95 薬草採取
オウギワシの騎士が持つハンモックに座り、左右の布をしっかり握った。
私が座ったのを確認した騎士が羽ばたき、足が宙にぶらんと浮いた。
そして、城の先端から下降して、横穴がある断崖絶壁へと運ばれる。
強い横風にハンモックは、ぶらんぶらんと不規則に揺れ始めた。
落ちる、怖い、怖い、怖い。
なるべく下は見ないよう、上を見上げて、オウギワシの、ふわふわしたお腹を見るように心掛けた。
頑張ったら少し触らせてくれないかしら?お願いしてみましょう。
少しだけ気を紛らわせた。
やっと横穴が見えてきた。
横穴の入り口は出っ張っていて、一人ならば降りられる。
「着陸します。」
オウギワシの騎士が羽ばたきながら、ゆっくりとハンモックを地面に降ろしてくれたので、両膝を立てた状態で、座るように着地した。
そのまま前屈みになって、四つん這いで穴に入り、体を起こして振り向いた。
「では、十分後、お迎えにあがります。」
「宜しくね。」
騎士の言葉にしっかり頷くと、今度は中腰になって穴の奥へと入った。
「まあ、素敵。」
地面一面に赤い花を付けた薬草が、びっしりと生えていた。
根元から引き抜けば、簡単に手折れる、と言っていたわよね。
騎士の言葉を思い出し、なるべく根元から薬草を引き抜く。
「あ……。」
引っ張ったら、根こそぎ取れた。
手折るって言われたのに……。
でも、時間は限られている。
後で切れば良いわよね。
「ああっ!」
また根っこまでついてきた。
もうっ。
力は入れていないのに、スポスポと面白い位に抜けてしまう。
「大丈夫、よね?」
握り潰さなければ良いって言っていたし。
兎に角、時間が許す限り採取して麻袋に入れていたら、大きな麻袋はパンパンに膨らんでいた。
「妃殿下、お時間です。」
クイッと命綱が引かれたので、無理矢理引っ張られないように、大きな声で返事をした。
「今、行きます。待っていて下さいね。」
中腰のまま、パンパンに薬草が詰まった麻袋を持って外に出た。
「お……お疲れ様です。」
お迎えに来たのは二名のオウギワシだった。
一名は麻袋を受け取ると、城へと運んで行った。
もう一名は行きに運んでくれた、ハンモックを持ったオウギワシで、私が座れるように、ゆっくりと布を降ろしてくれた。
ゆっくりと布の中心に座ると、少しずつ浮上するので、左右の布を握り締めた。
完全に私を持ち上げると、行きとは違い、物凄いスピードで上へと運ばれる。
防寒着を着ていても、流石に寒い。
そして、やっぱり揺れて怖い。
城まで運ばれると、そのまま会議室へ直行された。
運ばれている最中、待機していたカールセンが、邪魔になる命綱を切ってくれた。
会議室に用意されていた柔らかいソファーに、ハンモックごと降ろされ、オウギワシの騎士は一度も着地しないで、そのままどこかへ飛んで行ってしまった。
会議室の扉が閉められると、待機していた侍女のマイとメイに、防寒着を素早く脱がされ、着心地の良いドレスを着せられたかと思うと、毛布に包まれた。
「妃殿下、準備出来ました。」
マイが声をあげると、グレーシス様が会議室に入室してきて、私を抱き上げた。
「え?」
私を抱き上げたグレーシス様がそのまま走り出した。カールセンも付いてきている。
一体どこに行くのかしら?
カールセンが素早く部屋の扉を開けて、グレーシス様に抱き上げられたまま部屋に入室した。
部屋は床全てがベッドのような、ふわふわした素材になっている。
部屋には、数名のオウギワシが座っている。
私を迎えに来てくれたオウギワシもいる。
「グレーシス、こっちへ来い。」
カータンス殿下の呼ぶ声が聞こえて、グレーシス様が向かった場所は、複数のオウギワシが座っている中心だった。
四方八方、どこを見てもオウギワシ。
「リーリス妃をここへ。」
カータンス殿下の指示に従って、グレーシス様が、ふわふわしたベッドの上に私を降ろして、となりに座った。
反対の隣には、カータンス殿下が座っている。
「では、皆、頼む。」
カータンス殿下が声をかけると、四方八方から巨大なオウギワシが迫って来た。
潰される……。
思わず目を閉じた。
予想外に、ふんわりと柔らかい感触に包まれて、目を開けた。
「リーリス妃、暖かいだろう。」
カータンス殿下の声に頷いた。
「……はい、とても。ふわふわで暖かいです。」
体全体がオウギワシの羽毛に包まれている。
体は毛布でくるまれていたけれど、顔は出ているので、頬にふわふわした感触が感じられ、心地好くて思わず頬擦りした。
「冬、我々は外へ行ったら、こうして集まって暖め合う。この方法が最も効率良く暖まるからな。」
「確かに、とても暖かいです。」
「私は妻の所へ行くから、グレーシスと暫く暖まっていると良い。よく頑張ってくれた。感謝する。」
カータンス殿下はそう言って、私の頭を撫でて部屋を出て行った。
「リーリス、お帰り。よく頑張ったな。」
グレーシス様も頭を撫でてくれた。
「はい。沢山、採取出来ました。それにしても、ふわふわで気持ち良いですね。」
「ああ、確かにな。男なのは気になるが。」
「そうなのですか?やっぱり私には分かりませんが。」
そう言ってふわふわを堪能してしまった。
「あ―――……仕方ないか。確かに気持ち良いのは認めよう。」
グレーシス様とふわふわに体を預けていると、眠くなってしまった。
きっと暖かいのと、緊張が解けて、安心したのだと思う。
ふわふわにスリスリしながら、そのままいつの間にか、眠ってしまった。
「人間とは言え、王子妃が騎士と添い寝なんて、どうなんだ?さっきから俺、頬擦りされてるんだけど。」
「お前、実は頬擦りされて喜んでるだろう。まあ、殿下が許可したし、王子同伴だから、問題無いだろう。」
「寒い中、薬草採取して貰ったしな。」
「しかし、殿下は暫くと言ったが、いつまでこうしていれば良いのかね?」
「殿下の指示があるまでじゃないか?戻って来るまでは、どちらかが起きるまで付き合うしかないか。」
暫くオウギワシの騎士達は、そのままで居てくれたらしい。
とても優しい、ふわふわの感触が素敵な騎士達だった。




