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第百十六話 「多勢に無勢」

 他のチームと手を組む。

 よく考えなくても、誰かが思いついて当然の作戦だ。

 むしろ最終本戦までそれをしていなかったチームがいないのが不思議なくらいである。

 いや、もしかしたらいたのかもしれないけど、ヘルプさんが報告してこなかったということはそこまで大規模な結託はなかったのだろう。

 しかし今回は闘技祭での勝敗を左右する事態にまで発展してしまった。

 驚くべきことに、なんと全五チームのうち四チームが手を組んでいるという。


(……つまりうちだけハブられたってことね)


 まあ、その理由もヘルプさんから聞いて理解している。

 どうやらこの大陸のギルド本部で重要な討伐作戦が計画されていて、闘技祭で名を残せばその作戦の指揮権が得られるかもしれないということだ。

 だからその指揮権を得るためにどうしても最終本戦で高順位を取りたく、他のチームと協力することを考えた冒険者がいるらしい。

 そういえば闘技祭の参加登録をする前に、ヘルプさんからそのくだんの討伐作戦について教えてもらったような気がする。


『現在、ドーム大陸のギルド本部にて大規模な作戦が計画されています。近年この地で多大な被害を出し続けている魔人集団の足取りを掴んだため、近々精鋭と認められた冒険者のみを集めて掃討作戦を実施する予定です。闘技祭で実力を示すことができれば、その作戦への参加が叶い、討伐隊の指揮権を得られる可能性もあります』


 そのため、同じ冒険者である僕たちは邪魔な存在らしい。

 結果僕たちだけ八百長の話は持ちかけられず、最終本戦で孤立する事態になってしまったようだ。

 とにかく状況が最悪ということだけはよくわかった。

 このままでは最終本戦で、実質“一チーム対四チーム”という無慈悲な構図になってしまう。

 より厳密に人数で言えば“三対十二”だろうか。

 これはもはや戦いではなく、一方的な蹂躙だ。


(うーん……)


 どうにかしてこの状況を変えないと、僕たちの優勝は絶望的だと言える。

 立ち回りを考えて三人バラけよう、なんて作戦を立てたばかりだけれど、その話し合いは水泡に帰した。


(八百長について闘技祭の運営側に前もって知らせておくか?)


 でも実際にまだ八百長が行われたわけではないし、今のところ明確な証拠も残されていないのであまり意味はないか。

 結局シラを切られるのがオチだ。

 それに最終本戦の対戦形式からしても、一チームを集中的に狙うという状況は何も不自然ではない。

 観客たちも、僕らが集中的に狙われている光景を見たとしても『先に落としておかないと危険なチームなんだろうな』程度の認識しかしないはずだ。

 最終本戦の最中に奴らの不正を発覚させるのも難しいだろうな。


(なんでこんな対戦形式にしたんだよ……!)


 聞こえるはずのない文句を心中で爆発させる。

 八百長を認めさせることができたら、すぐにでも連中を失格処分にさせることができるはずなのに。


 であれば、もう実力でねじ伏せてしまうか?

 僕はともかく、ヴィオラとミュゼットは仲間の贔屓目をなしに見ても飛び抜けた戦闘能力を持っている。

 それこそたったひとりで絶望的な戦況を覆せてしまうほどに。

 しかし相手もまた侮れない強者たちが揃っている。

 ただの騎士や冒険者を十二人相手にするくらいだったら、もはや僕だけでも捌き切ることができるだろうけど。

 僕たちが戦おうとしている相手は、十二人全員がこの闘技祭の最終本戦に残った歴戦の猛者たちだ。

 いくらヴィオラとミュゼットが規格外の存在だからといって、一度に十二人の猛者を相手にするのはさすがに厳しい。


 ましてや最終本戦は純粋な力のぶつけ合いではなく、リングからの落とし合いが前提となっている。

 リングから落とされただけで負けというルール上、どれだけ強いヴィオラとミュゼットでも明確な負け筋が存在しているのだ。

 実力でねじ伏せるというのも難しいだろうな。

 言い方は物騒だが、もしただの“殺し合い”であればこのふたりに太刀打ちできる十二人なんて滅多にいないと思うけど。

 もう【セーブ】と【ロード】のトライアンドエラーに賭けるしかないか? なんて思って、ついため息をこぼしてしまいそうになっていると――


「で、どう思いますかモニカさん⁉」


「えっ? な、なに……?」


 唐突に前の席に座っているヴィオラが、体を若干乗り出しながら問いかけてきた。

 何やら興味津々に黒目をキラキラと輝かせている。頬がほんのり赤くなって高揚している様子から少し酔っているようだ。

 いまだに僕らは食事の席に座っており、ヴィオラとミュゼットも自分で注文した料理に舌鼓を打っている。

 僕が考え事をしている間も、ふたりは食べ進めながら歓談をしている様子だったが、その会話の内容までは僕は聞き取れていなかった。

 だから今、ヴィオラから何について問われたのかまったくわかっていない。

 ということを僕の戸惑っている表情から察したのか、ヴィオラが改めて聞いてきた。


「ですから! モニカさんから見て、私とミュゼットさんではどちらの方が“強い”と思いますか?」


「つ、強い? いったいなんの強さの話をしてるの? 圧が強いのはミュゼットの方だと思うけど」


 刹那、『あぁ?』と言いたげにミュゼットが怖い顔でこちらを睨んでくる。

 半ば冗談のつもりで言ったのだが、あながち間違いではなかった。

 ミュゼットはすぐに怖い顔を解き、すぐさま呆れた表情で返してくる。


「わたくしたちの会話を聞いていなかったんですの? 戦いの話ですわよ、戦いの話」


「あぁ、そっちね」


「わたくしとヴィオラさんが、もし一対一で戦うことになったら、どちらに軍配が上がるのでしょうね? という話をしていたのです。それでモニカさんの意見も気になりまして」


「それで、私とミュゼットさんではどちらの方が強いと思いますか? 私は絶対にミュゼットさんに軍配が上がると思うんですけど……」


「いえいえ、確実にヴィオラさんの方ですわ。わたくしの加護ではあなたの魔法をすべて防ぐことはできないと思いますから」


「う~ん……」


 今は最終本戦に向けてどうするべきか考えるのが先決だと思ったが……

 少し興味深い話題でもあったので、僕は真剣に考えて答えることにした。


「う~ん……たぶんヴィオラ?」

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