第百二十五話 「サポートスキル」
新しく解放された機能、【フレンド】メニュー。
特定の人物を【フレンド】として登録しておくことができ、さらにその中のひとりを【親友】として選択できる。
そして【親友】となった相手からは、武術系スキルもしくは魔法系スキルをひとつだけ借りて、【サポートスキル】として自由に使用することができるようになるという。
それを聞いた僕は、真っ先に思いついた。
『ヴィオラ! 僕と……親友になってくれないか!』
『…………はえっ?』
ヴィオラは【賢者の魔眼】のスキルによって、数多の魔法系スキルを習得している。
魔眼のスキル自体は僕の【メニュー】画面と同じで“特殊系スキル”に分類されるため、【サポートスキル】として使用はできないが……
彼女が習得している多種多様な魔法系スキルなら借りることができる。
だから僕はヴィオラを【フレンド】として登録して、さらに【親友】として選択したのだった。
これで僕はヴィオラからひとつだけ魔法を借りて、【サポートスキル】として自由に使うことができる。
「ミュゼットォ! 昨日までの俺とはちげぇぞ!」
オルガンを筆頭に四チームが目の前から迫ってくる中、僕はヴィオラとミュゼットの前に立つように構える。
そして右手を自分の胸に当てて、静かに息を吸い込んだ。
ヴィオラから魔法を借りることができるとわかった瞬間、ひとつ使ってみたい魔法が脳裏をよぎった。
攻撃魔法の数々を習得している賢者ヴィオラ。
今までにもたくさんそれらの魔法に助けられてきて、近くで見ていてとても羨ましく感じたものだ。
僕もあんなにすごい魔法が使えたらいいなと。
しかし僕は今回、そんな派手で強力な攻撃魔法には目をつけなかった。
魔法をひとつだけしか借りられない関係上、ヴィオラと同じようにステータスを魔力に一点振りして魔法で戦うのは得策ではないから。
であればどうするべきか……
『つい先日とても珍しい自己強化魔法を習得したんです! 筋力、頑強、敏捷の恩恵値をなんと二倍にできる魔法なんですよ』
――やっぱり僕には、こういう戦い方のほうがたぶん合っている。
「じゃあ、借りるよヴィオラ」
「はい、存分にお使いください」
胸に当てた右手にぐっと力を込める。
そして僕はヴィオラから借りた魔法を、自分自身に向けて発動させた。
「【オーバードライブ】‼」
刹那、全身に赤いモヤが迸る。
同時に体の内側から凄まじい力が溢れてきて、脚が羽のように軽くなった。
自己強化魔法――【オーバードライブ】。
黒妖精を討伐する直前のこと。ヴィオラは新しく習得した魔法があると言ってこの魔法のことを教えてくれた。
これで僕の【筋力】【頑強】【敏捷】の恩恵はすべて二倍に上昇している。
溢れ出んばかりの有り余る力に笑みを浮かべていると、眼前からオルガンが飛びかかってきた。
「てめえに用はねえんだよ平民!」
セタールから恩恵を分け与えられているからか、その速度は凄まじく、瞬く間に間合いの内側へ肉薄してきた。
その勢いのままに、奴は右脚を突き出してくる。
本来ならぎりぎりで防げるかどうかという神速の蹴り。
僕はそれを、防ぐどころか横に飛んで、危なげなく回避した。
「なっ――!?」
横目にオルガンの驚愕の表情が映る。
次いで奴は歯を食いしばって憤りを見せると、続けて地面を蹴って僕を追ってきた。
すぐに目の前まで追いつくと、瞬きひとつの間に奴は横をすり抜け、こちらの背後を取ってくる。
およそ人間のものとは思えないほど俊敏な動き。完全に意表を突かれてしまった。
オルガンは再び右脚を振りかぶり、横に薙ぐように全力で振り抜いてくる。
――入る!
奴がそう確信を持って笑みを浮かべたその瞬間、僕はその場から消えた。
「はっ?」
否、消えるように素早く動き、逆にこちらがオルガンの背後を取ってみせた。
今度は僕が右脚を振り上げて、横に薙ぐように脚で風を切る。
ドゴッ‼
「うっ……!」
右脚がオルガンの横腹に直撃すると、奴は呻き声を漏らして吹き飛んだ。
なんとか両足で踏ん張りを利かせて止まったが、苦痛に歪んだ顔を上げてこちらを見てくる。
その表情からは驚愕の感情も窺え、同様にオルガンの後ろに続いていた他の参加者たちも目を疑うような顔で僕を見つめていた。
終始不敵な笑みを浮かべていたセタールの顔も、見事に曇っている。
僕自身も、自分の力がまだ信じられない。
「てめえ、いったい何をした……」
遅れて客席から観客たちの興奮した声が響いてくる中、オルガンは声を震わせる。
そして怒りに満ちた目でこちらを睨み、観客たちの声を掻き消さんばかりに咆哮した。
「なんでてめえなんかが! 俺についてこれんだよ‼」
セタールから恩恵を分け与えられて、絶対的な自信がついていたのだろう。
でもその仮初めの自信は、たった一撃で打ち砕かせてもらった。
逆に僕の方はどんどんと自信に満ち溢れ、純粋な好奇心が加速する。
――この戦いで試してやる。今の僕がどれだけ強いのか。
もうヴィオラとミュゼットにおんぶにだっこの存在ではない。
彼女たちの隣に並んで戦えるようになったのだと、それを証明するために僕は全力で駆け出した。




