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第二話 「再出発」


 Sランクパーティーを追い出された僕は、隣町の宿部屋で腐ったように引きこもっていた。


「……これからどうしよう」


 突然パーティーを追い出されてしまったので、行く当てもなく途方に暮れている。

 真っ先に考えたのは、故郷の村の『クラシカル』に帰ることだ。

 しかしここで故郷に帰ってしまえば、呪われた妹を助けることができなくなってしまう。

 田舎の農村で畑を手伝っているだけでは、莫大な治療費を稼ぐことはできないから。


『必ず僕がコルネットを助けるから。それまでここでお母さんと一緒に待ってて』


 この地上には『魔物』と呼ばれる怪物が蔓延っている。

 人間に対して並々ならない憎悪を抱えており、こちらを見ればすぐに襲いかかって来る。

 その中でも特に危険性の高い人型の魔物を『魔人』と呼んでおり、僕の妹――コルネット・アニマートは、そんな魔人に忌まわしい呪いをかけられて、立って歩くこともままならなくなってしまったのだ。

 だから僕は莫大な解呪費を稼ぐために、魔物討伐を生業としている『冒険者』になったのである。

 冒険者は大成さえしてしまえば、平民でも大金を稼ぐことができる職業だから。


「はぁ……」


 その目標が近いうちに叶いそうだったというのに、まさかのパーティー追放。

 せっかくパーティーのランクが“S”になって、これから高報酬の依頼がたくさん舞い込んでくるところだったのに。

 あのパーティーでの報酬分配は、僕の取り分がたったの“0.5割”だったけど、Sランクの依頼ならばそれでもかなりの大金になる。

 やっぱりコルネットの解呪費を稼ぐなら、冒険者として大成を目指すのが一番いいよなぁ。

 一応、昔は賽を使った“賭け事”が少し流行っていて、庶民の間では食料や物品、貴族の間ではお金なんかも賭けていたらしい。

 そういう場が残っていれば、もしかしたら【セーブ】と【ロード】の力を使って大金を稼ぐこともできたかもしれないけど、今は宗教的な問題とかで廃止されてしまっているし。


 だからやはり、僕には冒険者の道しか残されていない。

 けど、パーティー追い出されちゃったし、本当にこれからどうしよう……?

