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獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


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93/128

93 ある寒い日

二月初旬、テナール王国は雪に覆われていた。

私は編み物をしたり、刺繍をしたり、お菓子を作ったりして、穏やかに過ごしていた。


「リーリス妃殿下、至急謁見の間へお越し下さいませ。」

突如、執事のドルフに呼ばれて謁見の間へ行くと、カータンス殿下とグレーシス様が居た。


「リーリスここへ。」

玉座に座るリロイ国王陛下に呼ばれ、玉座の前に行き、跪いた。


「リーリス、只今参りました。」

「顔を上げ、楽にせよ。」

リロイ国王陛下に言われ、立ち上がる。


「リーリス、ハイヤー王国の次期王妃が急病で、お腹の子どもが危険な状況らしい。治すにはリーリスの助けがどうしても必要だ、とカータンス王太子は言っている。次期王妃と、未来の王太子の可能性がある子の命は、我が国にとっても無視出来ない。私はリーリスがハイヤー王国に行く事を許可するつもりだが、判断はリーリスに任せる。どうだ?」


使者ではなく、王太子であるカータンス殿下が直々に来るなんて、余程緊急事態なのだと予想出来る。


それに、ハイヤー王国はホーウル王国同様、存在を人間に知られないようにしている位、人間を警戒している。

それなのに、わざわざ私を名指するのは、何か理由があるに違いない。


理由を聞いたとして、私にしか出来ないなら、断るのも気が引けるし、私自身カータンス殿下には色々と助けて頂いたので、恩返しすべきとも思う。


「私に出来る事があるのならば、ハイヤー王国へ行きたいと思います。」

「だそうだ、グレーシス。」


リロイ国王陛下が、グレーシス様に視線を向けた。


「リーリスが決めたのならば、受け入れます。私とクレイン、護衛と侍従の受け入れを条件にさせて下さい。」


リロイ国王陛下が、グレーシス様からカータンス殿下に目を向けた。


「カータンス王太子、条件は飲めるか?」

「その条件、受け入れますので、至急、出立の準備をお願いいたします。」


カータンス殿下は即座に返答し、リロイ国王陛下が指示を出した。


「グレーシス、リーリス、事態は緊急を要する。直ちに準備を整えよ。」

「「はい。」」


旅程は一泊二日の予定。

私は邸へ戻り、ドルフに報告して、クレインの呼び出しと、侍従を選んで貰い、準備をお願いした。

グレーシス様は騎士団に護衛を依頼する為、騎士棟へ向かった。


三十分後には準備が整い、馬車が停車する広場に、ハイヤー王国から来たオウギワシ姿の騎士と、送迎用の箱(鷲箱、と私は勝手に名付けている)が並んでいた。


早速、侍女のマイとメイが鷲箱に荷物を運んでくれる。

私はグレーシス様を待ちながら、オウギワシの、もふもふとした胸辺りをじっと眺めていた。


なんて気持ち良さそうなの。触ってみたい。

なんて思っていると、グレーシス様が、王魔討専部隊を引き連れてやって来た。


「護衛は、お一人と言っていたのでは?」

「ああ、コイツらは勝手に付いてきた。見送りだそうだ。明日には帰って来るのにな。」


グレーシス様が騎士達を見て呆れている。


「お仕事中に、わざわざ有り難う。」

騎士達に笑顔を向けると、良い笑顔が返ってきた。


「妃殿下、護衛はカールセンに決定致しました。」

エイガーが報告してくれたので、にっこり頷いて、カールセンの方を向いた。


「カールセン、宜しくね。」

「はい。」


カールセンはクレインや侍女達と同じ箱に乗り込む。

私とグレーシス様は、カータンス殿下専用の鷲箱に乗ると決まっていたので、箱に乗ろうとした。

その時、騎士達が、何やら呟いているのが聞こえて来た。


「クソッ、今回もくじ運無かったか。」

「腕相撲なら負けないのに。」


くじ?腕相撲?


「騎士の皆さんは、一体何の任務をしていたのですか?」

首を傾げていると、グレーシス様が遠い目をして言った。


「気にするな。いつもの事だ。我が部隊は変な奴の集まりだからな。」

「そのトップがグレーシスだろう。」


既に、向かいの座席に座っていたカータンス殿下が、からかうように、ニヤリと笑った。


「そうだな、忠誠を誓った騎士達の中で、一番リーリスに忠誠心があるのは私だな。」

グレーシス様が私の手を取って、甘く笑いかけてきた。


「え?」

そんな恥ずかしくなるような内容の話だった?

思わず目を瞬いて赤面してしまった。


「おい、グレーシス。早く帰って妻に会いたい私への当て付けか?」

「事実を言ったまでだが?」


ムスッとして不機嫌モードのカータンス殿下に、グレーシス様が表情を変えずに言った。

私の手を、自分の頬にすり寄せながら。


「無自覚か。全く、達が悪い。」


カータンス殿下は呆れていたけれど、グレーシス様の行動を止めたりはしない。


「ああ、早く帰りたい。」

カータンス殿下が呟いた。


いつの間にか箱は上空へと運ばれ、ハイヤー王国へと向かっていた。


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