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獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


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99 雛

帰国日は、朝から雲一つ無い晴天だった。

二月のハイヤー王国は晴れていても、毎日気温が零度を下回り、風も強い。


だから、鷲箱は、騎士団の詰所近くにある大部屋に置かれ、離着陸の際にのみ、天井にある大きな天窓が開けられる仕組みになっていた。


「突然の要請に応じてくれた事、我が子の命を救ってくれた事、感謝する。また、薬草担当者の件、宜しく頼む。」


「任せろ。父上に報告しておく。」

グレーシス様とカータンス殿下が握手を交わし、カータンス殿下が私の方を向いた。


「リーリス妃、危険な薬草採取に応じてくれた事、息子の事も感謝する。それと、こちらを。その白い国花の髪飾りは、リーリス妃に相応しくない。だから、返して貰いたい。」


カータンス殿下から差し出されたのは、赤い星形の花弁をした、あの採取した薬草であり、国花の髪飾りだった。


「以前にも言った様に、国花は大いなる信頼を意味する。この赤い国花は、我が国に偉大な貢献をした、リーリス妃限定に作られた品だ。どうか受け取って欲しい。」


「大変光栄に思います。」

白い国花の髪飾りをカータンス殿下に返却して、赤い国花の髪飾りを受け取り、右耳に掛けるように付けた。


「ああ、よく似合っている。本当に、雛のようだ。」

結局、カータンス殿下にとって、私は子どもにしか見えていないらしい。


そう言えば王妃殿下にも同じ事を言われた。

可愛がってくれているのだと思う。それは嬉しい。

でも、成人女性としては複雑。


「気に入らないのか?」

「とんでもございません。もう少し大人として見られたい、と思っただけです。」


カータンス殿下が少し目を見開いた。


「?言っておくが、私はリーリス妃を立派な成人女性として見ている。」

「でも、雛みたいって。」


カータンス殿下は、何かに気付いたような表情をした。


「あー、そうか、それで。グレーシス、何故教えない。」

「教えたくないからだ。」


グレーシス様は何を知っているの?

二人を交互に見る私に、カータンス殿下が言った。


「我が国で、雛のよう。と言うのは、愛らしい、可愛らしい、という意味がある。」

「え?そうなのですか?」


グレーシス様を見ると、無言で頷かれた。

では、今まで散々可愛らしい、と言われていたって事!?


「お、リーリス妃、赤なくなって雛みたいだ。」

「……っ!」


意味を知ると非常に恥ずかしい。

グレーシス様が、カータンス殿下から見えないよう、私を背中に隠した。


「いい加減、からかうのは止めろ。」

「大丈夫、からかっていない。本気で言っている。」

「余計嫌だ。」


カータンス殿下が肩を竦めた。


「心配するな。恋愛感情ではない。妹に言う感覚だから、良いじゃないか。」

「分かっているが、感情が拒否するから仕方ない。」


フーッと長い息を吐くグレーシス様に、カータンス殿下が肩を叩いて言った。


「ハイハイ、そんなグレーシスも、結構雛みたいだ。」

「うるさい。」


グレーシス様は肩に置かれたカータンス殿下の手を払うと、鷲箱に私をエスコートしようとした。

空かさず、カータンス殿下が話し掛けてきた。


「妻が、リーリスに宜しく、と言っていた。また遊びに来てくれ、とも。」

「是非、伺います。とお伝えくださいませ。」


「その時は迎えに行ってやろう。グレーシスも来るか?」

「リーリスが行くなら、仕方ない。」

「また、お会い出来る日を、楽しみにしています。」


カータンス殿下に別れを告げ、私達が鷲箱に乗り込むと、オウギワシの騎士に、テナール王国へと運ばれた。


グレーシス様が窓の結露を、サッと拭って外を眺めた。私も一緒に外を眺めた。

断崖絶壁の上には、真っ白な雪に覆われた城が見える。


崖に幾つかある小さな横穴には、ハイヤー王国の国花であり、万能薬と言われる薬草が地面を覆い、花弁の赤色は、まるで絨毯を敷いているかのように見え、

白い雪景色の中、ひと際赤色が輝いていた。


「あそこに行ったのだな。」

「はい、本当は怖くて、途中で止めたいと思っていました。今だから言えますが。」

クスリと笑って告白した。


「……やはり、あの時、震えていたんだな。本当に私の妻は無理をする。」

後ろから腰に手を回され、引き寄せられた。


屋上での別れ際、私が怖くて震えている事にグレーシス様は気付いたらしい。


「それなのに、栽培が失敗したら行くのか?」

うっ、と詰まってからコクリと頷いた。

「行き、ます。」

グレーシス様に、はーっと長いため息を吐かれた。


「我が国から派遣する薬草栽培担当者には、頑張って貰わねばな。」

グレーシス様の頭が、コツンと私の頭に乗せられた。


「それにしても、ハイヤー王国が、わざわざ国まで迎えに来ると言い出すとは。普通はあり得ない。余程の厚待遇だ。」

「そうなのですか?」


私はホーウル王国の時も、ハイヤー王国へ行く時も送迎して貰ったので、それが普通なのかと思っていた。

けれど、違ったらしい。


「ホーウル王国の時は、ホーウル王国から緊急要請があって、ホーウル王国が金を出したからだ。今回は、ハイヤー王国の都合だったから、送迎してくれただけで、本来、外遊でハイヤー王国へ行く時は、自分達で馬車を使い、一か月程かけて崖下迄行き、そこで初めて、ハイヤー王国の騎士が箱を持って迎えに来て、城まで運んでくれる。金を払えば送迎してくれるが、高額だ。」


外遊の際、お金を払って送迎を依頼しない場合、かなり日数に余裕を持って、出掛けなければならないらしい。


「まあ、今回恩を売れたし、我が国の薬草園の担当者を派遣して、薬草の栽培が成功すれば、更に恩が売れるだろう。そうなれば、リーリス以外も外遊の時、送迎してくれるようになるかもな。」


グレーシス様の尻尾が、私の膝に置いてある手に乗った。


「リーリスが居なければ、我が国とハイヤー王国の関係は変わらなかっただろう。リーリスは互いの国に利益をもたらし、友好関係を深める役割を担った。それは凄い事だ。」


グレーシス様に褒められて、自然と顔が緩んでしまう。


「どうした?にこにこして。何かおかしな事を言ったか?」

グレーシス様が首を傾げて、こちらを窺っている。


「いいえ、グレーシス様が褒めてくれるのが、嬉しくてつい、顔が緩んでしまったようです。」

指で頬をマッサージして、普通の顔に戻そうとした。


「……本当、雛みたいだな。」

私の顔を覗き込んだグレーシス様が、慈しむような表情で微笑んだ。


「……っ!」

もう意味を知っているので、照れるしかない。


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