第百十九話 「変えられない結果」
最終本戦の対戦形式は、基本的には事前に知らされず当日に参加者たちの前で明かされる。
その情報が洩れてすでに知れ渡っていると公表すれば、運営側は対応をせざるを得ないはずだ。
結果、僕たちの頭を悩ませている悪しき対戦形式を変更させることができるのではないか?
と思って提案してみたのだが……
『運営内部から対戦形式が洩れたことにして、それを報告した場合に予想される運営側の対応は、最終本戦に出場する全チームに対戦形式の事前周知を行うと思われます』
(んっ? それってつまり、対戦形式が漏洩したことはもう仕方がないって考えて、公平になるようにみんなに改めて対戦形式を知らせるってこと?)
『その通りでございます』
対戦形式の変更じゃなく、事前周知の対応になるかもしれないんだ。
その理由をヘルプさんは続けて教えてくれる。
『運営側としては対戦形式の漏洩はさほど危険視されておりません。もし情報の漏洩を危惧しているのだとしたら、ヘルプ機能のように情報を収集できる能力がありふれている中で、前日に話し合いで決めるということはしません』
(まあ、確かに……)
『闘技祭運営側は、事前に情報を収集することも闘技祭の一部と考えていると推察できます。ただしそれが運営内部の不手際によって漏洩したとなれば、公平性を保つために改めて事前に対戦形式を周知することになるかと思われます』
(よくわかったよヘルプさん)
対戦形式の漏洩自体はまったく問題にはならないのか。
だから運営側の対応は、公平性の維持のために最終本戦に出場する全チームに対戦形式の事前周知を行うってことね。
つまり対戦形式を変更させるのは、どう頑張っても無理ってことだ。
この全五チームで執り行う乱戦形式を変えることができれば、活路が見出せると思ったんだけどな。
「うぅーん……」
僕は机の下でこっそりメニュー画面を開き、画面下部に表示されている【セーブ】と【ロード】の文字を見て考える。
いっそのこと大幅に時間を戻して、結託の首謀者であるセタールを予選や一次本戦の段階で落としておくか?
と、それができたらやりたいところではあったが、生憎一次本戦を無事に通過した段階で、僕は【セーブ】を行ってしまっている。
過去に戻って闘技祭をやり直し、最初からセタールを狙うという方法はもう取れなくなってしまっているのだ。
しかし【セーブ】のタイミング自体は間違っていなかったと自分で納得もしている。
過去の自分の行動を少しでも変えれば、悪かった結果も良かった結果もどちらも変わってしまう。
まったく同じ結末というのは容易に手繰り寄せられるものではないのだ。
数分程度の巻き戻しであれば大きく結果は変わらないけれど、一時間や二時間、一日や二日も巻き戻しをして過去を変えてしまえば、もしかしたらミュゼットとこうして一緒にいる時間すら再現できなくなってしまうかもしれない。
僕たち三人が絆を深めて、万全の状態で最終本戦に臨める今のこの状況は、理想のうちのひとつだとも言える。
だからきっとこの選択は間違ってはいない。
(正直なことを言えば、もっと慎重に【セーブ】をするべきだったとは思うけど)
ともあれもう取り返しのつかない状況ではあるため、後悔は飲み込んで先のことについて考える。
だが、僕を含めた全員良案を思いつくことができず、しばしの沈黙が食事の席を支配した。
やがて僕は、半ば諦めたような気持ちでひとつの結論を口に出す。
「……やっぱ、腹をくくって“実力勝負”するしかないか」
「ですわね」
「私もそれしかないと思います」
ヴィオラとミュゼットも同意してくれる。
もう全員から集中狙いをされるのは仕方がないと割り切り、実力でねじ伏せるしかない。
対戦形式からして集中狙いが合法とされ、その状況をどうやっても避けられないのだとしたら、もう腹をくくるしかないじゃないか。
それに僕はともかく、ヴィオラとミュゼットはこの闘技祭において随一と言っても差し支えないほど個人の能力が飛び抜けて高い。
みんなで協力すれば、十二人の猛者相手でも乗り越えることができるはずだ。
ふたりも覚悟を決めたように、真っ直ぐな瞳をこちらに向けてくれた。
それに今回は、【セーブ】と【ロード】でほぼ確実にやり直しができるようになっている。
闘技祭では相手を死に至らしめる過剰な攻撃は禁止。
であれば、メニュー画面を操作する暇もなく即死させられてしまうというリスクがない。
たとえ最終本戦で負けてしまったとしても、確実に【ロード】ができて最終本戦前に時間を戻せるのだ。
戦力差は圧倒的だけれど、何十回、何百回とやり直しをすればいつか活路が見えてくるはず。
予選と一次本戦の時はまったく出番がなかった【セーブ】と【ロード】だけど、次の最終本戦では擦り切れるくらいこの機能を活用することになりそうだ。
それから僕たちは、しばらく相手の情報を整理しながら話し合いをして、食事が片付いたタイミングで店を後にしたのだった。
「おやすみなさいモニカさん。明日は頑張りましょうね」
「うん、おやすみヴィオラ」
食事の後、僕とヴィオラはとっている宿屋に帰ってきた。
ミュゼットは別の宿屋に部屋をとっているとのことで、少し前に別れたばかりである。
そしてヴィオラとも宿屋の廊下で手を振って別れると、僕も自分の部屋に帰ろうとした。
しかし、廊下を歩いている最中、僕はふと脳裏に不安をよぎらせて足を止める。
最終本戦では実力勝負をするしかないと腹をくくり、最悪【セーブ】と【ロード】を使ってやり直しをすればいいと考えた。
けど……
(……もし、【セーブ】と【ロード】を使って何度も最終本戦をやり直したとしても、覆しようのない実力差があったとしたら?)
現状でもかなりの強さを持つオルガンは、最終本戦ではセタールや他の協力者たちから多大な助力を得る。
その彼が、想定以上の怪物へと昇華し、何度戦っても倒すことができなかったとしたら?
はっきり言って、“詰み”だ。
覆しようのない戦力差があった場合、どれだけやり直したところで敗北の結果は変えられない。
あくまで【セーブ】と【ロード】は記録した時間に戻れるだけの機能だから。
――であれば、最終本戦の前に、やれるだけのことはやっておいた方が絶対にいいよな。
「……ねえ、ヘルプさん」
『はい、何かお困りでしょうか?』
「メニュー画面のシステムレベルを上げるのに、次に必要な素材ってなんだっけ?」




