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第百二十二話 「希望の光」

 こちらが臨戦態勢に入ったことがわかったのか、一角獣ユニコーンは鼻息をさらに荒げて怒りを示す。

 次いで長い前脚で地面を二度引っ掻くと、奴の赤い眼光が光った気がした。

 瞬間、一角獣ユニコーンが視界から消える。


「――っ!」


 右から微かな風を感じて、咄嗟に飛び退ると、視界の右から左に白馬が駆け抜けていった。

 突進の衝撃で猛烈な風が吹き荒れ、思わず顔を手で覆う。

 いったいいつの間に僕の右側に移動したのか。

 とてつもない速度で右側に回り込んだのだろうが、動きが速すぎてまるで見えなかった。

 この寒さの中で、少しの風の動きも敏感に感じ取ることができるおかげで命拾いしたな。


 左に駆け抜けていった一角獣ユニコーンは、即座に進路を切り返してこちらを向く。

 そして再び角を突き出すように疾走してきた。

 僕は右手に持った『竜晶の短剣』を握りなおし、迎撃する形で攻撃を試みようとする。

 だが……


「くっ――!」


 一角獣ユニコーンの神速に反応し切れず、突進を避けるので精一杯だった。

 鋭利な角が目前を横切り、背筋がひやりと凍える。

 攻撃を躱しつつ斬りつけられたらいいのだが、避けた瞬間にはもう間合いの遥か外まで走り抜けてしまっている。

 かといって攻撃の方に意識を向けすぎて、回避行動がおろそかになれば、鮮血であの角をさらに彩ることになってしまうだろう。

 安全に奴を捉えるためには……


「……あれ使うか」


 僕は左手で二本の指を立てて下から上に弾く。

 すると横長の長方形の画面が表示された。

 一本の指で呼び出すメニュー画面と違って、二本の指を使うことで瞬時に表示させることができる【クイックスロット】画面。

 ここには道具を登録しておくことができ、【アイテム】メニューをごちゃごちゃ操作せずにスムーズに取り出せる機能になっている。

 同時に標準搭載されている【クイックツール】という便利道具も使うことができ、そのうちのひとつを僕は選択した。

 左手に青白い光が灯り、いつでも発動が可能になる。

 再び一角獣ユニコーンが突進してきて、それを紙一重で躱した僕は、間合いの外に出ようとする奴に左手を伸ばした。

 刹那、左手から青白い縄が伸びる。


「――ッ⁉」


 縄は一角獣ユニコーンの体を的確に捉え、ハーネスのように絡みついた。

 あまりの射出速度に一角獣ユニコーンも反応し切れず、驚いたように体を震わせている。

 僕がナイフ以外の攻撃手段を持っているとは思わなかったらしい。

 【クイックツール】機能のひとつである【グラップリングフック】。

 魔法の鉤縄を射出して自由な場所に巻きつけたり張りつけたりできる機能だ。

 普段は自分の体を牽引して移動に使うものだが、その耐久性と伸縮性から拘束手段としても使うことができる。

 素早い相手にはこれが一番いい。


「フスゥゥゥ‼ フスゥゥゥ‼」


 一角獣ユニコーンは【グラップリングフック】の拘束から抜けるためにジタバタと脚を動かしている。

 あの速度を引き出せるほどの脚力なので、凄まじい力強さで逆に引き摺られそうになった。


「ぐっ……うっ……!」


 両足で踏ん張りを利かせながら、僕は【グラップリングフック】を伸ばす左手をそのままに、右手でメニュー画面を開く。

 そして手早く【ステータス】メニューを開き、そこで恩恵の数値をいじった。

 こうして拘束してしまえば、もう攻撃を避ける必要も追いかける必要もない。

 であれば、“俊敏性”は捨ててしまっても問題はないはず。

 今の僕に必要なのは、一角獣ユニコーンを引き寄せられるだけの圧倒的な膂力だ。

 普段は【筋力】と【頑強】と【敏捷】の三つの恩恵に数値を割り振っている。

 そのうちの【敏捷】の恩恵を、すべて【筋力】の方に振る。


◇アルモニカ・アニマート

筋力:SSS+1850

頑強:A+850

敏捷:F0

魔力:F0

体力:F0

精神力:F0

幸運:F0


◇スキル

【メニュー】・メニュー画面を開いて操作が可能


 刹那、脚が鉛のように重たくなり、同時に体の内側から力が溢れてくるのを感じた。

 筋力の恩恵値1800オーバー。

 これだけ筋力の恩恵に一点振りしたのは初めてだ。

 いまだかつてないほどの力に満ち溢れている。

