第十一話 「選考試験」
「ほ、本当に……! 本当にありがとうございました!」
「い、いえ……」
野盗たちを追い払った後、商人のおじさんたちを町まで護衛した。
そしてものすごく感謝されて、お礼として2000ノイズをもらってしまった。
そんなつもりはなかったのだが、気持ちとして受け取ってほしいと握らされてしまった。
その後、商人のおじさんたちと別れると、僕は宿屋に向かいながら先刻の戦いを思い出す。
「……僕、強くなれたんだよね」
今でも信じられない。
あの貧弱だった僕が、恐ろしい野盗集団を力尽くで追い返したなんて。
まるで夢でも見ているような不思議な気分だ。
そんな浮ついた気持ちをさらに加速させるように、僕の独り言を疑問として受け取ったヘルプさんが言った。
『実戦経験を度外視した場合、恩恵値のみから算出されるアルモニカ様の戦闘能力の高さは、Aランクパーティーの主力を担う冒険者と遜色はございません。先ほどの野盗たちも、単独で全員の捕縛ができたと予想されます』
「Aランクパーティーの主力……」
そんなに強くなっていたのか。
メニュー画面をいじって、筋力の恩恵値を1220まで釣り上げただけなのに。
でも確かにあれほどの力があるなら、上位パーティーの主力としても充分に活躍できるに違いない。
これなら、きっと……
「……どこかのパーティーに入れてもらえるはずだ」
ステータスメニューが解放されたことで、僕は自由に恩恵の数値を割り振れるようになった。
ここまで明確な強さを手に入れたら、戦力として頼ってもらえるに違いない。
さっそく明日、ギルドでパーティー探しをしよう。
冒険者として大成して、妹の治療費を稼ぐという夢が、現実的になってきた。
翌朝。
さっそく冒険者ギルドに赴き、入れてくれそうなパーティーを探すことにした。
掲示板の中から条件の良さそうなパーティーを探そうとするが、その前に一度自分の恩恵を確かめておくことにする。
メニュー画面を開き、【ステータス】の文字をタンッと押した。
◇ステータス◇
筋力:S1000
頑強:B580
敏捷:B580
魔力:F0
体力:F0
精神力:F0
幸運:F0
昨日、宿屋に帰った後で、実は少しだけステータスをいじった。
筋力に全振りしていた数値を、頑強と敏捷の方にも割り振ってバランスをとったのだ。
野盗のリーダーは一撃で倒せたけれど、殴られた時は痛かったし、脚も速くなければ攻撃を当てられない。
それとヘルプさんいわく、幸運の数値は戦闘において重要性がないためそこも数値をゼロにした。
そして上げすぎた筋力の数値も“1000”に抑えて、頑強と敏捷の方に割り振った結果、このようなステータスになったというわけである。
戦闘系のスキルを持っていなくても、これなら充分に戦力として役立てると思う。
にしてもまさか、ステータスメニューを解放しただけでここまで一気に強くなれるなんてね。
ちなみに次のシステムレベル上昇に必要となる金額は以下の通りだ。
【システムレベルを上げますか? 必要金額:50000ノイズ】
【Yes】【No】
ヘルプさんの情報通り、やはり金額は徐々に増えていくらしい。
しかしステータスメニューが覚醒したことで、50000を稼ぐのもそこまで難しくはなくなった。
次のレベルアップまでそう時間はかからないだろう。
メニュー画面にどんな新機能が目覚めるのか、今からとても楽しみである。
「おっ?」
そんなことを思いながらギルドの掲示板でメンバー募集を見ていると、その中に気になるものを見つけた。
【名前】黄金の鐘
【ランク】B
【募集要項】選考試験にて加入検討 実施日『槍の月/十五日』
メンバー募集をしているパーティーは、基本的にはどのような人材を欲しているかを募集要項に記載する。
例えば“前に出て戦える人”とか、“後ろから魔法で援護できる人”とか。
そして実際に会って、具体的にどんな力が使えるかとか、パーティーの雰囲気と人柄が合っているかを確かめて正式採用となる。
しかしこの『黄金の鐘』というパーティーは、珍しく『選考試験』にて加入させる人を決めるらしい。
駆け出し冒険者が集うこの町のギルドでは、かなり思い切った募集方法だ。
しかもパーティーランクも“B”。このギルドでは滅多にお目にかかれない上位パーティーである。
「ヘルプさん、黄金の鐘って有名なパーティーなの?」
『リーダーのカンパネラ・フレスコを筆頭に、最近頭角をあらわし始めたパーティーです。パーティー結成から僅か一年半でBランクにまで昇級を果たし、これまで失敗した依頼は一つもなく、現在最もAランクに近い有力パーティーと呼ばれております』
へぇ、そんなすごいパーティーがあったんだ。
それもこの町のギルドでメンバー募集をしているなんて驚きである。
こちらとしてはすごくいいタイミングだ。
『Aランクへの昇級試験を前に戦力を揃えるべく、今回のメンバー募集を始めたようです』
「でも、なんでこの町で……? もっと大きなところのギルドで募集した方が、優秀な人が集まると思うんだけど……」
『すでに別の町でも三度、選考試験を実施しております。しかし希望の人材が見つからなかったため、この町で選考試験を執り行うことにしたようです』
そうなんだ。
他の町でも選考試験を開いたのに、欲している人材は手に入らなかったってことか。
選考試験がそこまで難関なのだろうか?
そうなるとますます、この町では希望の人材が見つかりづらいと思うけど……
「よし、それじゃあ、その黄金の鐘の選考試験を受けてみよっか。どうせなら高ランクのパーティーに入りたいからね」
僕なら、その選考試験に合格できる可能性はある。
ステータスメニューを使ってかなり強くなったことだし、ヘルプさんにもAランクパーティーの主力級だとお墨付きだってもらったんだから。
それに今日は槍の月の十四日。
ちょうど明日実施されるみたいなのでタイミングも完璧。
というわけで今日は、明日の選考試験に備えて、軽く討伐依頼を受けるだけにしておいた。
体慣らしも兼ねたその討伐依頼は、割り振った恩恵値のおかげでかなり楽に達成することができた。
ステータスメニュー、やっぱりとんでもない機能である。