83 エイガーの乱(カールセン視点)
カールセン視点です。
リーリスが拐われた日から、翌日午後までの出来事です。
妃殿下が行方不明になって、護衛として妃殿下と行動を共にしていたエイガー部隊長補佐が睡眠矢で眠ってしまい、救護所に集まった俺達王魔討専部隊の騎士は、何の情報も得られず、途方に暮れていた。
王宮医師のクレイン殿なら、気付け薬を処方してくれるのでは?と望みを持って部屋を訪ねたが、王子と茶会で不在だった。
「何とか我々で無理矢理にでも起こすしかない。」
「そうだ、拷問しよう!」
グループには一人くらい、いや、我が部隊は殆どが戦闘に特化した変人ばかりだった。
俺だって仲間からサイコパス、なんて呼ばれている。自覚はないが、それがサイコパスだそうだ。
我々変人の中で、部隊長補佐は珍しくまともだった。
厳しくもあるが、温厚で社交的、かつ冷静。
部隊長より部隊長らしく、安全且つ魔物討伐の効率が上がるよう、常に的確な指揮をして、部隊を纏めてくれる頼れる存在だ。
顔も良く女性にもモテる。妃殿下と居る時間も長い。
そこが若干、嫉妬されたのかもしれない。
「部隊長補佐、起きてください。」
先ずは代表者が頬を軽く叩く。
始めの一発は勇気がいるものだ。
「駄目だな。」
力一杯往復ビンタを繰り返し始めた。
一回やれば後は同じと判断したのだろう。
隣で待機していたホーウル王国の騎士達が、何事かと驚きの表情で我々を見ていた。
我々の仲間も逆に驚く。
隣で寝ている騎士も、重要な情報を掴んでいるかも知れないのに、ただ、待っているだけで起こす気がないのか?王族が行方不明なのに、どうでも良いのか?と。
ホーウル王国の騎士は良いとして、エイガー部隊長補佐を起こすのが先だ。
「水汲んできた。これならイケるだろう。」
別の奴が両手の左右に、水の入ったバケツを持って来た。
部隊長補佐を仲間が抱えて、救護所の外に連れ出した。
ザバーッ、ザバーッとバケツの水を連続して、部隊長補佐に容赦なくかけた。
「ゴフッ。」
部隊長補佐が咳込んだ。が、起きない。
「しぶといな。」
仲間達が腰に手を当てて唸っている。
今日、部隊長は妃殿下の護衛当番だから、討伐とは違う、特別高価な騎士服を着ていた筈なのに、全身ずぶ濡れとは気の毒だ。
「骨、何本かいっとく?」
「いや、戦力を削るのは騎士としてマズイ。」
「だよな。」
とか言いながら、仲間達が部隊長補佐の肩が抜けそうな程、腕をグルグル回している。
よく眠っていられるな、と逆に関心する。
「落書きしてみるか。意外と地味な事の方が起きるだろう。」
「だな、俺、髪の毛で遊んでみるわ。」
遊んでみるって言ったな。
仲間達は別のベクトルで悪乗りし始めた。
毛布でグルグル巻きにされて、再び救護所のベッドに寝かされた部隊長補佐は、何をされても全く起きる気配がない。
余程疲れが溜まっているのだろうか?
