第二十一話 「優秀な道しるべ」
祝福の楽団を結成した翌日。
その日から僕たちのパーティーとしての活動が始まった。
結成直後は最下位のFランクから始まるが、パーティーというだけで単独の時と比べて受けられる依頼の数は大幅に増える。
だから僕は期待に胸を膨らませながら、パーティーとしての初仕事となる依頼を受注しに行った。
しかし……
「……結局またこれかぁ」
今日も今日とて鬼魔討伐である。
パーティーを組んだから、もっと色々な種類の討伐依頼を受けられると思ったんだけどなぁ。
「まあ、この辺りは比較的に魔物の出没数が控えめですからね。種類もそこまで多くはないですし」
「だからこそ駆け出し冒険者たちの成長の場として機能してる、っていうのはわかってるけど……せっかくパーティー組んだんだから、もう少し違った依頼とか受けたいよね」
パーティーを組んだとしても、まったくの実績がない状態では受けられる依頼も限られてしまうらしい。
加えてカントリーの町の周辺は、比較的に魔物の出没数が控えめのため、低級冒険者同士で討伐依頼の取り合いになっている。
ただでさえ昨今は冒険者志望の少年少女が多いし。
その結果、こうして僕たちはまた鬼魔討伐を任されることになってしまった。
鬼魔はどこにでも湧いてくるし、魔物にしては珍しく生殖機能を有しているから数が多いんだよね。
だから依頼自体が途絶えることはないけれど……
「そういえば鬼魔討伐の『印章』っていくつでしたっけ?」
「一つだけだよ。で、昇級試験を受けるために必要な印章は三百だから……」
「た、単純計算で、三百回はこれをやらないといけないわけですか」
パーティーのランクを上げるためには、昇級試験を受ける必要がある。
そして昇級試験を受けるためには、討伐依頼を達成して押してもらえる印章を稼がなければならないのだ。
依頼の難易度に応じて印章の数も変わり、中には百個の印章を押してもらえる依頼もあるらしい。
その一方で鬼魔討伐で獲得できる印章は一つだけ。
僕たちは一刻も早くパーティーランクを上げたいというのに。
祝福の楽団の活動方針としては、お互いの目的の実現のためにひたすらに上の階級を目指すことになった。
そのために少しでも多くの印章を獲得したいところなのだが、このままでは昇級試験を受けるのにどれくらいかかってしまうのだろう。
一応、特別な功績を上げて『特別昇級』という形で階級を上げることもできるけど、狙ってできるようなことではない。
このまま地道に牛の歩みをしていくしかないのだろうか?
『早期の昇級を目指すのでしたら、活動拠点を変更してみてはいかがでしょうか?』
活動拠点の変更?
どうやらヘルプさんは僕の心の声を聞き取っていたらしく、そう提案してくれた。
『別の地域でしたら魔物の数が多く、その分討伐依頼が豊富に出回っております。印章を多く獲得できる依頼も充分に揃っていますので、そういった地域の町を本拠点にして冒険者活動をすることを推奨いたします』
(な、なるほど。ちなみにどの町がいいとか、おすすめってある?)
『カントリーの町から南に向かった先に、スカの町という場所がございます。周辺の危険区域には多くの魔物が生息していて、スカの町の冒険者ギルドには討伐依頼も充実しています。現在スカの町を拠点にしている上級冒険者たちが長期の遠征で出払っているため、依頼の消化率も低迷気味との情報です』
ならそこに行けば色んな依頼を受けられるってことか。
依頼の消化が滞っているのなら、低ランクの僕たちでもそれなりの依頼を受けさせてもらえるかもしれないし。
それで無事に達成して実力を示して、さらに多くの依頼を任せてもらえるようになれば、早期の昇級が見込めるかも。
「どうかしましたかモニカさん? もしかしてまたヘルプさんと……?」
「そうそう。別の町に行けば、もっと条件のいい依頼とか受けさせてもらえるかもしれないってさ。だからちょっと試しに行ってみない?」
その提案にヴィオラも賛同してくれて、僕たちはカントリーの町から場所を移して、スカの町に向かうことにした。
スカの町まではそう遠くはなかった。
馬車を乗り継いで町を渡り、カントリーの町から一週間ほどで辿り着いた。
「おぉ、結構大きい……」
あまり耳馴染みのない名前の町だったが、カントリーの町と変わらないほどの大きな町だ。
商業施設や工業施設が充実していて、住民も多くかなりの賑わいに包まれている。
加えて町の通りを歩けば、冒険者らしき人たちともそれなりにすれ違い、滞在している冒険者が多いことも見てわかった。
ヘルプさんの話によれば、周辺の危険区域には魔物が多くて討伐依頼が豊富だという。
彼らももしかしたら噂などでそれを知って、この町に依頼を受けに来たのかもしれない。
僕たちも彼らに負けじと、さっそくギルドに向かってみると……
「こちらが祝福の楽団に紹介できる依頼となっております」
「おぉ……」
ヘルプさんの情報通り、たくさんの依頼を受付さんに紹介してもらえた。
カントリーの町では鬼魔討伐と、たまに何か一つ手頃な依頼を一緒に紹介してもらえるだけだったけど、この町では一気に五つも依頼を提示してくれた。
しかもどれも獲得できる報酬金額と印章が多い。
Fランクパーティーに任せていいような依頼ではないものも含まれている気がするが、それだけ人手不足ということなのだろう。
僕はヴィオラに目配せをして、彼女の了承を得ると、提示された中で最も報酬と印章が得られる依頼を引き受けることにした。
「この小魔討伐の依頼を受けさせてください」
「はい、かしこまりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
耳に馴染んだ挨拶を背中に受けながら、ギルドを後にすると、笑みを深めてヴィオラと顔を見合わせた。
「これなら仕事に困ることはなさそうだね。それにすぐに印章も貯まりそうだし、昇級試験を受けられる日もそう遠くないんじゃないかな」
「スカの町に来て大正解でしたね」
さすがヘルプさん。
いつでも僕たちを最適解の道に導いてくれる。
というわけで僕たちは、しばらくこの町で活動をして、パーティーランクの昇級を目指すことにした。