希薄にさせている。

 マップ上に映っている反応からも、こいつが冒険者狩りと呼ばれている魔人で間違いない。

 冒険者狩り、またの名を――魔人パンデイロ。

 唐突に背後に現れた異質な存在に、ヴィオラもホルンも驚愕して固まっていた。

 そう言う僕も、顔には出さないけど内心ではかなり焦っている。


「こいつ、いきなり後ろから……」


 ヘルプさんの言った通り転移魔法の使い手だったとしても、これほど広大な大樹海を縦横無尽に移動できるとは思えない。

 魔人も人間と同じように、邪神という存在から恩恵を授かっていて、スキルや魔法を使うことができる。

 だからと言って広大な樹海をあちこち転移するなんて、とても魔力が持つはずがないと思うんだけど……


「不思議に思っているようですね。わたくしが突然現れたことに」


「……お前が冒険者狩りの魔人パンデイロだな。一応聞いておくけど、投降する気はあるか」


「ご冗談を」


 だと思ったけど、と内心でため息を吐きながら改めて身構える。

 同じくヴィオラや黒狼たちも今一度臨戦態勢に入ると、パンデイロは面白がるように笑みを向けてきた。


「このわたくしが愚鈍な人間に降るはずもない。あなた方はわたくしの力の正体もわからぬまま、無様に殺されて魔物の餌になるのです」


 次いでパンデイロは、大手を広げて一言唱える。


「【リバースルーム】」


 瞬間、奴が目の前から姿を消した。

 それを見た僕たちは、思わず揃って息を呑む。

 これがパンデイロの転移魔法?

 本当に奴は、自由自在に樹海の外と中を行き来することができるのか?

 そこまで魔力と精神力が高い雰囲気はなかったけど。


「ど、どこに行ったのよあいつ!」


 襲いかかって来る黒狼の相手をしながら、ホルンは怒鳴り声を上げる。

 また突然現れて不意打ちをして来るかもしれない。

 そう思っているため、僕たちは気が逸れて戦いに集中できなかった。

 かなり煩わしい。それに奴の力の正体も掴めていないので、ホルンが怒鳴り散らすのも納得できる。

 本当に今のは転移魔法なのか? だとしたら的確に僕たちの背後を取れた理由が説明できない。

 いくら誘花(アルラウネ)の花粉である程度の居場所を悟られるとしても、あれほど完璧なタイミングと場所に転移できるとは思えないから。


 どんな力を使ったのか、やはり何もわからない。

 でも、大丈夫だ。

 僕には、“これ”があるから。


(ヘルプさん)


『先ほど確認した魔人パンデイロの解析を開始します』


 メニュー画面に搭載されているヘルプ機能に、魔人の解析をお願いした。

 一度視界に捉えてしまえば、ヘルプさんが色々と解析をしてくれる。

 未知の素材や鉱石、遭遇した魔物、そして魔人の能力についても。


『解析完了』


 三秒にも満たない時間で高速解析を済ませたヘルプさんが、パンデイロの情報を教えてくれた。


『冒険者狩りと呼ばれているくだんの魔人は、別空間への移動が可能な“空間転移魔法”を使用しております』


 空間、転移……?

 せっかく教えてもらったけれど、あまりピンと来なかった。

 普通の転移魔法とどう違うのだろう?


『こちらの“表空間”とは異なる“裏空間”に移動が可能となっており、裏空間内でこちらの背後を取って表空間に再出したようです』


 うーん……

 少し難解なところもあるけれど、概ね理解はできた。

 つまりは別空間へと移動して姿を消し、元の空間に突然戻って来て攻撃を仕掛けて来ているということだ。

 確かにそれならマップ上から姿が消えていても不思議じゃない。

 長距離の転移魔法と違って空間を行き来するだけだから、精神力の消費もそこまで甚大ではないだろうし。

 加えて別空間に逃げることができるなら、これまで冒険者狩りを捕らえ切ることができなかった理由も説明がつく。

 別空間にいる魔人を捕まえることなんて、誰にもできるわけないから。


 ――そう、僕が知っている一人を除いては。


 黒狼と戦いながらヘルプさんから得た情報を二人に共有すると、ホルンが吐き捨てるように毒吐いた。


「別空間に逃げられるんじゃ、どうやっても倒しようがないじゃない……!」


 冒険者狩りの討伐は不可能だと、誰もが思ってしまうこの状況。

 それも仕方がないことだけど……


「確かに普通のやり方じゃ、捕らえ切るのは難しいかもしれない。でも……」


 僕はパーティーメンバーのヴィオラに視線を送って、静かに微笑を浮かべた。


「僕の自慢の仲間がいれば、あの魔人を捕らえることができる」


「ど、どういう意味よ、それ……?」


 ヴィオラの力を知らないホルンは当然不思議そうに首を傾げている。

 一方でヴィオラ本人は、僕の視線に確かな笑みと頷きで応えてくれた。


「行けそう、ヴィオラ?」


「はい。あの方の魔法はいただきました」


「……?」


 直後、ヴィオラは僕とホルンの手を取ると、一つの魔法を唱えた。


「【リバースルーム】」

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