第百三十二話 「正真正銘の一番」
グーチェンさんの口から“八百長”の言葉が出てきた瞬間、セタールとオルガンの仲間たちは息を呑む。
僅かに遅れて会場にどよめきが走り、その中で僕はヴィオラとミュゼットのふたりと顔を見合わせた。
まさかここでその件が掘り下げられるとは思わなかった。
最終本戦での八百長は気付くのも難しくて、証明もほとんど不可能なはずなのに。
「最終本戦中の参加者同士の会話や、開始直後の明らかな集中狙いから異変を感じ、裏で試験官が調査を行っていた」
続けられたグーチェンさんの言葉を受けて、僕はそういえばと思い出す。
今にして思えば、僕たちがセタールとしていた会話は、傍から聞いていたらすごく違和感のあるものだったように感じる。
さらには最終本戦の開始直後に、四チームが一斉にこちらに仕掛けてきて、それらが合わさって大きな違和感を抱かせていてもおかしくない。
「そして早々に敗退となった参加者を治療している時、秘密裏に魔法で取り調べをさせてもらった。その結果、優勝チーム以外の四チームが結託していた事実が判明した」
客席にいる観客たちが揃って驚いた反応を見せる。
同時にリングの上に立つセタールとオルガンの仲間たちは、額に冷や汗を滲ませてどんどんと顔が下に向いていった。
そんな彼らを追い詰めるように、さらにグーチェンさんが真面目な態度で続ける。
「闘技祭の理念に反する行為として、結託を行った四チームを失格処分とし、二位と三位の入賞を無効とする運びとなった。同時に事前に対処ができなかったことを、闘技祭の管理運営を預かる試験官としてここに謝罪させてもらう」
グーチェンさんが頭を下げるのに合わせて、会場にいる闘技祭の関係者も揃ってお辞儀をしていた。
そして入賞が無効になることを知った八百長当事者たちは、狼狽えた顔で目を泳がせている。
まさかここにきて、八百長が発覚してさらに失格処分が下されるなんて思ってもみなかっただろう。
僕たちも驚いて呆然としていると、観客たちの声が遠くから聞こえてきた。
「四チームが結託ってマジかよ……」
「そういえば優勝したチームだけ変に狙われすぎてたもんな」
「てかそんな中でも優勝しちまったってことかよ」
ますます驚きの視線がこちらに集まって、少しだけ得意げな気持ちにさせられる。
同時に他の四チームのメンバーたちには批判的な視線が集中し、針のむしろのような心地を味わっていた。
微かに『卑怯者』や『正々堂々戦え』といった怒号が聞こえてくるが、自業自得なので仕方がない。
「これを受け、予選と一次本戦も含めて改めて精査を行った。しかし同様の八百長行為は他に認められず、予選と一次本戦は問題なく執り行われたことをここに証明する。よって此度の闘技祭では二位と三位の入賞を失くし、モニカ・アニマート率いるチームが単独優勝となったことを改めて告げる」
その宣告に、会場全体が一瞬だけ静寂に満たされる。
直後、先ほどよりも盛大な拍手と歓声が巻き起こり、僕たちの全身に浴びせられた。
単独優勝。正真正銘の一番。
その嬉しさを噛み締めていると、八百長を行った四チームのメンバーたちから悔し気な視線を向けられていることに気が付く。
彼らはそのまま試験官たちに連れられて会場を追われ、残った参加者は僕たち三人だけとなった。
悪いことはやっぱりできないものだな。
「事前に八百長を食い止められず、彼らには苦しい思いをさせてしまった。しかしそんな過酷な環境下でさえ優勝を成し遂げた彼らこそ、真の闘技祭の覇者であると断言できる。ぜひ彼らの名前とその功績を、広く伝えていってもらいたい」
グーチェンさんに改めてそう言われて、少しだけ照れてしまう。
真の闘技祭の覇者。大袈裟な感じがあるけれど、そう認められたことは素直に嬉しい。
続いて優勝賞金の授与に移ることになる。
しかしここでまたグーチェンさんからお知らせがあった。
「では最後に賞金の授与についてだが、こちらは少し協議したいことがあるため、受け渡しはまた後日に回させてもらえたらと思う」
協議したいこと?
とはなんのことかはわからなかったが、グーチェンさんに改めて問いかけられた僕は頷きを返した。
「で、構わないか? おそらく明日には協議が済み、賞金の受け渡しができると思うが」
「は、はい。僕たちは別に大丈夫ですけど」
ヴィオラとミュゼットにも目配せをして、彼女たちも揃って頷いてくれる。
それに対してグーチェンさんは『ありがとう』とお礼を伝えてくると、次いで観客たちの方へ視線を戻して言った。
「よって此度の闘技祭の表彰式はこれにて閉会とする。ここまで参加者たちの勇姿を見守ってくれた観客たちにも改めて感謝を告げる!」
少しばかりしこりの残るような締め方ではあったものの、客席からは今一度大きな拍手が起こり、闘技祭の閉会を告げる鐘となって響き渡ったのだった。
これにて闘技祭は無事に終了となった。
まだ目的の賞金は手に入っていないが、目標であった優勝を成し遂げることができたので、僕たちは晴れ晴れとした気持ちで会場を後にする。
例に漏れず入り口のところで観客たちに揉みくちゃにされそうだと思ったが、それを見越してか運営側の人たちが観客たちを席に留まらせてくれていた。
おかげですんなりと入り口を抜けられて、僕たちは闘技場を後にする。
そして三人で街道を歩いていると、ヴィオラがハッとした様子で提案してきた。
「この後打ち上げでもどうですか? 闘技祭で優勝できた記念に」
「いいねそれ。さっそくヘルプさんにいいお店探してもらうよ」
こんなにめでたいことはないので、当然ヴィオラの提案に賛成する。
すかさず心の中でヘルプさんにお店を問いかけようとすると、不意にミュゼットが横から声をかけてきた。
「その前にまずは、ギルドへ向かいませんか?」
「んっ、どうしてギルド? ギルドに食堂はないと思うけど」
「そうではありませんわよ! 打ち上げのためではなく、わたくしのことを『パーティー』から外してもらうためですわ」
「えっ?」
思わず足を止めてしまう。
同じくヴィオラも聞き間違いとでも思ったのか、目をぱちくりとさせて言葉を失っていた。
そしてミュゼットは、今のが聞き間違いではないと告げてくるように続ける。
「闘技祭は無事に終わりましたので、わたくしたちの協力関係もおしまいです。あなたに夢を見させていただくのは、ここまでになりますわ」
そう言って彼女は、ぎこちない笑みを僕たちに見せてきた。




