第三十二話 「もう少し二人で」
「こ、これ全員、祝福の楽団の加入希望者なんですか?」
「た、たぶん……」
募集用紙には集合場所として、ギルド待機所の窓際を指定しておいた。
集まっている人たちはそこに集中しているので、十中八九僕たちの募集用紙を見て来てくれた冒険者たちだろう。
つまりこれだけ多くの人たちが祝福の楽団に入りたいと思っているということ。
でも、なんでこんなに……?
「あっ、祝福の楽団だ」
「ほ、本当に来たぞ」
何やら冒険者たちからも視線が殺到しているし、僕たち何かやってしまっただろうか?
『祝福の楽団は現在、スカの町のみならず他の町でも名の知れた著名な冒険者パーティーです』
えっ、そうなの?
ヘルプさんからの思わぬ情報で僕はつい目を見開く。
『結成から僅か一ヶ月半でBランクへ昇級した稀有なパーティー。メンバーもたった二人でどちらも年若く、期待の新星として各所で名前が語られているようです』
ぜ、全然知らなかった。
いや、普段の生活の中でもそれなりに視線を感じることはあったけどね。
でもまさか他の町にまで名前が知れ渡っているなんてまったく思ってもみなかった。
ていうかそれならこれだけの数の冒険者が集まってくれたのも納得がいく。
祝福の楽団は言ってしまえば、現在最も熱い伸び盛りのパーティーだ。
階級もBランクとちょうど中級くらいに位置しているので、敷居もそこまで高くなく加入するなら最適のタイミングだろう。
このまま同じ波に乗って活躍できると思った人たちが、こうして集まってくれたということだ。
これだけたくさんの冒険者が集まってくれたことは素直に嬉しく思うけれど……
「ど、どうしよう、こんなにたくさんの人たちとじっくり面談なんてやってる暇ないよ。それにこの中から最適の人を見つけるなんてもっと難しいし」
「ど、どうしましょうモニカさん……」
ヴィオラと二人して、大量の冒険者を前に頭を抱えていると……
そこに助け舟を出してくれたのは、ヘルプさんだった。
『では、私が一人一人を精査して情報をお伝えします』
「えっ?」
ヘルプさんが一人一人を精査?
その言葉の意味を、僕はすぐに知ることになった。
「では、お名前と活動実績、それから冒険者としての目標をお聞かせください」
「俺の名前はギロ。冒険者としての活動はもう八年くらいになるかな。昔に有名な冒険者パーティーに助けられたのをきっかけに、自分も同じくらい強い冒険者になりたいと思ってこの業界に入ったんだよ」
一人目の面談者である青年冒険者が、こちらの質問にすらすらと答えてくれる。
「以前はCランクパーティー『戦歌の響き』で前衛を務めていたが、少しパーティー間でトラブルがあって解散になったんだ。それでちょうど新しいパーティーを探しているところに祝福の楽団の募集用紙を見つけたから、試しにこうして面談に来たってわけなんだが」
「へぇ、そうだったんですね」
と、一通りの話を聞いて、隣に腰掛けているヴィオラとひそひそ話し合う。
「よ、良さそうな人ではないですか?」
「だ、だね。とりあえず第一候補っていうことで、控えておいてもらっていいかも」
僕よりも冒険者としての活動日数は長いし、受け答えや雰囲気もしっかりしているし。
とまあ、僕たちとしては合格判定の人物ではあったが、もう一人の優秀な“面接官”は簡単には通してくれなかった。
(ど、どうかなヘルプさん?)
『この男性冒険者は過去にパーティー共有の資金を酒代に費やして全額喪失しております。それが原因でパーティーを追放されましたが、その後も至るパーティーで共有資金を酒代として使い潰して回っているようです』
「却下」
ヘルプさんの意見を聞いた僕は、即座に合格を取り消した。
そう、ヘルプさんはあらゆる情報を参照して問題に答えてくれる万能な回答者。
相手がどんな人物なのか見ただけですべて見抜いてしまうのだ。
ヘルプさんの前ではいくら取り繕っても無駄で、少しの不祥事でもあればこの通り僕に伝えてくれる。
これが最適な人材を確実に見つけることができる最善の方法……『ヘルプさん面談』である。
最初の賭博冒険者を弾いた後も、ヘルプさんは続けて目覚ましい活躍を見せてくれた。
『この男性冒険者は隣町では有名な遊び人として知られています。多くの女性冒険者と関係を持ち、パーティーメンバーだろうと見境なく言い寄るあまり、至るパーティーから拒絶されている冒険者です』
「却下」
『この女性冒険者は極度の潔癖で、実力はありますが長期の遠征を嫌う気質があります。水浴みも一日に三回は必須としていて、魔物との戦闘で少し汚れただけですぐに帰ってしまうため以前のパーティーを追い出されたようです』
「却下」
その後も同じように、やって来る冒険者たちの悪癖や素性を明かしてくれて、僕は次々と却下を言い渡していった。
おかげで面談は予想以上にスムーズに進み、二十人以上集まっていた冒険者たちを僅か一時間と少しで精査し終わった。
結果……
「なんで変な人たちしか集まって来ないの!?」
まともな人が誰一人としていなかったため、僕たちの前から冒険者の姿は消えていた。
ヘルプさんのおかげで相手のことを隅々まで知ることができるけれど、逆にすべてを知れるせいで悪いところばかりが浮き彫りになっていた気がする。
いや、変な人たちしか集まっていなかったから仕方ないけどさ。
「残念でしたね、モニカさん」
「本当だよ。せっかくたくさんの冒険者が集まってくれたのに……」
これからBランク依頼をたくさん受けることになるし、頼もしい仲間が一人くらいはほしかったんだけどなぁ。
でもパーティーメンバーを厳選しなくてはいけないというのもまた事実。
仲間になった冒険者は僕のパーティーメニューの力で、恩恵の数値が凄まじいことになるから、もし邪な気持ちを持っている人にその力が渡れば取り返しのつかないことになる。
だから善良な人を見極めて力を授けなければならないのだ。
それに該当する人が残念ながら現れなかったため、致し方なく一次募集は締め切ることにした。
「また日を改めて募集をかけてみようか。それか別の町に行った時とか、Bランク依頼に躓いた時に、また仲間探しをしてみよう」
「……は、はい。そうですね」
という話で落ち着き、僕たちはまだしばらく二人で冒険を続けることにした。
「…………まあ、私はもう少しこのままでも」
「んっ? なに?」
「あっ、いえ。なんでもありません」
慌てた様子でかぶりを振ったヴィオラは、次いで何かを思い出したようにパンッと手を叩いた。
「そういえばモニカさん、もうそろそろメニュー画面のシステムレベルを上げようかなって言ってませんでしたか?」
「あっ、そういえばそうだった」