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第百三十一話 「名誉の表彰式」

 長きに渡る戦いを乗り越えて、僕たちはついに闘技祭で優勝を果たした。

 仲間三人でリングの上に立ちながら、客席から送られてくる盛大な拍手を全身に浴びる。

 闘技祭への参加を決めた当初は、優勝できれば幸運かなと思っていたくらいで、まさか本当に栄冠を勝ち取れるとは思わなかった。

 これで目的であった優勝賞金の2000万ノイズが手に入る。


「うっ……!」


 そう喜んだのも束の間、僕の全身から迸っていた赤いモヤが消え、唐突に体が重たくなった。

 思わず僕は膝をついて顔をしかめてしまう。

 まるで肩と脚に大きな鉛を括りつけられたような感覚だ。

 体がほとんど動かせない。


「んっ? どうしたんですの? 表彰式の準備が始まるそうですから、ひとまず端っこに寄りますわよ」


「ご、ごめん、動けなくなっちゃって……。たぶん、自己強化魔法が切れた、反動だと思う……」


「えっ?」


 僕が使っていた自己強化魔法の【オーバードライブ】は、効果が切れたらその後しばらく体を動かせなくなる。

 その反動が今きているようで、僕の体には多大な負荷がかけられているようだ。

 無理をすれば少しだけ動けなくもないけど、この反動は確かにきついな。

 だからヴィオラがこの魔法を貸してくれた時も苦い顔をしていたのか。

 同じくそのことを知っているミュゼットがこくこくと頷く。


「そういえば例の自己強化魔法には反動があったのでしたね。持ち主のヴィオラさんでしたら、どれほどの時間で反動が収まるかわかりますの?」


「えぇ~と確か、三分くらいだったと思います。緩やかに反動が落ち着いていくので、モニカさんでしたらもっと早く動けるようになるとは思いますけど」


「そ、そうなんだ……」


 今は指先ひとつ動かすのが限界なくらい体が重い。

 とりあえず表彰式の準備の邪魔にならないよう、ふたりに腕を引っ張ってもらってリングの端まで引き摺ってもらう。

 とても今回の激戦だった闘技祭の優勝者とは思えない醜態を晒して、客席の方から笑い声なんかも聞こえてくる中、試験官さんたちが忙しなく準備を進めるのをしばらく眺めることにした。

 次第に体が楽になっていく中、横たわる僕の目の前でミュゼットが屈み、間近から見下ろしてくる。


「それにしても他人のスキルまで使えるようになるなんて、あなたの【メニュー画面】はいったいなんなんですの? おかげで最後はわたくしたちの出番がほとんどなかったではありませんか」


