第二十三話 「パーティーメニュー」
「パーティー、メニュー?」
ステータスメニューに続いて、またしても機能が不確かなメニューが覚醒した。
思わずヴィオラと顔を見合わせて首を傾げる。
「パーティーメニュー……って、どんな機能なんですか?」
「わ、わかんない……」
一応、ステータスメニューの時と違って、言葉の意味は理解できる。
“パーティー”はおそらく、冒険者“パーティー”のことだと思われる?
ただ、それがどういう機能を宿しているのかは見当もつかない。
まあ基本的に、新しく覚醒した機能って使ってみなきゃわからないものが多いからね。
だから僕はとりあえずメニュー詳細の画面から、最初の画面に戻ってみた。
◇メニュー◇
【アイテム】
【ステータス】
【パーティー】
【ヘルプ】
【セーブ】
【ロード】
そこに覚醒した機能がちゃんとあることを確認する。
にしても、改めてこうして見てみると、最初の頃に比べて随分と機能が充実してきたなぁ。
しかもまだまだシステムレベルを上昇させられるようなので、メニュー画面の潜在能力に驚かされるばかりである。
ともあれ僕は、新しく目覚めた機能を知るために、とりあえず【パーティー】の文字を押してみることにした。
いや、そんなことするより、ヘルプさんに聞いちゃった方が早いか。
(ヘルプさん、このパーティーメニューって……)
その時――
「おい、大丈夫か!?」
「……?」
突然ギルドの出入り口の方から、男性の大声が聞こえてきた。
振り返るとそこには……
「モ、モニカさん、あの人たち……」
「……傷だらけだ。たぶん、魔物にやられた冒険者だと思う」
ボロボロの姿の三人の冒険者がいた。
青年三人組のパーティーで、全員が体の至る所に生傷や痣を作っている。
そんな彼らがギルドにやって来たものだから、色んな人たちが心配するように駆け寄る姿が見えた。
相当一方的にやられてしまったみたいだけど、いったいどんな魔物に遭遇したのだろうか?
見る限り三人はそれなりに実力のある冒険者のようだけど。
すると傷だらけになっている青年たちは、痛ましい様子で声を震わせながら、集まって来た冒険者たちに言った。
「俺ら、“黒巨”にやられたんだ……!」
「トラック地下坑道に、骨人討伐に行ってたんだが、上層にいきなり黒巨が現れて……」
その報告に、周りは途端にどよめき始める。
黒巨。
どっぷりと膨れた腹と丸太のように太い四肢が特徴的な、黒い巨人の魔物。
討伐推奨階級は確か“A”の魔物だったはずだ。
対して骨人は討伐推奨階級がCなので、彼らはCランクパーティーということだろう。
黒巨にやられてしまうのも無理はない。
「ど、どうしてトラック地下坑道に、黒巨が……」
「そんなの俺らの方が聞きてえよ……! このままじゃ、あの地下坑道は誰も近づけねえぞ」
それを受けて、ギルド内が僅かに騒然とし、受付さんたちも慌てたように話し合っている様子が見られた。
トラック地下坑道。僕たちはまだ行ったことがない場所だが、それなりに重要な場所なのだろうか?
『トラック地下坑道は現在でも採掘活動が行われている坑道です。そのため坑夫たちの身の安全を守るために魔物討伐の依頼が定期的に出されています。放っておけば地下迷宮を飛び出して、町までやって来る可能性もあります』
(じゃあ、そこに討伐推奨階級Aランクの魔物が現れちゃったから、みんな慌ててるってことか)
『加えて現在はスカの町を拠点にしている上級冒険者たちが長期の遠征で出払っているため、黒巨討伐を任せられる冒険者がいない状況となっております』
そういえばヘルプさんが前にもそんなことを言っていたっけ。
上級冒険者たちが長期の遠征で出払っているから、依頼の消化率が悪いって。
つまり今、この町に黒巨討伐を任せられる冒険者がいないから、ギルド内は騒ぎになっているわけか。
トラック地下坑道は現在でも鉱石採掘が行われているようだし、最悪町まで魔物が流れ込んでくる危険がある。
ギルドの人たちが困っているのも頷けるな。
となれば……
(ねえ、ヘルプさん)
『なんでしょうか?』
(その黒巨って、僕たちでも倒すことができるかな?)
