第二十九話 「規格外の機能」
パーティーメニュー。
僕のメニュー画面のシステムレベルが4になったことで覚醒した新しい機能。
それは、同じパーティーのメンバーを強くしてあげることができる、とんでもない機能だった。
『パーティーメニューではパーティーメンバーの恩恵の数値を自由に割り振ることが可能です』
言ってしまえばこれは、ステータスメニューの拡張機能のようなもの。
自分の恩恵の数値を操作できるステータスメニューと似ていて、パーティーメニューではパーティーメンバーの恩恵値を自由に割り振ることができるのだ。
僕はこの機能を使って、ヴィオラの魔力恩恵値を極限にまで引き伸ばした。
◇パーティー◇
ヴィオラ・フェローチェ
筋力:F0
頑強:F0
敏捷:C400
魔力:SS1200
体力:F0
精神力:C350
幸運:F0
これが今のヴィオラの恩恵値である。
あの時、ヘルプさんが『ヴィオラも戦力として活躍できる』と言い切ったのはこれが理由だったのだ。
すでにパーティーメニューの機能を解析していて、その機能を使えばヴィオラを強くできると確信していたから。
それを聞いた僕は、ヴィオラの弱点であった魔力値の低さを改善させるために、上記のように恩恵の数値を割り振った。
元々高かった敏捷の数値はそれなりに残しておいて、魔法スキルを使うのに必要な精神力はそのままにしておく。
それ以外の必要ない数値はゼロにして、すべて魔力値に注ぐことにした。
結果、彼女は見ただけでどんな魔法スキルも習得して、それを高次元の魔法として模倣できる凄まじい魔法使いになってしまった。
『えっ? あれっ? こ、こんなに簡単に魔力値が上がってしまっていいんですか?』
『まあ、僕もこんな感じで強くなったからいいんじゃない?』
当の本人が一番困惑していたけど、何はともあれ以上の流れを経てヴィオラは強くなった。
今後、同じように仲間ができた時は、ヴィオラと同じように恩恵の数値を操作して強くしてあげることができる。
どうやらパーティーメニューの機能はパーティーに加わった人たち全員に適応することができるみたいで、人数制限もないらしい。
ヴィオラのように頼もしい仲間をどんどん増やすことができると考えると、本当にとんでもない機能だ。
そんなこんなあって強くなったヴィオラと共に、トラック地下坑道の黒巨たちを討伐した後。
傷付いた黄金の鐘を連れて、僕たちは地下坑道を脱出した。
そしてスカの町に戻ってギルドに直行し、トラック地下坑道で起きたことを受付さんたちに報告することにする。
大量の黒巨が発生したこと。
それをすべて討伐したこと。
トラック地下坑道内で『異常発生』が起きた可能性があること。
それらの報告をすると、ギルド内は不思議な沈黙に満たされて、僕らに驚愕の視線が殺到した。
その後、討伐証明を提出したのだが、ギルドの職員さんが直接トラック地下坑道に向かって異常発生が発生したことを確認してくれることになった。
それから翌日。
僕とヴィオラは指示された時間にギルドに向かうと、中では職員長さんが待っていた。
白い髭をもこもこに伸ばした小太りのおじさんで、彼に職員長室に呼ばれて僕たちはついて行く。
「特別昇級じゃ」
「えっ?」
「異常発生によって大量発生した黒巨を、トラック地下坑道内にてすべて討ち倒した功績として、祝福の楽団を“C”ランクパーティーに昇級させることになったのじゃ」
「「……」」
突然そう告げられて、僕とヴィオラは思わず顔を見合わせてしまう。
声を上げて驚きたいのは山々だったが、それは喉の奥に引っ込めて嬉しさだけ噛み締めることにした。
まさかいきなりCランクに昇級できるなんて。
二人して静かに歓喜の表情を滲ませていると、その様子を見た職員長さんが「ふぉふぉふぉ」と愉快そうな笑い声を上げた。
「喜んでもらえたようでよかったわい。ワシはむしろ文句でも言われるのではないかと覚悟していたんじゃがな」
「も、文句ですか?」
「討伐推奨階級Aの魔物が異常発生で大量発生し、それをすべて討ち倒したとなれば、その実力は疑いようもなくAランク相当だと言えるからの。Cランクへの昇級だけでは納得してもらえないかと思ったんじゃ」
そ、そういうことか。
僕たちとしてはCランクにさせてもらっただけでも充分すぎると思っているが、よくよく考えれば黒巨は討伐推奨階級Aランクの魔物だもんね。
「一部の職員たちからはAランクに昇級させてもいいのではないかという意見も挙がったが、“ギルド本部”としては過去に例のない特別昇級はなるべく避けたいと思っておるのじゃろう。過度な待遇は他の冒険者たちへの刺激になってしまうこともあるからの」
「い、いえ、これだけでも充分ですので」
話に聞いた限りだけど、特別昇級はそれ自体がとても珍しいらしい。
一年に一度見られるかどうかの特別待遇で、そんな中で過去に二階級進級をした冒険者パーティーが三、四組しかいないとのこと。
だというのに僕たちは、それをさらに超えて三階級進級。
これ以上の高待遇を受けたら確かに他の冒険者たちから何かしらの不満が出てきそうだ。
僕たちとしてはこれでも充分だし、何よりそれくらいの評価をしてもらえたとわかっただけで感激である。
「此度は誠に感謝するぞ、祝福の楽団。上級冒険者たちが不在の中で、あれだけの数の黒巨が町に攻め込んで来ていたら、いったいどうなっていたかわからんかったからの。これからの活躍にも大いに期待しておる」
職員長さんが髭を撫でながらそう言ってくれて、特別昇級の話は終わりとなった。