84 謁見の間再び
夜七時から王家主催の夜会が始まる。
グレーシス様の話によると、夜会に招待されるのは、狂気病の応援要請に応じた各国の協力者や、自国で病気終息に尽力した者達なのだとか。
通常の貴族が集まる社交としての夜会とは違い、慰労会の為に開かれる夜会になるのだそう。
最初に指定された集合場所は、入国初日に、謁見の間に呼ばれる迄の間、過ごしていた大部屋だった。
「皆様に各々感謝を伝えたい。と言う国王陛下の希望により、前回同様、順番に声をかけるので、呼ばれるまで、暫くこの大部屋でお待ちください。」
ハーレンス殿下はそう言うと、クレインに声をかけて、二人で大部屋を退室した。
「まさか、こんなに早くリーリスと引き離されるとは思わなかった。」
グレーシス様と騎士団の皆は声をかけられて、渋々大部屋を後にした。
一番最後は、やはり私だった。
「リーリス妃殿下、謁見の間にご案内致します。」
聞き覚えがある声だと思った。
「ネル……殿下。」
実はネル、第四王子だった。
そうクレインから聞いていた。
実感はなかったけれど、王族の正装服を身に纏ったネルは、確かに介助を手伝ってくれたネルだった。
茶色い獣耳に尻尾、茶色い髪はマーチス殿下と同じだけれど、髪は長く、後ろで結んでいた。
他の兄弟と比べて背は低く、色白で華奢な体つきをしているせいか、似ている印象がなかった。
「今まで通りネルで構いません。私は王子、と言っても王宮医師を目指している王宮医師見習いですから。」
ネル殿下は、マーチス殿下と違って、介助の時と言動が全く変わらなかった。
「我が国の為、献身的に尽くして下さった妃殿下に感謝を伝えたくて、コリーニに案内役を替わって貰いました。」
優しげな雰囲気も以前と同じで安心した。
「まあ、わざわざ有り難うございます。ネル殿下だって、とても頑張っていらっしゃいましたよ。」
介助しようとすると、手伝いがやりますから。と言われて、楽をさせて貰った事は多々あったのに、ネル殿下は謙虚だった。
「私は王宮医師見習いですから、治療に関わるのは当然です。父上から話があると思いますが、無症状の感染者が三名見つかりました。クレイン殿にも話をしている筈です。」
それなら出国する前に治療しなければならない。
自然エネルギーを蓄えておかなければ。
「分かりました。そのつもりでおります。それにしても、あの検査方法は画期的でした。話し合いの場に居られなかったのが残念です。」
「妃殿下は我々の話にご興味が?」
謁見の間の扉前に、ネル殿下が立ち止まった。
「ええ、クレインから聞いて、とても楽しそうで、凄い発見だと思いました。」
ネル殿下の尻尾が物凄く動き始めた。
「私達の話に興味を持ってくれる女性がいるなんて……。貴女にもっと早く出会いたかった。」
少し残念そうにする、その気持ちが分かる気がした。
「私もです。」
「え!?」
ネル殿下の尻尾が一瞬、ピッと上がった。
「もっと早く出会えていれば、犠牲者を減らせたかも知れませんものね。」
尻尾はピタリと止まって、力なく垂れた。
「そう、ですね。」
さっきより、少し元気がないような?
「ネル殿下?何か心配事でも?」
心配して顔を覗き込んだら、優しげな表情をされた。
「いえ、さあ、父上が待っています。謁見の間にお入り下さい。」
ネル殿下は気を取り直したように、扉を開けてくれた。
玉座に座るハミュール国王陛下の前へ行き、跪いた。
「リーリス妃、楽にしてくれ。我が国民に寄り添い、治療に尽力してくれた事、感謝する。恩を仇で返すような我が愚息の非礼、大変申し訳なかった。愚息には重い処罰を下すと約束する。ハーレンス。」
ハミュール国王陛下が、側にいるハーレンス殿下に目を向けると、ハーレンス殿下が、ホーウル王国の国家が描かれている勲章を持ってきた。
「感謝と詫びの印だ。これがあれば事前の連絡が無くても、何時でも我が国に入国出来る。何時でも遊びに来てくれ。のぅ?」
人間を拒絶しているホーウル王国から信頼して貰えた、と言うことかしら?それなら嬉しい。
ハーレンス殿下に勲章を付けて貰い、感謝を述べる。
「有り難うございます。大変光栄にございます。」
「それと、狂気病の感染者が見つかった。帰国する前にクレイン殿と治療を頼む。」
「畏まりました。最後まで全力を尽くします。」
淑女の礼をした。
全員の謁見が終了して、夜会会場の大ホールへ移動となった。
「その勲章は信用の証で、与えられたのはクレインとリーリスだけだ。良かったな。」
エスコートしてくれるグレーシス様が教えてくれた。
「そうなのですか?グレーシス様は?」
「他の褒美を賜った。私は王族とは言え騎士だ。国として、他国の騎士を理由なく易々と入国させる訳にはいかないからな。」
グレーシス様が行かなければ、私が単身でホーウル王国へ行くなんてあり得ない。
折角頂いたけれど、この勲章は宝の持ち腐れになってしまうわね。
会場に移動しながら、そんな事を思ったのだった。




