第三十五話 「特別依頼」
Bランクに昇級してから、ちょうど一週間が経過した。
新たに覚醒したマップメニューを活用しながら、僕たちは依頼遂行に従事している。
その中で、マップメニューに付随している『ファストトラベル機能』のことが少しずつだがわかってきた。
これはパーティーを組んでいるヴィオラにも適用される機能で、自動的に同じ場所に転移するようになっているらしい。
それと触れている者も一緒に転移が可能なようだ。
だから例えば……
「な、なんだよこいつの馬鹿力は!?」
「こんな冒険者が来るなんて聞いてねえぞ!」
とある日の山賊捕縛依頼にて。
山道を通る行商人を標的にしている山賊たちを、力任せに打ち倒して捕縛した後。
町まで連行する必要があり、いつもなら縄で手を縛って長い道のりを連れ立って歩かなければならないのだが。
【スカの町に移動しますか?】
【Yes】【No】
縄で繋いだ山賊たちに触れながら、マップメニューのファストトラベル機能を指でポチッとするだけで――
「はい、到着」
「「「えぇぇぇぇ!?!?」」」
捕まえた山賊たちを町に連行するのも一瞬で済んだり……
「それでは隣町までの護衛、よろしくお願いいたします」
「はい、それじゃあ行きましょうか」
とある日のご令嬢の護衛依頼にて。
隣町まで社交会に来ていたご令嬢を、一週間かけてお屋敷まで護衛しなければならなかったのだが。
【レゲエの町に移動しますか?】
【Yes】【No】
ご令嬢が馬車に乗り込んだ後、その馬車に触れながらファストトラベル機能を起動するだけで――
「はい、お屋敷に到着しましたよ」
「えぇぇぇぇ!?!?」
一瞬にして護衛対象を送り先に届けたり……
他にも大切な荷物を運ぶ依頼や、捕獲した巨大魔物の移送依頼など。
色々な依頼でファストトラベルは大活躍を見せてくれた。
「ファストトラベル機能、すごく便利ですね!」
「だね」
ヴィオラもその有用性に感動したようで、見るからに高揚している。
「色んな依頼に生かせるし、単純に移動が楽になったし、何よりおかげで依頼の消化速度が見違えるほどに上昇したからね」
Bランクに昇級してから一週間。
すでに達成した依頼の数は二十に到達しており、これまでとは比べ物にならない速度で依頼が消化されている。
掛け持ちをしても一日で全部片付くこともあるくらいで、しかも移動の手間が無くなった分、僕たちは体力を温存することができるのだ。
おかげでこれだけ高頻度で依頼を受けても、まったく疲弊を感じていない。
ファストトラベル機能、なんと素晴らしきかな。
「しかしこの調子ですと、運動不足になってしまわないか少し心配ですね」
「まあ、魔物と戦ってるから大丈夫じゃない?」
そんな他愛のない会話をしながら、今日も今日とてファストトラベル機能で町まで戻って来た。
すると転移した場所のすぐ近くに、他の冒険者パーティーの姿を見つける。
彼らは驚いた表情で僕たちのことを見つめてきていた。
「おい、あれ……」
「あぁ、祝福の楽団だ」
「とんでもねえ転移魔法が使えるってのは本当らしいな」
どうやらファストトラベル機能であちこちに転移していることは知られているらしい。
まあ、あれだけ堂々と冒険者依頼で乱用しまくっているので、噂になるのも当然と言えば当然か。
ただなんか、とんでもない転移魔法ってことにされているみたいだけど。
それらの注目の視線はギルドに行っても感じさせられて、ヴィオラが恐る恐るといった様子で呟いた。
「大注目されていますね、モニカさん」
「うーん、僕がって言うより、祝福の楽団が注目されてる気がするけど」
凄まじい勢いで依頼も消化しているし、これだけの注目を集めてしまうのも無理はないか。
でも嫌だなぁ、こういう視線。
好意的な視線はほとんど感じないから。
ともあれ討伐依頼の報告のために受付窓口まで行き、手早く手続きを済ませた。
そのまま視線から逃れるようにギルドを立ち去ろうとすると……
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「はいっ?」
不意に受付さんから呼び止められてしまった。
僕とヴィオラは足を止めて、受付さんの方を振り返る。
受付さんの方から声を掛けられることなんて滅多にないため、二人してやや緊張感を抱いていると、受付さんから思わぬ言葉を投げかけられた。
「ギルド側から祝福の楽団に対し、特別依頼が発行されております」
「えっ?」