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第三十四話 「ファストトラベル」


 またぞろ意味のわからない言葉が飛び出してきた。

 ファストトラベル? ついぞ聞いたことがない。


『ファストトラベルは、ワールドマップ上で指定した地点に瞬間的に移動することが可能な機能です』


「しゅ、瞬間移動……?」


 なんかさらっととんでもない機能をヘルプさんは教えてくれた。

 聞いた通りなら、このワールドマップに表示されている町や危険区域に、一瞬にして転移することができる機能ということになるけど。

 えっ、本当にそんなことできるの?

 何の制約も対価もなしに?

 半信半疑でワールドマップを開いて、すでに見知っている『カントリーの町』を見つけて試しに長押しをしてみた。

 すると……


【カントリーの町に移動しますか?】

【Yes】【No】


 くだんのファストトラベル機能なるものが起動したのか、目の前にそんな文字列が表示された。

 本当にこれだけで移動することができるのだろうか?


「移動しますか? って、これっていったいどういう意味ですかモニカさん?」


「いや、ちょっとね……」


 隣から画面を覗いているヴィオラは不思議そうに首を傾げている。

 彼女にもこの機能について説明しようかと思ったけれど、とりあえずは試してみてからの方がいいかなと思った。

 だから僕は【Yes】の方に指を伸ばしてみる。

 すると触れた瞬間――


「えっ……」


 いつもの水音が脳内に響き渡り、突如として視界が揺らいだ。

 驚く僕をよそに、目の前の景色がじわりと切り替わり、眼前に別の町の風景が広がる。


「ここは……」


 気が付けば僕は、見覚えのある町の門の前に立っていた。

 傍らに看板が立っているのを見つけたので、そちらに目を向けてみると……


『カントリーの町へようこそ』


 そう、ここはカントリーの町の正門前だ。

 何度も通った覚えのある場所。

 本当にカントリーの町に移動できている。

 ほとんど瞬き一つの間に、馬車で一週間近くかかる道のりを転移してしまった。

 ハタと我に返ると、周りにいた人たちから怪訝な視線を向けられていた。


「えっ、今の何……?」


「なんでいきなり現れて……?」


「て、転移魔法……?」


 訝しい目を向けられて戸惑っていると、遅れて隣にヴィオラもいることに気が付く。

 どうやら彼女も一緒について来たみたいで、ぱちくりと黒目を瞬かせていた。


「あ、あれ? ここってカントリーの町、ですよね? 私たち今まで、スカの町にいたような……」


「ぼ、僕自身驚いてるんだけど、これがマップメニューの力みたいだよ」


 とりあえず周りの視線から逃れるためにその場を離れて、近くの木の裏に隠れることにした。

 そして改めてヴィオラにもマップメニューとファストトラベル機能のことを伝えると、彼女は唖然とした様子で唇を震わせる。


「地図上で指定した場所に、瞬間移動……? な、なんですかそのとんでも機能は……」


 僕もまったく同じ感想である。

 いくらメニュー画面が特殊な力だからと言って、よもや瞬間移動まで可能にしてしまうとは。

 こんなこと、いったい誰が予想できただろう?

 ていうかこんなすごい機能なんだから、使用制限とかないのかな?


【ファストトラベルに制限回数などはございません。無制限に町と町を行き来したり、危険区域への瞬間転移が可能となっております】


「……」


 今一度ヘルプさんからそう聞かされて、僕は心の中で静かに頷いた。

 これ、ぶっちぎりでやばい機能だ。

 世に転移魔法なる特殊な魔法を扱う魔術師もいると聞いたことがある。

 しかしそれとは似て非なる力で、距離制限や魔力消費がある転移魔法とは比べ物にならないほど便利な機能だ。

 ワールドマップで指定した場所に、無制限に瞬間移動が可能な機能。

 危険区域の地図の自動作成や魔物の位置追尾などもできて、冒険者依頼で役立つ機能も満載である。

 何より煩わしいと思っていた町と町の行き来や、危険区域への移動がとんでもなく楽になるではないか。


「メニュー画面、やっぱりすごい……!」


 我ながら自分の能力の恐ろしいまでの汎用性に、鳥肌を禁じ得なかった。


 新たにこの機能を携えて、僕たちはBランクへの依頼に挑むことになった。

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