 ぐっと両脚を踏ん張り、渾身の力で【グラップリングフック】を引き寄せた。


「う……らあっ!」


 瞬間、あまりの力強さに、一角獣ユニコーンの巨体が地面から離れる。

 先ほどまでパンパンの酒樽を引っ張っているみたいにビクともしなかったのに、今は中身が抜けた空樽を引いているみたいに軽かった。

 一角獣ユニコーンは四つの脚を投げ出したような体勢で空中に上がり、重い風切り音を立てながらこちらに接近してくる。

 すかさず僕は短剣を仕舞い、改めて右拳を力強く握りしめた。

 これだけの力があれば……


「はあっ‼」


 ――ドンッ!!!


 迫りくる白馬の巨体を押し返すように、右拳を全力で叩き込んだ。

 突き刺さった拳から確かな手ごたえが伝わってきて、そのまま思い切り腕を振り抜く。

 一角獣ユニコーンは消えるような速さで飛んでいき、後方にあった大岩に激突した。

 破裂するように岩の破片が散り、土埃が舞って、衝撃が地面を伝って脚まで響いてくる。

 やがて砂塵が晴れると、半ば潰れたように大岩に体をめり込ませている一角獣ユニコーンが目に映った。

 体が変な形で折れ曲がっており、生気を感じられない。

 息絶えていることが見て伝わってきた。


「……よしっ」


 無事に倒せたことに安堵の息を吐き出す。

 ただまさか、一撃で倒し切れるとは思わなかったな。

 筋力の恩恵値に一点振りすると、ここまでの力を引き出せるのか。

 その代わり足がめちゃくちゃ遅くなるから、限られた状況でしか使えない手だけど。


「さてと……」


 ともあれ【ロード】をすることもなく、一度目の挑戦で倒し切れたことに満足しながら、僕は息絶えた一角獣ユニコーンに歩み寄る。

 【ステータス】メニューで恩恵の数値を元に戻しながら一角獣ユニコーンの前に辿り着くと、改めて懐から短剣を取り出して素材を剥ぎ取ることにした。

 ヘルプさんの指示に従いながら進めていき、無事に目的の素材を回収する。

 ついでに土を掘って一角獣ユニコーンの体を埋めると、手近にあった岩に腰かけて一息ついた。


「ふぅ~」


 一角獣ユニコーンとの戦い自体はそこまで苦戦はしなかった。

 けど、探し出してこの山を登るので相当体力と精神をすり減らしてしまった。

 また同じ手を使ってさらにシステムレベルを上げる手もあるけど、さすがにもうやりたくない。

 それに次に必要になるものが、同じ手段で入手できるかわからないし。

 お金でも魔物の素材でもなく、まったく別のものを要求される可能性もあるので、それは見てから考えることにしよう。

 と、そのことも気になるので、さっそくここでシステムレベルを上げることにする。


「えっと、まずはこれを、【アイテム】メニューの中に入れて……」


 眠気と疲労を感じてウトウトしながら、剥ぎ取った素材を【アイテム】メニューの中に入れる。

 そして最初の画面に戻って上部に表示されている『◇メニュー◇』の文字をぐっと押し、メニュー詳細の画面を開いた。


◇メニュー詳細◇

システムレベル:7

フォント:タイプ1

ウィンドウカラー:タイプ1

サウンドエフェクト:50


 なんだか久々に見た画面だと思いながら、僕は続けて【システムレベル】という文字に触れる。

 すると頭の奥で、水面に雨粒が滴るような音が鳴り、シュッと画面が切り替わった。


【システムレベルを上げますか? 必要素材:一角獣ユニコーンの角片】

【Yes】【No】


 その画面を見つめながら、僕は今一度思いふける。

 これでメニュー画面のシステムレベルを上げることができて、僕はまたひとつ新たな力を目覚めさせることができる。

 しかしそれは闘技祭の最終本戦で確実に役立ってくれるという保証はない。

 これはあくまでもただの保険なんだ。

 できることを増やしておいて、最終本戦で詰む可能性を少しでも減らすための保険。

 だから過度な期待はしてはいけない。

 それでも……


「頼む……!」


 僕は、明日の最終本戦を突破するための重要な鍵になることを祈って、力強く【Yes】の文字を押した。

 百八十一回の夜を越え、ようやくのことで手にした新たな力が、目の前の画面に映し出される。

 しかし毎度のことながら、僕はシステムレベルの上昇を告げる画面を見て、首を大きく傾げたのだった。


【システムレベル上昇 フレンドメニューが解放されました】

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