第十二話 「黄金の鐘」
Bランクパーティー『黄金の鐘』の選考試験を受けると決めた翌日。
実施日程に合わせて冒険者ギルドを訪れると、三十人ほどの冒険者がそこに集まっていた。
「け、結構多いね。これ全員、この町で活動してる冒険者なのかな?」
『一部、別の町から選考試験を受けに来た冒険者も含まれているようです』
ヘルプさんにそう教えてもらって、改めて周りを見渡してみる。
すると確かに、駆け出し冒険者とは違って装備などが整った冒険者が多く見えた。
他所の町からも選考試験を受けに来る人がいるほどなんて。
やっぱりみんな、少しでもランクの高いパーティーに入りたいのだろう。
高ランクのパーティーは、低ランクのパーティーに比べて受けられる依頼の数も質も段違いだから。
そのため各々、やる気をみなぎらせている。
僕も負けじと密かに意気込んでいると、一人の女性がギルドから借りたと思しき踏み台に立って、僕たちの前で話し始めた。
「此度はよく集まってくれた。私は黄金の鐘の副リーダーを務めているチャイム・ガランテだ」
キリッとした目つきと優れたスタイルが特徴的な、大人びた銀色の長髪の女性。
それなりに有名な人なのか、彼女が出て来たことで所々から『おぉ』と感嘆の声が漏れている。
あの人が副リーダーということは、彼女の後ろの方で椅子に腰掛けている金髪の男性がリーダーだろうか?
『あの男性が黄金の鐘のリーダーであるカンパネラ・フレスコで間違いありません。その隣にいる褐色髪の女性はハンドベル・メスト。チャイム・ガランテを含めた以上三名が、黄金の鐘の現メンバーとなっております』
「……前から薄々思ってたけど、ヘルプさんってもしかして僕の心の声とか聞こえてたりする」
小声でそう問いかけると、ヘルプさんは『はい』と端的に返事をしてきた。
やっぱりそうなんだ。
度々、僕の心の声まで聞き取ったように疑問に答えてくれていたから、もしやとは思っていたけど。
じゃあ今までわざわざ声に出して問いかける必要なかったのか。
今になって、独り言のようにヘルプさんに問いかけていたのが恥ずかしくなってくる。
これからは声に出さずにヘルプさんに質問するようにしよう。
それはともあれ、僕は改めてチャイムさんの声に耳を傾けることにした。
「ではさっそく、選考試験についての説明を始めさせてもらう。まず先に言っておくことは、此度の試験における怪我や事故はすべて自己責任となる。それを踏まえた上で参加してもらいたい」
あくまでこれは黄金の鐘が独自に開いている選考試験だ。
そのため安全の保障はされていない。
それはみんなも承知の上で、特に意外そうな反応をする者はなく、話が続けられた。
「試験内容については、このカントリーの町より東に向かった先に、『ノーツ地下遺跡』と呼ばれる危険区域がある。そこで『岩体』という魔物を討伐し、絶命時に落とす“核”を回収して来てもらいたい」
いよいよ試験内容が発表されて、それにはさすがに周りの冒険者たちも戸惑いを見せる。
岩体。
他の危険区域でも目撃される著名な魔物。
全身が強固な岩によって形成されており、その岩を飛ばして攻撃にも用いてくる。
どの個体も人を超えるほど巨大な体を持ち、並の冒険者では討伐が難しいとして有名だ。
適正討伐階級は、パーティー基準で“C”以上だったと思う。
単独での討伐となるとさらに適正階級は跳ね上がるだろうし、みんなが戸惑ってしまうのも無理はない。
他の町で執り行った選考試験も、同等の難易度の試験ならば、これまで合格者が出なかったのも頷けるな。
でもこの試験内容なら確かに実力のほどを測れるし、Bランクパーティーに入れてもらうのならこれくらいの試練は乗り越えないと。
「制限時間はこれより日没までとする。それまでに“岩体の核”を回収して来た者を合格とする。あくまで単独での戦闘能力を測る試験でもあるので、協力しての討伐は禁止だ。是非とも黄金の鐘の力となれる者が、此度の試験で現れてくれることを、私たちは切に願っている」
チャイムさんはそう締め括ると、右手を掲げてそれを素早く振り下ろした。
「それでは、試験開始!」
その声を合図に、冒険者たちは東のノーツ地下遺跡に向けて走り出した。
地下遺跡には、二時間ほどで到着した。
ステータスをいじって敏捷値を上げたおかげだろうか、走る速さも段違いに上昇したように思う。
ただ、制限時間は日没までなので、実質この地下遺跡を探索できる時間は五時間ほどしかない。
岩体を見つけるのに手間取って、討伐するのにも時間がかかってしまったら、確実に間に合わなくなってしまう。
「急ごう……」
だから僕は気を抜かずに、地下遺跡を駆け回って岩体を探すことにした。
一応、地下遺跡前で【セーブ】も忘れずにしておく。
それにしても岩体かぁ……
まあ、戦った経験がないわけではない。
しかしそれも、“勝利の旋律”にいた時の話だし、僕は後衛で補助に徹するだけだったんだよね。
そのため若干の不安がある。
いっそのこと店売りの岩体の核を買って持って帰ったら、合格になったりしないかな?
『岩体の核は時間経過によって色合いや光沢が劣化していきます。そのため討伐直後のものと仕入れたものでは明らかな違いがあり、誰の目から見ても買い取って入手したものだとわかってしまいます』
「……き、聞かなかったことにしてよ」
別に本気でそんなことを考えていたわけじゃないし。
ズルするつもりはなく、ただそういう方法もありなのかなって疑問に思っただけだから。
『それと捕捉事項ですが、現在このノーツ地下遺跡はチャイム・ガランテの“千里眼スキル”によって監視されております。そのため試験参加者の動向は逐一彼女たちに伝わっております』
やっぱりそういう監視の目があったのか。
試験会場となるノーツ地下遺跡に誰も観察に来なかった疑問が、ようやく解消された。
まあ、そんなスキルがあるならわざわざ監視に来る必要はないもんね。
それにギルドにいながら全員の戦闘能力を見定めることができるし。
この選考試験の方法も理にかなっているというわけだ。
いっそのこと手でも振ってみようかと子供っぽいことを考えながら、僕は地下遺跡の探索を進めていく。
だが……
「ぜ、全然見つからない……」
地下遺跡に入ってから一時間。
目標の岩体がまったく見つからなかった。
自然と焦りの気持ちが湧いてくる。あまりにも運がない。
せっかく強くなって、戦力としても活躍できるようになったというのに、運の悪さで選考試験に落ちるなんて勘弁だぞ。
そんな時……
「な、なんでこんなに硬いんですかぁぁ!」
「んっ……?」
どこからともなく、少女の幼なげな声が聞こえて来た。
通路の先にある曲がり角の方から聞こえた気がする。
花に誘われる蝶のように、釣られてそちらを見に行くと……
通路を曲がった先では、岩の巨体と黒髪の少女が戦闘を行っていた。