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獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


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77 マーチス前編

最後に感染した患者を治療して二週間が経過した。

その後、新規の感染者は出ていない。


あと二週間しても感染者が出なければ、終息が決定して、テナール王国に帰国出来る。


「リーリス話がある。」

既にヒト型に戻って、完全回復したグレーシス様が、部屋に訪ねて来た。


あまり良い話ではないのか、グレーシス様は、ふーっとため息を吐いて、ソファーに腰かけた。

何となく、グレーシス様の背中を撫でながら、隣に座った。


「リーリスとクレイン以外の支援要請が解除された。三日後、我々騎士団は近々帰国せねばならない。」

新規の患者が出ない今、騎士団は暇になっていた。


今後患者が出たとしても、人数は少ない筈だから、現地の騎士で充分対応可能になる。

ただ、治療は私達だけしか出来ない。


「一緒に帰国は難しい、ですよね?」


これから二週間、新規の感染者が出ないとも限らない。

感染者が出た場合、関わった獣人が感染している可能性がある。


発病の症状が出るのは約一か月ほど。

だから念の為、更に一か月滞在しなくてはならない。

本当に帰れるようになるのか、不安になってしまう。


「帰国は全員一緒にと、事前に書状で条件を出している。明日、帰国について、ハーレンスやカータンスと会議がある。良い返事が貰えるまで、話し合うつもりだ。」


グレーシス様が手を握ってくれた。


「会議で庭園散歩はお預けになるが、必ず一緒に帰国をもぎ取る。だから、待っていて欲しい。」


グレーシス様は、いつも私の欲しい言葉をくれて、不安を取り除こうと動いてくれる。


「はい。待っています。」

嬉しくて、繋いだ手を握り返した。


翌日、午後一時頃。

グレーシス様が会議をしている間、私は庭園に赴いた。

自然エネルギーの吸収は心身共に満たされる。

ホーウル王国でも庭園散歩は、すっかり日課になっていた。


十二月。気付けば季節は冬になり、朝晩は特に寒い。

治療が無くなってからは、大体昼食後の暖かい時間に散歩するようにしていた。


日替わり専属護衛のエイガーと、庭園を散歩していると、見知った顔に出会った。


「あら、マーチス、久しぶり。」

「久しぶりですね。お散歩ですか?」

「ええ。」


マーチスは介助の手伝いに来ていた騎士だった。

オオカミの獣人である彼は背が高く、鍛え上げられた身体をしている。


焦げ茶色の髪に琥珀色の瞳、顔も整っていて温厚。

女性患者から人気が高く、目立っていた。


「良ければお勧めの場所を案内しますよ。ここは庭みたいなものですから。」


いつも通り紳士的だった。


「でも、騎士はお忙しいでしょう?」


エイガーが居るとは言え、グレーシス様の知らない男性と二人で散歩は躊躇われたので、やんわりと断った。


「大丈夫です。患者もいないので、暇なくらいですから。それに妃殿下にお話もあったのです。」


王族の既婚女性に対して、余りにも気さくで強引な、騎士のマーチスに警戒したエイガーが、私を背にして、マーチスの前に立ちふさがった。


「ああ、すみません。理由があって隠していたのですが、実は僕、第三王子なのです。証拠もほら。」


襟の裏をめくって、ホーウル王国の王族にしか許されていない、オオカミの刺繍を見せられた。

王族なのは本当みたい。


「だからそんなに警戒しないでよ。治療のお礼がしたくて、お茶会に誘うだけだから。勿論、クレイン殿も一緒だよ。今頃ネル、実は第四王子でね、彼がクレイン殿を誘いに行っている。リーリス妃は庭園に居ると聞いたから、私が呼びに来た訳。グレーシスの会議が終わるまで、一緒にどうかな?」


