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第二十二話 「実力の乖離」


 スカの町に移住してから三日ほど経った。

 僕とヴィオラは順調に討伐依頼をこなしており、着実に資金と印章を蓄えている。

 やはりこの町の依頼は報酬と印章を多くもらえるため、目標まで早く手が届きそうだ。

 Eランクへの昇級試験まで、三百個も印章を集めなければならないのかと少し前は絶望していたが……

 現在の印章の獲得数、百二十五。

 もうそろそろ折り返しも見えてくるというところまで迫ってきていた。

 非常に好調である。

 だというのに、なぜかヴィオラは浮かない様子だった。


「なんだか私、あんまり活躍できていないような……」


「えっ、そんなことないでしょ?」


 危険区域のアンプ岩石地から、町に戻る道すがら。

 ヴィオラは落ち込んだようにため息を吐いていた。

 ここ最近の依頼で、あまり活躍を実感できていないらしい。

 まあ、基本的には僕が前に出て戦い、ヴィオラには魔法で補助的なことをしてもらってるからね。

 そう思ってしまうのも無理はない。

 でもヴィオラはヴィオラで、しっかりと祝福の楽団の一員として陰ながら活躍している。


「感知魔法で敵の接近を知らせてくれるし、攻撃魔法で遠距離から戦闘の援護をしてくれるし、暗い洞窟の中を照明魔法で照らしてくれるし、水魔法で美味しい水も出してくれて……。僕としてはすごく助かってるんだけど」


「……なんだかとても地味な活躍しかしていないような」


 僕なりの慰めの言葉を掛けてはみたが、なんだか余計に落ち込ませてしまったみたいだ。

 まあ、地味と言えば地味ではある。

 大切な役割であることに違いはないけど、ヴィオラとしてはもっと冒険者らしく魔物を倒して活躍したいと思っているのだろう。

 ただ、彼女の今の魔力値では、魔物を倒すのにそれなりに時間が掛かってしまうから、いつも僕が一発で殴り倒してしまっている。


「そもそも、モニカさんが強すぎる気がします」


「えっ、僕?」


「どんな魔物も一発で倒しちゃうじゃないですか。私が援護することもなく、一瞬で『ドカンッ!』って……」


「うーん、強いって言っても、結局僕って殴るとか蹴るとかしかできないからなぁ。力で押し倒せない相手が現れたらたぶん勝てないと思うよ。そういう時に魔法で攻撃できるヴィオラがいてくれるから心強いんだよ」


「こんな貧弱な魔法でもですか?」


 ヴィオラは何もない道の先に向かって火の玉の魔法を放つ。

 しかしそれは小ぶりな林檎一つほどの大きさで、シュボッとなんとも言えない音を鳴らして地面に着弾した。

 お世辞にも、威力があるとは言えない。

 ヴィオラが自信を失くしてしまうのも頷ける。


「それにモニカさん、まだまだ強くなってしまうんですよね?」


「えっ?」


「『そろそろメニュー画面のシステムレベルを上げられるぞー』って、つい先日言っていたじゃないですか」


 そういえばそうだった。

 ヴィオラといくつか討伐依頼を達成したことで、またお金が徐々に貯まってきたのだ。

 現在の所持金、48500ノイズ。

 そして次のメニュー画面のシステムレベル上昇に必要な金額は、50000ノイズ。

 これからギルドに討伐依頼の報告に行くので、その報酬と採取品の換金をすればおそらく届く金額だ。

 ステータスメニューを解放して以来の、なんだか久々に感じるシステムレベルの上昇である。

 それはとても楽しみだが、反対にヴィオラは不安げな顔で呟いた。


「私、どんどん置いて行かれてしまうような……」


「ヴィ、ヴィオラだって、色んな魔法を習得できる才能があるんだから、まだまだ強くなれる可能性があるでしょ。それに魔力値だって少しずつ上昇してるんだから、きっと僕よりも強くなれると思うよ……」


 そう慰めても、ヴィオラの表情は一向に晴れないままだった。

 まあ、これだけ魔力値が低かったら、落ち込んでしまうのも無理はない。

 色んな魔法を習得できる才能があるからと言って、魔力値が低いということに変わりはないから。

 あっ、こういう時は……


(ヘルプさん)


『何かお困りでしょうか?』


(ヴィオラがすぐに強くなれる方法とか、何か思いつかないかな? 賢者の魔眼のスキルでどんな魔法でも模倣できるんだから、習得するだけで劇的に強くなれるような魔法とかさ……)