諦めてグレーシス部隊長を呼びに行った。
凄い事になっているエイガー部隊長補佐を見たグレーシス部隊長が、部隊長補佐ではなく、何故か仲間達に気の毒そうな目を向けていた。
その意味が分かるのは翌日だが、その時は全員、部隊長の視線の意味を理解出来ていなかった。
「お前らが忘れても、俺は決して忘れないからな。」
目覚めた時の部隊長補佐が、今までに見たことも無い怒気を放ち、全員ヤバいと震え上がっていたが、今思えばそれは可愛いモノだった。
その夜、部隊長補佐から全員に任務が伝えられた。
「ホーウル王国の騎士達は、明日の夜会で出す魔物肉の為に、早朝から討伐らしい。我が部隊も暇だから、手伝いを申し出た。よって、明日は朝から魔物討伐だ。以上。」
まあ、ただ飯食うのも申し訳ないので、全員討伐に納得した。
翌朝、我々はホーウル王国の槍を持った騎士と二人一組になって、オオカミに獣化した騎士の背に跨がり、国を囲む高い壁の外へ向かった。
ホーウル王国は我々と違って魔物肉が必要な時だけ狩りをするらしい。
だから、壁の外にいる魔物が減る事は無い。
それなのに魔物が壁を越えないのは、国の中心にある湖が魔物避けの効果があり、そのお陰なんだとか。
羨ましい限りだ。
壁の外には大型の魔物が、うようよ居る。
ホーウル王国は一体を十名で倒すらしいので、討伐方法が違う。
協力するより別々に行動した方が良い。との判断になり、我々はオオカミの背から降りて、部隊長補佐の指示に従って魔物を討伐する。
部隊長補佐の指揮は安全且つ効率的、確かにそうだ。が、今日は何時もとは一味違った。
「お前ら、遅い。それじゃあ妃殿下にカッコいい所見せられないぞ。さっさと殺ってしまえ。」
魔物はかなり討伐しているが、部隊長補佐の指示は終わらない。
勿論、部隊長補佐も討伐に加わっている。
「お前らホーウル王国の騎士なら秒で殺れるんだよな。なら、この程度の筈無いよな。」
「部隊長補佐、絶対わざと大型とぶつけてるよな。」
仲間が息切れしながら話しかけてきた。
もう、全員、体力の限界が近付いている。
部隊長補佐は指揮しているが、魔物討伐もしている。
さほど状況は変わらない筈なのに、どうして未だ平気なんだ?
全員顔面蒼白になった。
「死ぬ、死ぬって!」
悲鳴をあげる仲間達に、部隊長補佐が筋トレ指導しているみたいなセリフを吐いた。
「限界を感じた時が自分を越えるチャンスだ。良かったな。」
「「「うおおおぉぉぉ!」」」
全員限界ギリギリまで追い込まれて、死ぬ気で討伐した。
虫の息になっている俺達に、部隊長が畳み掛ける。
「ほら、魔物の解体が残ってるぞ。」
周囲は大型魔物の屍が鬱陶しい程積み上がって、辺りは血の海だった。
「辛い、辛すぎる。」
全員半泣きになりながら、重い身体を引きずって、魔物肉を数時間かけて解体した。
「途中から我々狩らなくて良いか、って解体に回ったが、全然追い付かなかった。数ヵ月は食える肉の量が確保出来た。お陰で冬の間、討伐に行かなくても良さそうだ。助かる。」
「……それなら、良かった。」
ホーウル王国の騎士に感謝されたが、そんなつもりじゃなかったのに、と全員が思っていた。
「お前らもヤバイと思ったが、あの部隊長補佐は別格だな。」
王宮へ戻る時、俺と組んで一緒にオオカミの背に乗っていた騎士に言われた。
「あ――……一番まともだと思ってた。」
「え?アレがまとも?お前らのまともって、まともじゃないぞ。」
並走しながら話を聞いていた、ホーウル王国の騎士全員からドン引きされたが、俺達は全員、部隊長補佐にドン引きだった。
「良い訓練になったようだな。」
王宮に戻り、満身創痍の俺達を見たグレーシス部隊長が、顔色一つ変えず放った言葉に、俺達は全員、膝から崩れ落ちた。
「「「アレが訓練って嘘だろぉぉぉ―――――!」」」
文句も言いたくなると言うものだ。それ程までに部隊長補佐の指揮は過酷だった。
やはり部隊長は鬼、いや、鬼神だ。
全員の意見が一致した瞬間だった。
「皆お疲れ様。少しは気が晴れたよ。」
瀕死で横たわる俺達を見下ろす部隊長補佐が、にっこりと満足そうに微笑んだ。が、アレで少し?と全員絶句した。
俺達は部隊長と部隊長補佐の事を理解していた気でいたが、全然解っていなかったのだと、その時初めて理解した。
「テナール王国の騎士はヤバイ。決して敵にしてはならない。」
討伐後、ホーウル王国、王国騎士達の間で言い伝えられ、伝説になったらしい。