ここでこの非常事態を解決することができれば、もしかしたら“特別昇級”ができるかもしれない。
一気に階級を上げる絶好の機会だ。
そう思ってヘルプさんに尋ねてみると、心強い回答をくれた。
『現在のアルモニカ様とヴィオラ様の戦闘能力から算出される勝率は……およそ八割です。討伐推奨階級Aランクの魔物も問題なく討伐が可能となっております』
よかった。
ヘルプさんにそう言ってもらえるなら、心置きなく挑戦することができる。
それに万が一それが叶わなかったとしても、【セーブ】と【ロード】の力を使って時間を巻き戻せばなかったことにできるから。
「ヴィオラ」
「はい?」
「黒巨討伐、僕たちでやってみない?」
「えっ……」
唐突にそう提案すると、当然ながらヴィオラは言葉を失って固まってしまった。
それも無理はないと思いながら、僕はその理由を話すことにする。
「もしそれができたら、きっとみんなに実力を認めてもらえると思うよ。特別昇級もさせてもらえるかもしれない」
「……た、確かに、モニカさんほどのお力があれば、その魔物も倒せるかも知れませんね」
ヴィオラは納得したようにこくこくと頷く。
怖がって提案を飲んでくれないかもと思ったが、割と好感触で安心した。
と、思いきや……
「でも、もしそれで昇級できても……」
「……?」
「あっ、いえ、なんでもありません」
ふと、ヴィオラの顔に翳りができた気がした。
何か引っかかる部分があるといった様子。
しかしすぐに元の表情に戻ってかぶりを振ってくれたので、このまま話を進めることにした。
「じゃあとりあえず、依頼として受けさせてもらえるか聞きに行ってみるよ。たぶんFランクパーティーだから任せてもらえないと思うけど、その時は自分たちで倒しに行っちゃえばいいもんね」
で、討伐証明として黒巨の体の一部を持って帰って来れば、実力を認めてもらえて昇級できるに違いない。
まさかこんなに早く特別昇級の機会が巡ってくるとは思わなかった。
弾み出しそうな気持ちをなんとか抑えながら、僕は受付窓口にて受付さんに声を掛ける。
「あ、あの……」
「あっ、申し訳ございません。ただいま問題が発生しており、その対処のためにお時間をいただいておりまして……」
「そのことなんですけど、僕たちに黒巨討伐を任せてもらえませんか?」
「えっ……」
受付さんは驚いたように目を丸くする。
周りの受付さんたちも聞いていたようで、各々が顔を見合わせて困惑していた。
「し、失礼ですが、冒険者手帳を拝見させていただいても……?」
「はい、大丈夫です」
懐から手帳を取り出して渡すと、同時にギルドの職員さんたちが集まって来た。
僕の冒険者手帳を見ながら、小さな声で話し合っている。
「いくらなんでも、Fランクのパーティーに任せられるわけが……」
「しかし他に目ぼしい冒険者もいません……」
「それに祝福の楽団は、ここ最近でかなり成績を伸ばしていますし……」
「Fランクとは思えない戦闘能力を持っているという目撃情報も……」
「いや、ここは素直に上級冒険者たちの帰りを待つ方が……」
何やらそんなやり取りが微かに聞こえてきて、少しずつ不安な気持ちが湧いてくる。
すると最初に声を掛けた受付さんが手帳を返してくれて、意を決した表情で伝えてくれた。
「他の依頼と同様、怪我や事故は自己責任となります。もしそれでもよければ、今回だけの特別措置として黒巨討伐の依頼を発行させていただくことになったのですが……」
「はい、それで大丈夫です」
元からそのつもりだ。
そもそも階級に見合わない依頼を受けようとしているのだから、怪我や事故が発生するのは承知の上である。
まあ聡明なヘルプさんの読みでは、勝率は八割とのことなのでその辺りは心配することがないだろう。
というわけで黒巨討伐の依頼を発行してもらうと、それを受注するために再び冒険者手帳を提示しようとした。
するとその時――
「少し待ってもらおうか」
「……?」
突然後方からそんな声を掛けられて、ヴィオラと共にそちらを振り返る。
なんだか聞き覚えのある声だと思ったら……
それは、“黄金の鐘”のリーダー――カンパネラ・フレスコの声だった。