88 帰って来た
「やっと帰ってきた――――!」
テナール王国の地に足をつけて、背伸びをする騎士達を見て、笑みが零れる。
出発が決まった十月初旬頃、木々の葉は紅葉前だったのに、十二月になった今は、既に葉は散って、雪が降り、銀世界が広がっている。
吐く息は白く、外気の冷たさで、鼻の先は赤くなり、ツンとする。
二か月という時間の経過を実感した。
夕方四時頃、テナール王国に到着した私達は、リロイ国王陛下が待つ謁見の間へ行き、帰還報告をする。
謁見の間へ行くのは、何だかいつも緊張していた。
けれど、今日は違う。
緊張よりも、リロイ国王陛下とデニス王妃殿下に会える喜びの方が、勝っていた。
玉座に座るリロイ国王陛下は、変わらず威厳を放っていた。
隣に座るデニス王妃殿下も、傍に控えている宰相のイーサンも元気そう。
「王魔討専部隊部隊長グレーシス、妻のリーリス、王魔討専部隊、ハイヤー王国騎士団。王宮医師クレイン、侍女のマイとメイ。全員欠ける事無く、任務を達成致しました。」
グレーシス様が帰還報告をして、謝礼として賜った品の目録を、宰相のイーサンに渡した。
「皆、よく無事に帰ってきてくれた。ハイヤー王国の騎士達も送迎感謝する。簡単ではあるが、別室に食事を用意している。私は参加出来ないが、王太子のティミラーが迎えるから、皆、楽しんで貰いたい。」
「「「ハッ。」」」
リロイ国王陛下が私達に目を向けた。
「グレーシス、リーリスは残るように。」
「「はい。」」
報告は早々に終了し、私達以外は夕食を兼ねた慰労会の会場に移動となった。
全員が退室し終えると、謁見の間には、私達とリロイ国王陛下、デニス王妃殿下だけになった。
いつの間にか、イーサンも席を外している。
「グレーシス、リーリス、此方へ。」
リロイ国王陛下が玉座から手招きするので、高座のすぐ近くへ行く。
「明日、大事な話があるので、二人とも執務室に来てくれ。それと、もう一つ。」
リロイ国王陛下が立ち上がり、高座から降りて来た。
両手を広げたかと思うと、私達を纏めてハグした。
「え?」
「父上?」
私とグレーシス様は、リロイ国王陛下の行動が予想外だったので、少し戸惑った。
「よく帰ってきた。父として嬉しく思う。」
リロイ国王陛下は腕を解くと、グレーシス様の肩に、ポンと手を乗せた。
「たまには親として、息子を可愛がりたいのだ。許せ、グレーシス。」
「……はい。」
グレーシス様はいつもと変わらない対応だけれど、何だか嬉しそうにも見えた。
「リーリスもよく帰ってきた。ホーウル王国だけでなく、ハイヤー王国の信頼も得るとは。予想外だったぞ。」
ポンポンと頭を撫でられた。
「お義父様もお元気そうで何よりです。」
再開出来た事が嬉しくて、思わず顔が綻ぶ。
リロイ国王陛下が再びハグしてくれた。
「息子も良いが、娘も可愛いものだな。」
娘。家族として認めてくれるその言葉が、とても嬉しい。私もハグを返した。
「父上、いい加減リーリスから離れて下さい。リーリスは大人の女性であって、子どもではないのです。」
グレーシス様が呆れたように、リロイ国王陛下に苦言を呈している。
「何だグレーシス、嫉妬か。仕方ないな。」
リロイ国王陛下がグレーシス様に、力一杯ハグをした。
「違うっ。そうじゃない。父上っ、離れて下さい。」
「遠慮するな。」
「してない!」
お義父様に強く抱き締められて、身動きが取れないでいるグレーシス様を、微笑ましい気持ちで眺めていた。
私と同じように二人を眺めていたデニス王妃殿下と、はた、と目が合い、自然と互いに微笑んだ。
「リーリスお帰りなさい。会いたかったわ。」
「ただいま戻りました。私も会えて嬉しいです。」
デニス王妃殿下にもハグされた。
お義父様とお義母様が、お帰り。と言ってくれて、私をちゃんと家族として受け入れてくれる事が、とても嬉しい。
「よく帰って来てくれたわね。兄弟の中で騎士を選んだ貴方が一番心配よ。」
グレーシス様もデニス王妃殿下に、ハグされていた。
「心配をかけてすみません。でも、必ず戻ります。」
グレーシス様が、デニス王妃殿下を慰めるように、ハグを返している姿が印象的だった。
「さて、そろそろ仕事に戻るとしよう。お前達も会場に行かなくてはな。」
お義父様は切り替えるように、威厳のあるリロイ国王陛下の顔になった。
見計らったように、宰相のイーサンが外から出入口の扉を開けた。
リロイ国王陛下が、デニス王妃殿下を伴って、出口に向かって歩きだしたので、私達も後に続く。
今回の要請は私が感染すれば、絶望的な結果になる可能性があった。
私とグレーシス様は勿論、不安だった。
けれど、お義父様とお義母様は、親として心配する気持ちを抱えながら、国王や王妃として、我が子に命をかける任務を強いなければならず、苦渋の決断だったに違いない。
そして、国王と王妃でいる限り、今後も、その決断をし続けなければならない。
「二人とも、決して私達より先に逝くな。分かったな。」
背中越しの言葉から、リロイ国王陛下が、どれだけ心配していたかが伝わって来た。
「「はい。」」
私達は愛されている事を実感して、力強く返事をしたのだった。