 パーティーを追い出されたショックで、冒険者を辞めるという選択肢が脳裏をチラつく。


「……いいや、ここで諦めちゃダメだ」


 冒険者を辞めてしまったら、きっとコルネットの呪いは一生解いてあげることができなくなってしまう。

 十四の幼い少女の体を蝕んでいる呪いは、肉体を衰弱させるというもので、自然治癒する可能性は完全にゼロだと聞いた。

 外で元気よく遊ぶ姿が印象的だった少女が、半分寝たきりのような状態になった光景は痛ましいの一言に尽きる。

 僕はもう一度、コルネットが元気いっぱいに外を駆け回っている姿をこの目で見たい。


『あんまり無理しないでね、お兄ちゃん』


 またどこかのパーティーに入らないと。

 冒険者依頼の多くは単独(ソロ)では受けられず、二人以上のパーティーを組んでいる必要がある。

 もちろん一人で受けられる依頼もあるけれど、ソロでの僕の冒険者ランクは最低の“F”だ。

 今から冒険者ランクを上げるにしても、やはり誰かとパーティーを組んでパーティーランクの方を上げた方が賢明である。


「となると、目的地は……」


 僕はメニュー画面を開いて、【アイテム】の文字をタンッと叩いた。

 すると目の前に所持品の一覧が表示されて、その中から『ポップス王国の地図』と『ゴスペル王国の地図』を見つけて二つとも叩く。


【ポップス王国の地図を取り出しますか?】

【Yes】【No】


【ゴスペル王国の地図を取り出しますか?】

【Yes】【No】


 どちらも【Yes】を押して二枚の地図を取り出すと、僕はそれを確認して行き先を決めた。

 目指すはゴスペル王国の西部にある、駆け出し冒険者が集まる町――『カントリー』。

 このポップス王国からもそれほど遠くなく、ホルンたちと冒険者を始めた当初もお世話になった町だ。

 あそこならきっと、僕と同じように仲間を探している駆け出し冒険者が多いはず。

 新たに冒険者として再出発するならそこしかない。

 そうと決めた僕は、メニュー画面の【アイテム】に地図を押し込んで、さっそく馬車乗り場へと向かったのだった。




 元々、ホルンたちとは“幼馴染”同士の縁でパーティーを組んだ。

 昔からよく五人で行動をしていて、将来は必ず冒険者になろうと誓い合っていた。

 ホルンは一流冒険者の兄に憧れて、チェロは本で読んだ地下迷宮をいつか探索するため、リュートは純粋な強さを追い求めて、ティンシャは大好きなホルンと一緒にいるため。

 そして五人で十二歳になったのも機に『神託の儀』を受けて、僕たちは冒険者になるための力を得た。

 神託の儀とは、十二歳を迎えて成人と認められた人間が、神様から『恩恵』と『スキル』を授かることができる儀式である。

 一説によると、大昔に魔物に苦しんでいる人間たちを見かねた神様が、それらに対抗できるように恩恵とスキルを授けてくれたと言われている。

 しかし僕が授かったのは【メニュー】というスキル一つだけで、身体能力を向上させる恩恵の数値も特別高いわけではなかった。

 それでも最初はみんなも同じように恩恵が低く、戦闘経験も浅かったため、協力し合って一歩一歩成長していった。

 そんな駆け出し時代を過ごした町『カントリー』に、僕は久々にやって来たのだった。


「あんまり変わってないなぁ……」


 ホルンたちと冒険者登録をした六年前と、ほとんど景色が変わっていない。

 活気に溢れた町の人たちと、その間を駆け足で通り過ぎていく若々しい駆け出し冒険者たち。

 ここなら仲間を探している駆け出し冒険者が多いだろうから、僕でもパーティーに入れてもらえるはずだ。

 これでも一応、Sランクパーティーに所属していた冒険者でもあるのだから。

 まあ、『勝利の旋律』にいたということは隠しておくことにするけどね。

 おそらくすでに、荷物持ちのアルモニカという人間が、実力不足で追い出されたという情報が出回っているだろうから。

 そんな悪印象のある汚名は絶対に名乗りたくないから、僕はあくまで駆け出し冒険者として再出発するつもりだ。

 冒険者ギルドにも、名前を変えて再登録をする予定である。


「……ここも全然変わってない」


 気が付けば冒険者ギルドに辿り着いていた。

 僕は気持ちを新たに中に入り、さっそくギルドの受付口で再登録をする。

 名前を新しく『モニカ』に変えて登録を終えると、僕は次に仲間探しを始めた。

 パーティーで固まっている人たちのところに、積極的に声を掛けに行く。

 駆け出し冒険者は何かと道具に頼ることが多いし、それを制限なく持ち運べる僕は、それなりに有用だと思ってもらえるのではないだろうか。

 ホルンたちにも駆け出しの頃は役立ったと言われたほどだし。

 という、そんな僕の淡い期待は……


「あっ? 荷物持ちだぁ? んな奴入れてる余裕ねえっつーの」


「せめて何か戦闘に役立つ力を持っていたら、考えてやってもよかったが……」


「メニュー? 聞いたこともないスキルだな。そんな力しか持ってないんじゃ、パーティー加入は断らせてもらうよ」


 すぐに打ち砕かれることになった。

 どこのパーティーに声を掛けても、そんな返事ばかりが戻ってきてしまう。

 誰も荷物持ちや雑用係を欲してはいないようだった。

 

「掲示板もダメかぁ……」


 パーティーメンバーの募集用紙を張り出している掲示板も覗いてみたが、僕を取ってくれそうなところは一つもなかった。

 やはり基本的には戦闘職か回復職を募集しているところが多い。

 ホルンたちとは幼馴染の縁でパーティーを組めただけで、実際は荷物持ちや雑用を募集しているパーティーなんてそうそうないよね。

 本当は【セーブ】と【ロード】が使えることを宣伝材料にしたいが、第三者の人間に明かすことはできないし。

 となると、僕がまずやるべきことは……


「……強くならなくちゃ」


 戦力として頼ってもらえるくらいの“強さ”を身に付けること。

 そうしないとやはりどこのパーティーにも入れてもらえないと思う。

 それにまた実力不足を理由に、パーティーを追い出されてしまう可能性だってある。

 あの悲劇を繰り返さないために、パーティーの主戦力となれるように強くなるんだ。

 そうと決めた僕は、修行のついでに簡単な討伐依頼を受けることにした。


「あの、討伐依頼を受けたいんですけど」


 再びギルドの受付口に戻り、冒険者手帳を提示する。

 すると受付嬢さんがランクに見合った依頼を紹介してくれて、僕はその中から手頃なものを選んだ。


「これでお願いします」


「はい、スコア大森林での『鬼魔(ゴブリン)』討伐ですね。指定討伐数は“十体”。報酬金額は“500ノイズ”となっています。お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 一応、前のパーティーでは最低限戦闘には参加していた。

 道具を使って魔物を弱体化させたり、牽制するだけではあったが、おかげで少しは恩恵も育っている。

 鬼魔(ゴブリン)くらいは一人で倒せるだろう。

 だから怖がらずに挑んで、少しでもいいから強くなるんだ。

 メニュー画面の【アイテム】から戦闘用の道具を取り出し、僕は冒険者たちに交じって町を駆け出した。

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