第三十三話 「マップメニュー」
Bランクへの昇級を目指すに伴い、Cランクの依頼をたくさん達成した。
おかげで貯蓄もかなりの勢いで増えていき、今では個人の財布に二十万ノイズほどの蓄えがある。
装備や消耗品を揃えるための資金や、万が一の時の備えにいくらか回しても、システムレベルを上げる分だけの余裕は残ることになるのだ。
「じゃあ、初めてのBランク依頼に向かう前に、メニュー画面のシステムレベルを上げておこっか。もしかしたらまた便利な機能が覚醒して、新しい依頼でも活躍してくれるかもしれないし」
「ですね」
僕たちは再び待機所のベンチに腰掛けて、メニュー画面のシステムレベルを上げることにする。
目の前の空間を下からなぞるように指を弾き上げると、透明のガラス板のようなものが出現した。
◇メニュー◇
【アイテム】
【ステータス】
【パーティー】
【ヘルプ】
【セーブ】
【ロード】
こうして見ると、本当に最初の頃と比べると機能が充実してきたよなぁ。
道具を仕舞える『アイテムメニュー』と、『セーブ』と『ロード』は元々便利だと思っていたけど、さらにそこから三つの機能が覚醒して全部有用だとは驚きである。
だったらお次はどんな機能が覚醒するのか、否応なしに期待をそそられてしまい、僕は気持ちを踊らせながら『◇メニュー◇』の文字に指を伸ばした。
◇メニュー詳細◇
システムレベル:4
フォント:タイプ1
ウィンドウカラー:タイプ1
サウンドエフェクト:50
続け様に『システムレベル』の文字も押し、脳内に雨粒が滴るような音が響き渡る。
【システムレベルを上げますか? 必要金額:75000ノイズ】
【Yes】【No】
切り替わった画面を見た僕は、一人頷いて『Yes』の方を力強く押した。
すると再び水音が頭の中に響き、目の前の画面が切り替わる。
【システムレベル上昇 マップメニューが解放されました】
新たに表示された文字列を見て、僕は毎度のことながら首を傾げてしまった。
「マップ、メニュー……?」
マップ? マップってなんだ?
相変わらずメニュー画面には意味がわからない機能が覚醒するな。
しかしまあシステムレベルが上昇したことは間違いないようで、メニュー詳細のところにあるシステムレベルが“5”になっていた。
それを確認した後、最初の画面に戻って改めて確かめてみる。
◇メニュー◇
【アイテム】
【ステータス】
【パーティー】
【マップ】
【ヘルプ】
【セーブ】
【ロード】
ちゃんと『マップメニュー』なるものがメニュー画面に表示されていた。
無事に新機能が解放されたみたいだけど、これはいったいどういう機能なんだろう?
こういう時は……
「ヘルプさん、このマップメニューっていう機能なんだけど……」
『新機能“マップメニュー”を解析…………解析完了』
「はやっ!」
相変わらず仕事が早いな。
でもおかげで、自分であれこれ試行錯誤する必要なく新機能について知ることができた。
『マップメニューでは危険区域の地図の自動作成や、魔物の現在位置の特定などが可能です』
「えっ、何その機能?」
地図の自動作成? 魔物の現在位置の特定?
なんだか今までとは少し違った方向性の機能のようだ。
冒険者の探索専用のような機能とでも言うのだろうか?
ヘルプさんやステータスメニューのような汎用的なものではなく、どちらかというと専門的な感じがする。
ともあれ実際にマップメニューを開いて見てみることにした。
隣に腰掛けているヴィオラが首を伸ばして覗き込んでくる。
「これって、スカの町の地図ですか……?」
「うん、みたいだね」
マップメニューを押して表示されたのはスカの町の全体図だった。
どこにどんなお店があるのかとか、自分たちが今どこにいるのか書かれている。
するとマップメニューの下の方に『ワールドマップ』という文字列を見つけて、疑問符を浮かべると同時にヘルプさんの声が響いた。
『ワールドマップは現在いる町や危険区域の場所を、世界的に示した地図になっております』
という言葉の通り、ワールドマップは世界地図のような見た目をしていて、町や危険区域の場所が詳しく書かれていた。
今まで行ったことのある町や危険区域の場所も表示されていて、試しにカントリーの町の近くの『スコア大森林』に触れてみる。
するとスコア大森林の地図まできちんと表示されて、しかもかなり綿密な情報まで記載されていた。
細かな地形はもちろん、魔物の現在位置や採取品の場所、誰も知らなそうな冒険者の紛失物らしきものの在り処まで。
ヘルプさんもある程度なら採取品の場所とかを教えてくれるけれど、ヘルプさんの場合は過去の情報を参照して場所の当たりを付けてくれるだけだ。
現在の情報を取り入れて伝えてくれるわけではない。
「つまりマップメニューは、とても便利な“地図機能”ということですか? 魔物の位置や採取品の場所までわかるなんてすごいじゃないですか」
「う、うん。これはかなり使える、と思うけど……」
ヘルプさんにはできない現在情報を知ることができて、複雑な危険区域の地形を自動的に地図化してくれるというのはかなりの利点だが。
これだけの機能で『75000ノイズ』も掛かってしまったのか?
世界地図なんて普通に売っているくらいだし、魔物の現在位置なんかもヴィオラの感知魔法があれば手に取るように知ることができる。
正直、これだけのお金を掛けて覚醒させるような力ではないような気が……
と、半ば後悔しかけていると、そこにヘルプさんが助け舟のような補足を付け足してくれた。
『それとマップメニューでは、町や危険区域を長押しすることで“ファストトラベル機能”が使用可能です』
「ふぁ、ファストトラベル?」