「なんなのって言われても、まさか僕もこんな機能が覚醒するとは思わなかったよ。仲間のスキルを借りられるなんてさ」


 【フレンドメニュー】で選択した親友から、【サポートスキル】としてスキルをひとつ借りることができる。

 しかも魔法系スキルだけでなく体術系スキルまで選択することができるようになっている。

 一度親友選択をしてから三十日間は変更ができないけれど、そんなデメリットが霞むほどに利点だらけの機能だ。


「味方も強くすることができて、その味方からスキルまで借りられる【メニュー画面】……。決して敵には回したくない力ですわね」


「まあ、【サポートスキル】の真価が発揮できているのは、【賢者の魔眼】を持ってるヴィオラが味方にいてくれているおかげだけどね」


「私の魔法がお役に立ったみたいでよかったです。いきなり『親友になってくれ』なんて言われた時はびっくりしちゃいましたけど……」


「あ、あの時は驚かせてごめん。つい僕も高揚しちゃっててさ」


 【フレンドメニュー】を覚醒させた直後、ヴィオラから魔法をひとつ借りられるとわかって気分が高まってしまったのだ。

 これでまたより多くのことができるようになったと。

 憧れていた魔法という力を僕も使えるようになったのだと。

 結果的にいつもの力と速さで押し切る戦い方にはなってしまったが、本当に頑張って【メニュー画面】のシステムレベルを上げてみてよかったと思う。

 ちなみに次にシステムレベルを上げるのに必要なものは、前回と同じく希少な魔物の素材を入手すること……ではなく、これまた大きく条件が変わってしまった。


【システムレベルを上げますか? 魔人討伐数:0/100】

【Yes】【No】


 ヘルプさんに聞いてみたところ、これは魔人を必要数討伐しなければならない条件らしい。

 その数なんと百体。

 これまで討伐した魔人を合計しても片手で足りるくらいなので、どれだけ無茶な数を要求されているかは見てわかるだろう。

 しかもこの条件、どうやら魔人の生命活動の停止に一番関与した場合でなければカウントされないらしく、弱っている魔人を狙って討伐しても数字は増えないそうだ。

 つまりほとんど自分ひとりで百体を討伐しなければいけないということ。まさに狂気の条件である。

 これに関してはいくら【ロード】でやり直したところで討伐数は増やせないし、そもそも希少な魔物と同じくらい発見するのが難しくなっている。

 結論として、システムレベルを次に上げるためには、時間で解決するしかないということに落ち着いたのだった。


 そんなことを考えていると、意識を失った参加者たちが治療班に運ばれていく姿が不意に横目に映る。

 その中には今しがた僕が倒したセタールもいて、彼らが運ばれていく様を同じように見ていたミュゼットが言った。


「わたくしたちのチームを蹴落とすためだけに、これだけ大勢の参加者を率いて共闘したなんて、それほどまでに闘技祭で名前をあげたかったようですわね」


「いま冒険者として実力を示せれば、近々予定されてる大規模な討伐作戦にお呼ばれされるかもってことで気合を入れてたんじゃないかって話だよ」


「ふぅ~ん……そこまでして参加する価値があるものなのですか?」


「さあ? 僕たちこの国で活動してる冒険者ってわけじゃないし、こっちの大陸の事情とかはほとんど知らないよ」


 まあ、Sランク冒険者のセタールが参加を望むほどなので、相当な価値があるのは間違いないだろう。

 僕としては賞金が手に入ればそれでいいから、討伐作戦とかには興味ないけど。

 あっ、でも、魔人集団の掃討作戦って話だから、【メニュー画面】のシステムレベルを上げるのにちょうどいい機会なのか。

 ただ大人数で討伐にあたる分、討伐数は思うように増やせないかもしれないし、そのためだけに危険な作戦に参加するのもリスクが大きいよな。

 なんて考えているうちに時間が過ぎ、やがて表彰式の準備が整えられた。

 戦いによって荒れていたリング上が一通り綺麗にされて、このリングの上で表彰を行うらしい。

 そして二位と三位も表彰されるため、セタールのチームのひとりとオルガンのチームのひとりも呼ばれてリングに上がっていた。

 セタールとオルガンはいまだに意識を失っている状態のようで、代わりに別の仲間が表彰式に参列するようだ。


「じゃあ今から表彰式を始める。今回の闘技祭で上位三チームに入った参加者が表彰の対象となる。ぜひ拍手を送ってやってくれ」


 主任試験官のグーチェンさんが、拡声道具に声を乗せて観客たちにそう告げる。

 表彰式までちゃんと残ってくれている人はかなりいて、再び盛大な拍手が周囲から浴びせられた。

 そして表彰式が進められていく。

 入賞したチームと各自の名前が発表されることになり、まずは優勝チームとして僕たちの名前が挙げられることになった。

 名前を呼ばれて、それに合わせて僕たちはぺこりと会釈をする。

 すると僕とヴィオラの名前を聞いても観客たちはぽかんとしていたけれど、ミュゼットの名前を聞いた時少しだけ客席がざわついた。


「ブリランテ? って確か、あの元侯爵家の……?」


「国境防衛を務めてた元名家じゃねえか」


「実力を失くして没落したって聞いたが、まさかそこの子女が優勝するなんてな」


 口々にブリランテ侯爵家の名前が挙がっていく。

 それを受けてか、隣に立っているミュゼットは頬を緩めて、満足げに胸を張っているように見えた。

 どうやら彼女の目的は充分に達せられたらしい。

 没落して見下されている生家の名前を、力を示して再び世に知らしめる。

 ブリランテの力はこれで改めて民衆に伝わったことだろう。

 自分のことのように僕も嬉しく思っていると、続いてセタールとオルガンのチームの表彰に移ることになった。

 だが、その時――


「はぁ、はぁ……!」


 リングの外から、別の試験官が慌てた様子で駆けつけてきた。

 何やら険しい顔つきでグーチェンさんに耳打ちすると、グーチェンさんの赤目が僅かに見開かれる。

 その後、試験官がリングから下りると、何かを伝えられたグーチェンさんが改まった様子で声を上げた。


「これより二位と三位のチームの発表を執り行う予定だったが、その前にひとつこの会場にいる人間全員に伝えなければならないことがある」


 客席を含めて、僕たち参加者の間にもざわつきが走る。

 いったい試験官から何を伝えられたのかと疑問に思っていると、意外な結末へ導くようにグーチェンさんが言った。


「今回の闘技祭の最終本戦にて、八百長が発覚した」

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