第十九話 「第二の人生」
黄金の鐘の選考試験の翌日。
紆余曲折あってヴィオラとパーティーを組むことになり、今日はその手続きをすることになった。
カントリーの町の中央広場にある噴水前で待ち合わせをして、合流したのちにギルドへと向かう。
昨日は苦しい思いをしたヴィオラだったけど、日を跨いだことで彼女の顔には笑みが戻っていた。
「私、パーティー登録って初めてやります。なんだか少し緊張しますね」
「まあ、そんなに身構えるようなことじゃないから大丈夫だよ」
仰々しい言い方だけれど、普通に名前を登録してパーティーとして認めてもらうだけだから。
何気なくそう返すと、ヴィオラは怪訝そうに眉を寄せた。
「モニカさんは、どなたかとパーティーを組んでいたことがあるんですか?」
「あっ……」
つい口走ってしまった。
幼馴染たちとパーティーを組む時にも、同じようにパーティー登録をしたから。
前にSランクパーティーの勝利の旋律にいたことは、周りに隠すつもりだったのに、思わず口をついてボロを出してしまった。
どう答えたものか迷っていると、戸惑う僕を見てヴィオラは目を細めた。
「……私には言えないような相手、ってことですか?」
「えっ? いやいや、全然違うよ。ただ前のパーティーでいい思い出がなかったから、暗い話になっちゃうかなって思って……」
「そ、そういうことですか」
心なしかヴィオラは安堵しているように見える。
その理由は定かではなかったが、その直後に彼女は頭を下げてきた。
「不躾に聞いてしまってごめんなさい」
「い、いいよ別に。まあ、気持ちの整理がついたら、今度は僕の方から話すからさ」
追い出された時のことを話すとなると、せっかくのおめでたい雰囲気が台無しになってしまう。
だからまた別の機会に、このことは話そうと心に決めた。
その話題はそこで決着して、ちょうどその時に僕たちは冒険者ギルドに辿り着く。
そして受付窓口の方まで二人で向かい、受付さんに声を掛けた。
「あの、すみません」
「はい、何かご用でしょうか?」
「パーティーの登録申請をしたいんですけど」
「かしこまりました。少々お待ちください」
受付さんは手慣れた様子で登録申請に必要なものを持って来てくれる。
ギルド側が行う手続きについては預かり知らないけれど、冒険者側の僕たちがやるべきことは心得ている。
まずパーティー登録ではパーティーに登録する冒険者の名前と、単独での階級を伝える必要がある。
そのため各自の冒険者手帳を受付さんに提示しなければならない。
加えて、パーティーの掛け持ちは禁止されているため、現在所属しているパーティーがないかの確認もする。
それが終わったら、次は行動方針や目標にしている階級、率先して引き受ける依頼の系統などを伝える。
そこを正確に把握してもらうことで、適した依頼をパーティーに回してもらえるようになるのだ。
その他細かい質問に答えたり、要望を書き出したりして大部分の登録申請は終わりとなる。
六年前とほとんど何も変わってないなぁ、なんて人知れず思っていると、最後に重要な手続きが残されていた。
「パーティーネームはどうなさいますか?」
「あっ、そういえばそれがあったのか……」
パーティーネーム。
そのパーティーの看板とも言える名前のこと。
例えば“勝利の旋律”や“黄金の鐘”などがそれに当てはまる。
そういったパーティーネームは、できる限り大衆の印象に残りやすいものが最適とされている。
それによって舞い込んでくる依頼の数が激変するらしく、パーティーネームを変更しただけで依頼の数が倍以上になったところもあるとのことだ。
だから新しくパーティー登録をする人の多くは、名付けにかなり慎重になっている。
ただ、どうしても思いつかない時は、冒険者ギルド側が見繕って付けてくれるみたいだけど。
「そ、そういえば考えていませんでしたね。ギルドの方にお任せしちゃいますか?」
「うーん、そうだなぁ……」
別にそれでもいいけど、どうせなら自分たちに合ったものを付けたいよなぁ。
できるだけ依頼もたくさん入って来てほしいし。
何かピタリとハマるような名前はないものか。
あっ、こんな時は……
(ヘ、ヘルプさーん……)
『何かお困りでしょうか?』
博識で聡明な相棒ヘルプさんに相談することにした。
ヘルプさんなら的確な名前を用意してくれるんじゃないだろうか?
僕たちの印象にぴったりで、かつ依頼がたくさん入ってくるような名前を。
『パーティーネームの考案ですね。しばらくお待ちください』
そんな過剰とも言える期待をかける中、ヘルプさんは数秒の沈黙ののちに答えてくれた。
『“祝福の楽団”などいかがでしょうか』
(祝福の、楽団? その心は……?)
『現存しているパーティーを総合し、依頼受注率とパーティーネームの関係を独自に算出しました。その結果、印象付けがしやすく独自性のある単語がいくつか選出され、それらをアルモニカ様たちの印象と照らし合わせて並び替えたことで、このようなパーティーネームに辿り着きました』
(な、なるほ……ど?)
なんか途中から何を言っているのかわからなくなってしまったけれど。
とにかくこのパーティーネームが、ヘルプさんの考えうる最適な名前ということらしい。
祝福の楽団、か。なんだか例えようのない雰囲気を感じる。
「あのぉ、モニカさん?」
「あっ、ごめんごめん。ちょっとヘルプさんと相談しててさ。それでヘルプさんが“祝福の楽団”とかどうかなって言ってくれてるんだけど」
ヴィオラにも伝えると、彼女は納得したように笑みを浮かべた。
「いいですねそれ。穏やかな感じがとても素敵だと思います」
「じゃあそれで行こっか」
受付さんもそれを聞いていて、僕たちのパーティーネームを『祝福の楽団』として登録してくれる。
冒険者手帳にもパーティー詳細を記載してくれて、以上で登録は終了となった。
「はい、これにて登録の手続きは終了となります。祝福の楽団の今後の活躍を願っております」
受付さんのその言葉に、僕とヴィオラは声を合わせて『はい!』と応えた。
Sランクパーティーの勝利の旋律を追い出された時はどうなることかと思ったけど。
こうして信頼できる新しい仲間を見つけて、また無事にパーティーを組むことができた。
このパーティーならきっと充分な活躍ができるに違いない。
それで階級を上げていって、コルネットの解呪費を稼げるくらい上まで昇り詰めてみせる。
ここから僕の、第二の冒険が始まる。