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第百十七話 「考える時間」

 僕がそう答えると、途端にミュゼットの碧眼がギッと細められる。

 その視線から明らかな憤りを感じ取り、理不尽な怒りを向けられて僕は顔をしかめた。


「じ、自分だってヴィオラの方が強いかもって言ったじゃん……」


「それはそうですが、他の方に言われると多少『ムッ』としますわよ。理不尽でごめんあそばせ」


 ミュゼットはふんと鼻を小さく鳴らしてそっぽを向く。

 次いで彼女は目を細めたまま、ふくれっ面になって聞いてきた。


「で、具体的にどの辺りがヴィオラさんに劣っているのかご教授願えますか? モ、ニ、カ、さん」


「めっちゃ怒ってるじゃん……」


 多少ムッとしただけの態度じゃないでしょ。

 他の人に言われたからっていうより、僕に言われたから悔しかったという感じの方が強い。

 でも、僕だって意地悪のつもりでヴィオラの方が強いと言ったわけではない。

 真面目に考えた結果、ヴィオラに軍配が上がるんじゃないかと思ったんだ。

 その理由を簡潔に伝える。


「だって前提がそもそもミュゼット向きじゃないでしょ。一対一を想定した戦いなんて」


「わたくし向きではない?」


「ミュゼットの強みはあくまで集団戦でこそ輝くものだ。それこそ一緒に戦う仲間がいて本領が発揮される」


 僕はミュゼットの持つ能力を鮮明に思い出しながら、怪訝な顔をする彼女にさらに続ける。


「触れた相手と対象物すべてに加護を付与して守ってあげられる。他人を守れるだけでも希少な力なのに、無生物にも適応できて体力が続く限り無制限に張れるなんて他に聞いたことがない力だよ」


「私が使える防護魔法も、自分のことだけしか守れませんからね」


「そんな感じでミュゼットの力は、守ることに特化しているから、単純に戦闘能力が高いヴィオラには一対一の戦いでは勝てないんじゃないかなって思ったんだ」


 思いのほかまともな意見が来たからか、ミュゼットはぱちくりと瞬きをしている。

 続けて僕は、ミュゼットをフォローするつもりで告げた。


「だから一対一の戦いならヴィオラに軍配が上がると思う。でも、集団戦の時にいてくれたらありがたいのはミュゼットの方だよ。今までに僕たちが経験してきた戦いの中にも、もしミュゼットがいてくれていたらすごく楽だったろうなって場面がいくつもあるからさ」


「……な、なるほど。そういうことでしたらわたくしも納得ですの」


 ふぅ、なんとか丸く収めることができた。

 そもそもミュゼットはまだ能力を覚醒させたばかり。

 僕の【パーティー】メニューの恩寵を受けて間もないのだ。

 その辺りの経験値も加味したら、やはりここはヴィオラに軍配が上がると言わざるを得ない。

 ま、どっちにしろヴィオラもミュゼットも超強いことに変わりはないんだけどね。

 それこそ僕なんかじゃ到底敵わないほどに。

 僕がふたりほど強い存在になれたら、もしかしたら今のこの切羽詰まった状況だって打開できたかもしれないのにな……


「それで、結局あなたは何をぼぉーっとしていましたの?」


「えっ?」


「わたくしたちの話をまったく聞いていなかったようではありませんか? 何か大切な考え事でもしていたんですの?」


 そう言われてハッと我に返る。

 今の話をする前に、とてつもなく重要な情報をヘルプさんから伝えてもらっていたんだ。

 今度は僕が慌てて体を乗り出しながらふたりに告げる。


「そう、大切な話! たった今ヘルプさんから知らせがあってさ、ふたりにも聞いておいてもらわなきゃいけないことなんだ」


「「……?」」


 焦る僕の姿にヴィオラとミュゼットは首を傾げながら、こちらの話に耳を傾けてくれた。




「ほ、他の四チームが手を組んだ、ですか……?」


「明らかな八百長ではありませんの……!」


 僕から情報を受け取ったふたりは、唖然とした表情で声を震わせる。

 せっかくの食事の席だったのにお酒の味もよくわからなくなるほど、空気が重たいものになってしまった。

 完全に食事の手も止まる中、僕は改まった声音で残酷な事実を告げる。


「今のままだと、最終本戦では“一チーム対四チーム”の構図になる。より厳密に言えば三人対十二人だね」


「さ、さすがに十二人を相手にするのは無茶ですよ……! ただでさえひとりひとりが最終本戦にまで残るぐらい強い人たちなのに」


「というか、それが事実でしたら先ほどまでのわたくしたちの話し合いが、完全に無駄になってしまったではありませんか。立ち回りどうこうで解決できる事態ではありませんわよ」


 ミュゼットの言う通りである。

 オルガンたちに最初に狙われるから最終本戦は厳しくなる、なんて悩みはもはや可愛いらしいもの。

 今や他の全チームから総攻撃を受けることになってしまい、立ち回り方で対策できる問題ではなくなってしまった。

 ミュゼットは苦い顔をしながらも、ため息を吐きながら頷く。


「まあ、事前にこれを知ることができただけでもよかったですわ。知らずに一方的に集中狙いされていたらたまったものではありませんもの。モニカさんの持つヘルプという機能には助けられてばかりですわね」


「ですね。八百長に気付かないまま最終本戦を迎えていたと考えると、本当に血の気が引きますね」


 ふたりの意見に激しく同意する。

 同時にヘルプさんの存在に改めて感謝を示した。

 最悪な状況であることに違いはないけど、事前に知ることができただけでもマシだ。

 その情報を基に考える時間が、僕たちには与えられたわけだから。

 最終本戦にどう臨むべきか改めて話し合わないと。


「このことを闘技祭の運営側に告発するというのはいかがですの?」


「まだ実際に八百長が行われたわけじゃないから証拠がないんだよ。おまけに対戦形式からして、ひとつのチームが集中的に狙われたとしても不自然じゃないから」


「本番の最中に八百長を主張しても無駄ということですわね。おおかた向こうもなんらかの手段で事前に最終本戦の対戦形式を知り、結託を思いついたのでしょうね」


 僕の持つヘルプさんに類似した能力だろうか。

 あるいは闘技祭の運営側と繋がっている人物がいたのか。

 どちらにしろ向こう側も最終本戦の対戦形式は知っている感じがするな。

 その点については僕たちと相手側でイーブンだと言える。

 ただ、人数差があまりにもきつい。

 そこだけは情報のみでは覆すのは困難だ。

 でも……


「……とりあえず、十二人全員の情報を引き出すだけ引き出してみるか」


「えっ、そんなこともできますの?」


「ヘルプさんなら簡単だよ。その情報からつけ入る隙が見つかればいいんだけど」


 余計に絶望させられるだけになるかもしれないが、僕は相手の情報をヘルプさんに尋ねた。


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