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獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


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96/128

96 偉業

ビュービューと風の吹く音と、窓がカタカタと鳴る音に気が付いて目を開けると、見慣れない青い壁紙と豪華な照明が目に入った。


見知らぬ部屋の見知らぬベッドに寝かされている。

ベッドはふかふかとして暖かく、いつまでも眠っていたい程だった。


どこ?私は何を……。

一瞬訳が分からなかった。

思いの外、爆睡していた様子。


確か……ああ、そうだ!薬草を採取して、その後ふわふわに囲まれて、それから?

コロンと寝返りをうって横を向くと、ベッド脇の椅子に座っているグレーシス様と目が合った。


「そろそろ声を掛けようと思っていた。」

優しく髪を撫でられた。

「ここは?」


「ハイヤー王国の城にある客室だ。騎士の詰所で私も暫く眠ってしまったが、流石にいつまでも騎士達と添い寝させるわけにはいかない。と、カータンスが客室に案内してくれた。」


「そうだったのですね。それにしてもグレーシス様も眠ってしまうなんて、あの心地好さには勝てませんね。」


「全くだ。男の腹毛(はらげ)だと分かっていても、リーリスと、ふわふわの組み合わせには敵わなかったな。」

「腹毛って。羽毛と言って下さいませ。」


グレーシス様の困った表情と、羽毛の捉え方に、クスクスと笑ってしまった。

私にはオウギワシにしか見えなくても、グレーシス様には男性騎士の姿が分かる。だから、複雑らしい。


「七時頃、ブレナルーク国王陛下に謁見するよう連絡があった。謁見の前に話があるから、王宮医師の部屋に来るように、とカータンスから言われている。そろそろ準備した方が良い。」


「そう言われれば、まだ謁見しておりませんでしたね。」


本来ならば、入国して直ぐに国王陛下に挨拶するのが普通だけれど、今回は緊急だったので、まだ挨拶はしていなかった。


「ところで、カータンス殿下の奥様の容態について、何か聞いていませんか?」


私が採取した薬草はちゃんと使えたのか、治療に間に合ったのか、それだけが心配だった。


「何も聞いていないが、カータンスが気落ちしている様子も無かったから、大丈夫だろう。本人に確認すると良い。」


マイとメイに素早く身なりを整えて貰い、心配に思いながら、カータンス殿下が指定した王宮医師の部屋へ、護衛のカールセンを連れて、グレーシス様と向かった。


部屋の扉を開けたカータンス殿下が、私を見るなり、ハグしてきた。


「カータンス殿下?」

「リーリス、君はなんて事をしたんだ。」


喜んでいるような、でも悪い意味にも取れる言葉に戸惑ってしまう。


「取り敢えず離れろ。」

グレーシス様がカータンス殿下を引き離してくれたので、一番気になっていた事を聞いた。


「あの、奥様は大丈夫なのですか?」

「ああ、薬草のお陰で体調も安定して、お腹の子も問題無いそうだ。」


「それは良かったです。」

私の採取した薬草が、無駄にならなかったようで、ホッとした。


「良かったなんてものじゃない。凄い事を成し遂げたんだ、リーリス妃は。」

「凄い事とは?一体リーリスは何をしたんだ?」


グレーシス様が腰に手をやって、カータンス殿下に説明を求めた。


「アレを見てくれ。リーリスが採取した薬草だ。凄い量だろう?あの量をたった十分の間に取ったんだ。」


私が採取した薬草が入っている麻袋が、テーブルに置いてあった。

私は首を傾げてグレーシス様を見た。


「凄いのですか?」

「さあ、私は薬草採取したことが無いから分からないが、凄いと言うなら、凄いのだろうな。」

私とグレーシス様は、ピンと来ていなかった。


「我々が子供十名投入しても、この量は取れない。しかも極寒の中でだ。それに見てくれ。根こそぎだ。」

カータンス殿下が薬草を、一本手にして見せてくれた。


「根こそぎがどうした。」

グレーシス様の冷静な反応に、カータンス殿下が、やれやれと首を振った。


「グレーシスに、この価値が分からないのも、仕方がないか。」

「分かるように話せ。」


グレーシス様の尻尾が床を打った。


「国花であり、万能薬として使える薬草を、城内の畑で栽培して増やす事は、我が国の悲願だった。それには、根こそぎ採取が必須だった。しかし、頼らざるを得ない子どもでは、茎を折って仕舞う。スコップで掘れば、根が切れ、何かしらの成分が出るらしく、周りの薬草まで枯れて仕舞う。だから土に手を出せなかった。」


「それをリーリスは簡単にやり遂げて仕舞ったのだな。」

「そうだ。一体どうやった。」


カータンス殿下が真剣な表情で見つめて来るので、困った。


「教えて頂いた通り、根元を持って引っ張ったら、簡単に抜けたのです。手折った方が良いと思っていたのですが、何度やっても同じなので、諦めました。使えなかったらどうしようか、と心配していたので、良かったです。」


「簡単に抜けた?本当に?」

「はい、面白い位簡単でした。冬の薬草は春に比べて、抜けやすいのかもしれませんね。」


私の意見に、カータンス殿下は首を傾げた。


「そんな筈は無い。しかし、どちらにしても確認は出来ない。我々が冬の国花を採取するのは不可能だ。だから余計にリーリスのやってくれた事は偉大だ。冬の国花を根こそぎ大量採取なんて我々には、絶対に出来ない。」


普通より小さい人間なだけの私が、役に立てたのならば嬉しい。


「カータンス殿下には色々助けて頂いたので、恩をお返し出来たなら、良かったです。」

安堵して微笑むと、カータンス殿下に困ったような表情をされた。


「寧ろ、こちらが国を代表して恩を返さねばならなくなった位だ。父上もそのつもりでいるだろう。」

「そんな大袈裟です。」


確かに横穴まで行くのは怖かったけれど、運んでくれたのは騎士だし、寒くはあったけれど、防寒具も用意してくれた。


薬草採取自体は驚く程簡単で、大したことは決してしていない。

戸惑ってグレーシス様を見ると、安心させるように微笑まれた。


「リーリスが頑張った結果だ。良かったな。」


出来る事をしただけなのに、少し申し訳ない気持ちになった。


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