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第百十二話 「勘違い」

 ヴィオラからの提案を受けて、僕は気まずい気持ちで顔を伏せる。

 いくらミュゼット相手でも、彼女の体を抱えて空を飛ぶのはさすがに憚られた。

 勝ちに執着するのなら、手段なんて選んでいる場合ではないけれど、幸いにもミュゼットも同じ気持ちだったようだ。


「さ、さすがにそれはやめておきましょう。モニカさんにもご迷惑がかかりますし」


「でも、おふたりが上空にいればあの派手目な方たちに狙われることは絶対にありませんよ? 他のチームからも手出しができないので、戦況が落ち着くまではそうした方がいいんじゃないですか? モニカさんもそう思いますよね?」


「あぁ~、う~ん、僕としてはどっちでも構わないんだけど……」


 と、僕からは玉虫色の返答しかできずに言い淀んでしまう。

 ヴィオラのこの様子からして、おそらくひとつ勘違いをしたままだと思い、僕はすぐに彼女の認識を改めようとした。

 するとそれより先にミュゼット本人が、ため息交じりにヴィオラに対して告げてくれる。


「ヴィオラさん、少しわたくしとしては“不本意”な誤解をされているようですので、今一度お伝えしておきますが……」


「はい、なんですか?」


「こちらを確認してくださいませ」


 ミュゼットは先ほどから度々口にしていた、赤い液体の入ったグラスをヴィオラに差し出す。

 それを受け取ったヴィオラは言われた通りに中身を覗き、さらには香りまで嗅いで入念に確認をとった。

 特におかしな部分がなく首を傾げるヴィオラに、ミュゼットは問いかける。


「これを見てなにかわかりませんの?」


「え、えっと……お酒ですよね? わざわざ確かめる必要もない気がするんですけど。そもそも同じタイミングで注文した飲み物なので、ミュゼットさんが何を頼んだのか知ってますし……」


「では、なぜわたくしがこれを頼んだと思いますか?」


「えっ? えっと、その……」


 ヴィオラはおろおろと目を泳がせる。

 これ言ってもいいのかな? と言いたげに不安げな顔になっていて、やがて彼女はじっと見つめてくるミュゼットに気まずそうに返した。


「わ、私たちに合わせて、背伸びしてお酒頼んだのかと……」


「ちっがいますわよ! やはりわたくしのことをお酒の美味しさもわからないお子様だと思っていたのですね!」


「ひぃ! ご、ごめんなさい!」


 憤慨するミュゼットに、ヴィオラは慌てて頭を下げる。

 やっぱり思った通りの誤解をしていたみたいだ。

 思えば飲み物を注文する時、お酒を頼むミュゼットをヴィオラは怪訝な顔で見ていたもんな。

 お酒は基本的に十二以上になれば誰でも飲んでいいけど、その美味しさがわかってくるのはだいぶ先の話だし。


「この見た目のせいでこの手の誤解を何度されたことか……。よろしいですかヴィオラさん。わたくしは今年で十八ですのよ」


「年上ですか⁉」


 改めてミュゼットの年齢を知ったヴィオラは、黒目が飛び出す勢いで目を大きく見開いた。

 ついですかさず驚愕の表情でこちらを見てくる。

 そんなヴィオラに苦笑を返すと、彼女は唖然とした顔で尋ねてきた。


「ま、まさか、モニカさんは知っていたんですか?」


「直接は教えてもらってないけど、ヘルプさんから教えてもらって……」


 まあ、僕も知ったのはついこの前のことだけどね。

 ミュゼットをパーティーに加えて、【パーティー】メニューで恩恵をいじる時だったか。

 改めてヘルプさんが彼女についての情報を教えてくれて、その時に見た目と年齢の相反を知った。

 真実を知らされた時は、僕も大層驚かされたものだ。

 もしかしたらヘルプさんから事前にそのことを聞いていなければ、ヴィオラと同じような失礼をミュゼットにしていたかもしれない。


「そういうわけですので、年齢的にも同じ年頃の殿方に抱えられるというのはよろしくないことですの。ましてや大勢の前でそんな醜態を晒すわけにはいかないのです。“大人の淑女”として」


「そ、そういうことだったんですね。不躾に提案してしまって申し訳ないです」


 まあ、ヴィオラの判断も理解はできる。

 まだお子様と言える年齢なら、異性に抱えられるくらいはなんとも思わないだろう。

 だからヴィオラは何気ない感じで、僕がミュゼットを抱えて飛べばいいのではないかと提案していたのだ。

 その誤解も無事に解けて、ついでに僕もそれらしい理由を思いついたので今一度ミュゼットを抱えて飛ぶ案を却下する。


「それにミュゼットを抱えて飛ぶとなると、両腕が封じられることになって僕自身が戦いづらくなる。背中に張りついてもらおうにもミュゼットは筋力不足で振り落とされちゃうだろうし、自由度と機動力の面から見ても得策とは言えないんじゃないかな」


「で、ではやはり、モニカさんの最初のご提案の通り、三人バラバラに動いて各々で最終本戦に臨んだ方がいいかもですね」


 魔法での狙い撃ちなんかも避けづらくなるし、ふたりまとめて空で攻撃されたら吹き飛ばされやすくなるだろうから。

 諸々の観点から、やはり僕たちは最初の提案通りに動くことにした。

 とりあえずは最終本戦での動き方がまとまったので、一安心していると……


『アルモニカ様』


 不意に脳内にヘルプさんの声が響く。

 不思議なタイミングでの呼びかけに首を傾げながら、僕は心の中でヘルプさんに返した。


(どうしたのヘルプさん?)


『お話し合いの最中で申し訳ございませんが、最終本戦について新たな情報を取得しました』


 最終本戦についての新情報?

 このタイミングで?

 もう最終本戦の対戦形式は正式に決まったんじゃなかったっけ?


(もしかして今、闘技祭の運営側で話し合いが行われて、最終本戦の内容を急遽変更することになったとか……?)


『いえ、内容は場外判定ありのリング上での乱戦のままです。お伝えしたい情報は、最終本戦それ自体ではなく出場するチームに関連することです』


(チーム?)


 ヴィオラとミュゼットが運ばれてきた料理にはしゃぐ姿を見ながら、僕は静かにヘルプさんの声に耳を傾けた。

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