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第三十六話 「冒険者狩り」


「祝福の楽団の直近の成績を評価して、ギルド側から特別依頼が発行されております。こちらをご覧ください」


 受付口に出された紙を、ヴィオラと一緒に覗き込む。

 それは特定の魔人を討伐するという、まあよくある討伐依頼だった。

 三大危険区域の一つと言われているコード大樹海に赴き、潜伏している“冒険者狩り”と呼ばれる魔人を討伐するというもの。


「冒険者、狩り……?」


「隣国のポップス王国のレジェール領にて、近頃その存在が広まっている魔人です。コード大樹海を中心に冒険者の狩りを行っていて、冒険者が魔物と戦っているところを隙を突いて襲いかかって来ます」


 それによって犠牲になった冒険者が数多く存在するとのこと。

 ゆえに、冒険者狩り。

 その冒険者狩りを討伐してほしいというのが依頼内容のようだった。


「本来であればAランク以上のパーティーに渡されるはずの依頼だったのですが、直近の祝福の楽団の活躍を見込んで抜擢されました。ただちに遠方の危険区域に向かえるパーティーで、実力も充分だと判断されましたので」


 コード大樹海は隣国のポップス王国のレジェール領と呼ばれる場所にある。

 三大危険区域の一つとも言われていて、魔物の出没数も世界で指折りだと聞いたことがある。

 確かに僕たちなら、隣国の危険区域にも一瞬で転移することができるけれど、わざわざ隣国から依頼を出してくるなんて。

 ポップス王国は冒険者の数が足りていないのだろうか?

 もしくは冒険者狩りの被害が大きいあまり、手数が足りなくなってしまったか。

 ともあれ依頼の報酬金額も高いし、印章の数も桁違いに多くなっている。

 これが達成できれば、Aランクへの昇級試験もすぐに受けることができるようになるではないか。

 前向きに検討してもいいかも、と思っていると……


「こちらに印章が記載されておりますが、もし無事に達成された際にはこちらを昇級試験扱いとして、Aランクへの特別昇級を約束するとのことです」


「えっ……」


 Aランクへの特別昇級?

 ということは実質、この依頼がAランクへの昇級試験ということになるではないか。

 いや、依頼の難易度を考えれば当然と言えば当然なのか。

 本来であればAランク以上のパーティーに渡されるはずの依頼って言ってたもんね。

 いきなりそんな依頼を任されることになるなんて、相当高く評価してもらっているんだな。


「現在レジェール領では、魔物の出没数が例年に比べて倍増しており、冒険者狩りの影響もあって冒険者の手数が足りない状況となっております。そのためこうして隣国のゴスペル王国にも応援要請が届くほどになっていて、腕利きの冒険者を派遣するようにと通達を受けているのです」


 受付嬢さんは困り顔で改めて尋ねてくる。


「もちろん強制はいたしません。断った際の罰則なども特にございません。依頼の途中で断念していただいても問題はございませんので、どうかご検討していただけませんか?」


「……」


 こちら側には欠点らしい欠点はない。

 それでいて成功した時の利益があまりにもデカすぎる。

 だから僕としては受けてみたいんだけど、パーティーメンバーのヴィオラの反応はどうだろう……?

 そう思って彼女の方を見ると、それを予測していたのか先にこちらを見ながら微笑んでいた。


「私はまったく問題ありませんよ。早く昇級できるに越したことはありませんし、それに高難易度の依頼で自分の力を試してみたいと思っていましたので」


「そ、そっか」


 もうすっかり強くなったヴィオラは、予想以上に前向きな姿勢を見せてくれた。

 となれば断る理由はどこにもない。


「じゃあ、この冒険者狩りの討伐、受けさせてください」


「はい、ご受諾ありがとうございます」


 というわけで祝福の楽団は、ゴスペル王国を離れてポップス王国に向かうことになった。

 依頼受諾の手続きを終えた後、ギルドを後にしてさっそくポップス王国に行くことにする。

 と言っても指先を動かすだけで一瞬で転移できるので、遠方への遠征という感覚はまるでないけど。

 それにしてもポップス王国か……

 あまりいい思い出はないなぁ。


『アルモニカ、あんたこのパーティーから出て行きなさい』


 Sランクパーティー――『勝利の旋律』を追い出された因縁深き場所。

 少しでもあのパーティーから離れるためにゴスペル王国に移住したのに、まさかこんなにも早くまた戻ることになるとは思わなかった。

 ややトラウマがあるせいで、気持ち的に少し足踏みをしてしまう。


「大丈夫ですか、モニカさん?」


「えっ? な、何が……?」


「なんだか少し顔が強張って見えましたので」


「だ、大丈夫大丈夫」


 ヴィオラに心のざわつきを悟られないように、慌てて取り繕う。

 そしてすぐに気を取り直して、僕はマップメニューを開きながらヴィオラに提案した。


「よしっ、とりあえずはコード大樹海に一番近い、『トランスの町』に行ってみることにしよっか。そこの冒険者ギルドで、実際に冒険者狩りと戦ったことのある冒険者とかから、色々と情報を仕入れて、ついでに消耗品の補給とかも済ませちゃおう」


「はい、わかりました」


 ヘルプさんからも情報を仕入れられるけど、実際に戦ったことのある人から話を聞けば、また違った発見もあるかもしれないし。

 そんな形で今後の方針が固まり、僕たちはさっそくファストトラベル機能を使ってトランスの町に移動することにした。


【トランスの町に移動しますか?】

【Yes】【No】

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