『現存している魔法はどれも、魔力値に応じて威力が変動するようになっております。そのため魔力値そのものを上昇させない限りは、現状の弱みを取り去ることは難しいかと』


 やっぱそうだよね。

 魔法の強さは基本的に魔力値に依存している。

 すべての魔法を習得できるとしても、魔力値が微弱なままでは根本的な問題は解決しない。

 ヴィオラが強くなるためには、やはり低すぎる魔力値をどうにかして上昇させなければならないのだ。

 ていうかそれができたら、それこそヴィオラはとんでもない存在に化けると思うんだけどなぁ。

 それができないにしても、魔力値に依存せず相手を倒せる魔法とかあればよかったんだけど。

 ヘルプさんがないと言うのだからその望みは完全に断たれてしまった。

 人知れず落ち込んでいると、顔を曇らせていたヴィオラが、突然ぶるぶると頭を振って言った。


「……そう、ですよね。せっかくこうして誰かとパーティーを組めたんですから、簡単に諦めてしまってはいけませんよね」


「……?」


「自分なりに、強くなれる方法をもう少しだけ考えてみようと思います。もっともっと、祝福の楽団の役に立てるようになりたいですから」


 これまで接してきて、ヴィオラは気持ち的に弱い部分があると薄らわかってきた。

 だから一度落ち込んでしまうと、しばらく気落ちしたままになってしまう。

 と、思っていたのだが、彼女は意外にも前向きになって気を持ち直すことができたようだ。

 ヴィオラも戦いの中で、少しずつ成長をしているらしい。

 僕にも何かできることがないかと考えながら、ヴィオラと一緒に帰路を進んで行ったのだった。




 ギルドに到着すると、さっそく討伐依頼の報告をすることにした。

 受付窓口にて冒険者手帳と共に、討伐証明も提示する。


岩魔(ボールダー)の討伐お疲れ様でした。こちら報酬金になります」


 岩に人面が付いたような魔物――『岩魔(ボールダー)』。

 岩石地帯に出没する魔物で、人を見つけては飛びついて襲いかかって来る。

 だけでなく、強烈な自爆本能があり、人間を巻き添えにするように積極的に自爆攻撃を仕掛けて来るのだ。

 そんな危なっかしい魔物を五体討伐したことで、報酬として1000ノイズを受け取った。

 続けて、ギルド内に商人さんがやっている採取品の換金所があるので、そちらで換金も済ませる。

 結果、所持金は51200ノイズになった。


「おぉ、もうこんなに……」


 すでに宿屋には前払いで一週間分の宿代を支払っているため、大きな金額が必要になる場面は直近ではない。

 だから今ここで50000ノイズを使って、メニュー画面のシステムレベルを上げてしまっても大丈夫ということだ。

 正直ステータスメニューが強すぎて、これだけでBランクぐらいまでは行けると思うから、これ以上メニュー画面のシステムレベルを上げる必要はないと思うんだけど。

 でも、やはり目指すならもっと上の階級を目指したい。

 さらなる飛躍のために僕は、改めてメニュー画面のシステムレベルを上げることを決心した。


「これで50000ノイズを超えましたね。システムレベルを上げるところ、私も気になるので見てていいでしょうか?」


「えっ? あぁ、そうだなぁ……」


 僕は思わず鈍い反応をしてしまう。

 メニュー画面のシステムレベルを上げると、【自動セーブにより現在の進行状況が記憶されました】っていう一文が出てきちゃうんだよね。

 それだけで時間を巻き戻せることを悟られることはないだろうけど、【セーブ】と【ロード】の機能の一端でも知られてしまうのは危険があるよなぁ。

 この一文だけ手で隠せば大丈夫かな?


『指定の文を非表示にしますか?』


(えっ、そんなことできるの?)


『はい。問題はございません』


 それならまあ、ヘルプさんにそういう設定をしてもらおうかな。

 これならヴィオラにもシステムレベルを上げるところを見せてあげられるし。


「うん、見てても大丈夫だよ。じゃあさっそくやってみよっか」


「はいっ!」


 というわけで興味津々なヴィオラと一緒に、システムレベルの上昇に取り掛かることにした。

 メニュー詳細の画面からシステムレベルの文字列を叩く。


【システムレベルを上げますか? 必要金額:50000ノイズ】

【Yes】【No】


 50000ノイズ。

 これまた大きな金額だが、その分期待値も高い。

 いったいどんな新機能が目覚めてくれるのだろうか。

 僕は緊張しながら【Yes】の文字に指を伸ばして、『よろしくお願いします』と念じながらゆっくりと押した。

 ヴィオラも前のめりになりつつ、メニュー画面に目を釘付けにする。

 そんな彼女に見守られる中、目の前の画面が切り替わって……

 システムレベルが上昇したことを告げる文字列が、僕たちの前に表示された。


【システムレベル上昇 パーティーメニューが解放されました】

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >だから今ここで50000ノイズを使って、メニュー画面のシステムレベルを上げてしまっても大丈夫ということだ。 さも当然のように使おうとしていますが、このお金は分配後のアルモニカ個人の…
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