第三十一話 「祝福の楽団」
特別昇級を果たしてから一ヶ月が経過した。
Cランクになった僕たちは、今まで以上に難しい依頼を任されて日々奮闘している。
受けられる依頼の数もかなり多くなり、時にはギルド側から何かを任されるということもあった。
ただそれも、メニュー画面の力で強くなった僕とヴィオラで楽々と達成することができている。
そして特に躓いたりすることもなくCランク依頼をこなし続けていると、僕たちはいつの間にかB ランクになっていた。
「Bランク昇級、おめでとう」
「はい、おめでとうございます」
現在、その祝いをするべく、ギルド近くの食事処でグラスを打ちつけ合っている。
それから二人して果実ジュースを呷ると、ヴィオラが感慨深そうに呟いた。
「Cランク昇級から一ヶ月でBランク昇級ですか。なんだかあっという間でしたね」
「うん。本当に怖いくらい順調だよ」
パーティー結成から僅か一ヶ月と少しでBランク昇級。
話によれば、歴代でも指折りの記録らしい。
そのため今は、冒険者の口々から“祝福の楽団”の名前を聞く。
「まあ、これだけ強い仲間がいたらBランク昇級も当然な気もするけど」
「い、いえいえ、私なんてまだまだ。それにこの力はモニカさんが目覚めさせてくれたものですし」
と謙遜しているけれど、やはりヴィオラの才能に助けられている面が大きいと思う。
見ただけで魔法を模倣できる『賢者の魔眼』の能力。
唯一無二のその力であらゆる魔法を習得している彼女は、まさに賢者の名に相応しい。
僕はただ足りなかった魔力値を『パーティーメニュー』の数値操作で補っただけだし。
「Bランクからもヴィオラの魔法には期待してるから」
「が、がんばります」
やや意地悪なことを言うと、ヴィオラは苦笑を浮かべた。
「でもそろそろ“新しい仲間”もほしいところだよね」
「新しい仲間、ですか?」
「うん。僕たち今日まで二人で活動をしてきたけど、Bランクからは依頼の難易度も跳ね上がるみたいだし、頼もしい仲間があと一人か二人はほしいかなって思ってさ」
まあ正直、僕とヴィオラの二人だけでも依頼達成は充分できると思う。
それくらい『恩恵の数値を自由に操作できる』という、メニュー画面に備わっている能力は強力だから。
もしかしたらこのまま、二人だけでSランクまで行けるのではないかというほどの勢いである。
しかし……
「パーティーメニューの恩恵操作は、人数に上限がないみたいだから、なるべく仲間は多い方がいいと思ってさ。僕たちはとにかく上のランクへの昇級を目指してるわけだし、頼もしい仲間は多い方がいいでしょ?」
「まあ、それもそう……ですね」
一応、冒険者ギルド側の規則として、パーティーメンバーは十人以下という決まりがある。
だからパーティー申請をして仲間に加えられる人数は、あと八人ということになるけれど、八人の恩恵を自由に操作できると考えたら仲間を増やしておいて損はないだろう。
ヴィオラくらい化ける人材はそう滅多にいないだろうけど、きっと頼もしい戦力になってくれるに違いないから。
「まあその分、依頼報酬の分配もしなきゃいけないから、増やしすぎるのもよくないと思うけどね。だからとりあえずは、あと一人くらい増やしたいなって思ってるんだけど……」
「あと一人、ですか……。い、いいんじゃないでしょうか」
と、ヴィオラは頷いてくれるけれど、心なしか鈍い反応のように思える。
まあヴィオラは若干、人見知り気質だし、貧民街出身ということで周りからの目を気にする性格をしているから。
だから極力、見知らぬ人とは関わり合いになりたくないと思っているのだろう。
仲間を増やすことを快く思わないのも当然か。
それならまあ、ヴィオラが気兼ねなく接し合えるような人物……それこそ貧民街の出身者を蔑視するような性格ではなく、良心的で真っ直ぐな人物を仲間に勧誘してみよう。
「じゃあ、さっそく明日から仲間を募集してみようか。で、集まってくれた人たちの中から、僕たちのパーティーに合ってそうな人を抜擢するってことで」
「……は、はい。それでいいと思います」
いまだにヴィオラは鈍い反応を見せるけれど、とりあえず僕たちは新しい仲間を探すことになった。
Bランク昇級の祝いを早々に切り上げて、その日のうちにギルドの掲示板に仲間募集の紙を張り出しておく。
現在の時刻は夕刻なので、ちょうど依頼から帰って来た冒険者たちがギルドに集まり始めている頃だ。
これなら多くの冒険者の目に留まることだろう。
翌日の昼から面談を行う旨を書いておいたので、僕たちはまた明日改めてギルドを訪ねることにした。
「加入希望者、来てくれますかね?」
「うーん、どうだろうね? このスカの町は冒険者が多いけど、もうパーティーを組んじゃってる人たちが大多数だし、もしかしたらほとんど来てくれないかもね」
募集期間も明日の昼までなので、たぶん来てくれたとしても二人か三人とかではないだろうか。
「でもまあ、集まってくれるだけでもすごく嬉しいけどね。で、その中に一人でもいい人がいることを祈ろうよ」
「はい、そうですね」
というわけでまた明日、ギルドを訪ねることにした。
翌日。
ヴィオラと約束していた通り、お昼頃にギルドの待機所に行ってみると……
「う、うそ……?」
そこには、二十人ほどの冒険者たちが集まっていた。