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第四十一話 「自慢の仲間」


「なんで、あんたがここに……」


 アルモニカが突然現れたため、ホルンは驚愕して目を見開く。

 アルモニカがこのコード大樹海に来ていること自体は不思議ではない。

 驚いたのは、どうしてわざわざこの場に飛び込んで来たのかということだ。

 加えて自分の知らない、超人的な怪力を見せつけられたからである。

 ただの荷物持ちだったアルモニカが、どうしてここまで……


「【グラビティパウンド】!」


 その時、突然黒狼たちの頭上に歪みが発生した。

 直後、不可視の力によって狼たちは地面に押しつけられて、鈍い音と共に押し潰される。

 見ると、茂みの奥に黒ローブ姿の黒髪少女が、杖を構えながら立っていた。

 どうやら今の魔法はあの少女のものらしいとわかり、ホルンはさらに驚愕を覚える。

 祝福の楽団、噂に聞く以上のとんでもない怪物たちだ。

 そう思っていると、森の奥から新たな魔物たちが押し寄せて来た。


「あれって……」


 自走する漆黒の樹木――【黒樹(トレント)】。

 両腕のように伸びている蔓で人を絡め取り、生命力を根こそぎ奪うとされている凶悪な魔物だ。

 樹皮が恐ろしいほど強固で、刃や火などまったく効かず、並の力ではろくにダメージを与えることもできないと言われている。


「ヴィオラ、後ろの敵をお願い!」


「了解しました!」


 祝福の楽団はそう言い合うと、前後の道にそれぞれ視線を向けた。

 そして迫り来る黒樹(トレント)に向けて攻撃を開始する。


「【ブレイズレイン】!」


 まず先に魔法使いの少女が、黒樹(トレント)たちの頭上に橙色の雲を発生させた。

 直後、雲から豪雨のように炎の槍が降り注いでくる。

 半端な火炎では黒樹(トレント)の樹皮を焼くことは不可能だと言われているが、少女の放った魔法は恐ろしいまでの威力で、火傷を付けるどころか易々と“貫いていた”。


「ギギギッ!」


 続いてアルモニカが動き出す。

 かなりの速度で駆け出した彼は、黒樹(トレント)が伸ばしてきた蔓を見事な反応速度で掻い潜る。

 そして瞬く間に奴らの懐に潜り込むと、勢いをそのまま右脚に乗せて一気に振り抜いた。

 

「せ……やあっ!」


 ドッッッゴオオオオン!!!

 一匹の黒樹(トレント)に蹴りが直撃したかと思うと、威力のあまり樹木の体が凄まじい勢いで吹き飛んだ。

 それによって複数匹いた黒樹(トレント)たちもまとめて蹴散らされて、たった一撃でほとんどの黒樹(トレント)が戦闘不能になってしまった。


(こんなの、次元が違う……)


 特別なスキルを使うことなく、ただの怪力のみで魔物を圧倒する純粋な強さ。

 それほどまでに恩恵の数値が高いことを意味しており、それゆえに彼の異質さが際立っているように見える。

 彼はもうすでに、自分の知っているアルモニカではない。

 勝利の旋律で荷物持ちとしてこき使われて、雑用を押しつけられても従うしかなかった弱虫の彼ではない。

 確かな強さを持った凄腕の冒険者だ。

 やがて二人の活躍によって魔物の気配が無くなると、アルモニカは仲間の少女に手を振った。


「お疲れヴィオラ」


「はい、お疲れ様です」

 

 二人がそれぞれ健闘を労う中、そこでホルンがようやく口を開く。


「なんで、私を助けたのよ……?」


 どこからどう見ても自分は、魔物にやられそうになっているところを祝福の楽団に助けられた。

 助けられる理由なんてないはずなのに。

 むしろ恨まれていても不思議ではないくらいなのに。

 そのことを疑問に思ってアルモニカに問いかけると、彼は肩をすくめて返してきた。


「別に善意で助けたつもりはないよ。ただ利用できると思ったから生かしておいただけだ」


「り、利用……?」


 助けたのではなく、生かしただけ。

 ますます意味がわからずにホルンは首を傾げる。


「僕たちは『冒険者狩り』を倒すためにここに来た。そいつの居場所もわかってはいるけど、より確実に倒すためには奴を誘き出す餌が必要になる」


「え、えさ……?」


「臭いからして『誘花(アルラウネ)の花粉』を浴びてるだろ。自殺するつもりで自分に浴びせたのか知らないけど、これならちょうど魔物を引き寄せる餌になる。冒険者狩りは魔物と戦ってる冒険者を不意打ちする習性を持ってるらしいから、きっと臭いに釣られて魔人もやって来るはずだ」


 だから死なさずに生かしておいた。

 自分を助けたのは以上の理由かららしい。

 別に餌にするだけなら助ける必要まではないと思ったが、死体として抱えるよりかは自分で歩かせた方が楽だからということなのだろう。

 確かに筋は通っている。

 そしてこちらはそれを拒むこともできない。


「そっちが自殺のつもりでここに来たんなら好きにすればいいけど、もし死ぬのが嫌だったら僕たちについて来るんだ」


「……」


 誘花(アルラウネ)の花粉を大量に浴びた今、単独で森を抜け出すのは至難の業。

 だからここから生きて帰るのなら、祝福の楽団に同行して二人に魔物を倒してもらうのが確実。

 ホルンに拒否権はなく、ただ黙って彼らの後ろをついて行くしか選択肢はなかった。


「それと……」


 続けてアルモニカが、勝気な笑みをこちらに向けてくる。


「僕が、どれだけ心強くて優しい仲間に恵まれたか、それをホルンに見せつけてやりたいって思ったからさ」


 パーティーを追い出されて惨めな思いをしたアルモニカ。

 しかし結果的にそれは自分にとってよかったことだったと、改めて示してやりたいと思っているのだろう。

 これはアルモニカにとっての復讐、ということだ。


「僕の自慢の仲間を、その目でよく見ておけ」


 そして本当の“仲間”というのがどういうものなのか今一度わからせると、アルモニカは自信ありげに続けた。

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