マーチス殿下の言葉遣いが、急に親しげになった。

正体を明かしたから、気が抜けたのかもしれない。


王子自ら、わざわざ私の為に足を運んでくださったのに、断るのは失礼よね。


「殿下直々にお誘いして頂けるなんて、光栄でございます。是非参加させて頂きます。」


お茶会をする場所は、行ってからのお楽しみ。との事で暫く庭園を歩く。

途中、見所を案内してくれて、楽しい時間を過ごした。


「リーリス妃殿下、前から思っていたけれど、とても良い香りがするね。ポプリかな?」


ふと思い出したように、マーチス殿下が言った。


「はい、庭師が作ってくれた薔薇のポプリです。」

「とても珍しい香りだ。もし良かったら、少し貸してくれないかな?我が国の庭師にも見せたいんだ。」


「ええ、どうぞ。」

ポケットから薔薇のポプリを出して、マーチス殿下に差し出すと、マーチス殿下は側にいた男性に声をかけた。


「このポプリ、庭師に見せたら、なるべく早く返してくれ。」

「はい。」


男性はマーチス殿下からポプリを受け取ると、去って行った。


側に居るなんて気付かなかったけれど、きっとマーチス殿下の護衛ね。王族は必ず護衛をつけている筈だから。


更に歩くと、ひと気の無い場所に来た。


「ここは穴場なんだ。ここから王宮本邸に入れる。時に護衛の君、その矢はもう必要無いのでは?」


マーチス殿下がエイガーに目を向けた。


「いえ、我が部隊は、まだ狂気病に警戒する必要がありますから。」


エイガーの言い分に、マーチス殿下は困り顔をした。


「仕事熱心なのは有難いけれど、本邸には貴族達や賓客も居る。感染者がいるかもしれないと、無駄に不安を煽るのは避けたい。暫く預からせて貰えないかな?」


「……畏まりました。」


マーチス殿下の言い分も一理ある。

エイガーがマーチス殿下に矢筒を渡すと、マーチス殿下は矢に興味を示した。


「睡眠矢の効果はどれくらいだい?介助の手伝いはしたけれど、足止めの現場には行って居なくてね。」


「数分で眠りについて、そのままだと四時間、矢を抜けば三十分程で目覚めます。矢に塗られた薬は三十分しか持ちませんが、矢の中にも薬が入っているので、矢が身体に刺さっていれば、効果が持続するそうです。」


エイガーの説明を聞いたマーチス殿下が、矢筒から矢を取り出して、尖端をまじまじと見つめている。


「中にも薬が?なるほど。よく見ると小さな穴が空いている。こんなに尖端は小さいのに凄いね。分かりやすい説明を有り難う。」

「恐縮です。」


少しお辞儀しているエイガーの肩に、マーチス殿下が楽しそうに手を置いて、ポンポンと触れ、反対の手に持っている矢を、エイガーの胸に突き立てた。


「ぐっ……!」


エイガーがマーチス殿下の手を振り払って後ずさり、胸に突き立てられた矢を自力で引き抜いて、地面に投げ捨てた。


「え?殿下?きゃあっ!」

訳が分からないままマーチス殿下に腕を引かれ、マーチス殿下が私の背後に回った。


エイガーが剣を抜こうとして躊躇っている。

私が盾にされているせいだ。


「エイガー、信じてるから、剣を抜いて。」

「……っ仰せのままに。」


エイガーが決意した表情で、剣の束を握りしめた。


「護衛殿、動いたら妃殿下にブスリだ。良いの?」


背後にいるマーチス殿下の言葉に、エイガーがピタリと止まった。

私、人質にされてる……。


「目的は何だ。」


薬が効いてきたのか、エイガーがよろけて地面に膝をつきながら、マーチス殿下を睨み付けた。


「うっ……ああぁっ!」


右肩の後ろが衝撃と共に、ズキリと痛みが走って、思わず声が出た。


「妃殿下っ!」

青ざめるエイガーを嘲笑うマーチス殿下。


「あーあ、護衛殿が動いたらからだよ。可愛そうに。」

何かを地面に捨てる音がした。


ズキズキする度に体の力が抜けて、体が重くなっていく気がする。

ふと、地面に転がる血の付いた二本の矢を見て、睡眠矢を刺されたのだ、と気が付いた。


「ああ、そうだ目的ね。お茶に決まっているだろう?僕はそう言ったよ。ね、リーリス。」


足の力が抜けてきた私を抱き上げて、まるで恋人にするような優しい表情で、マーチス殿下が微笑む。

その表情のまま、エイガーに顔を向けた。


「ただ護衛殿が邪魔だっただけ。」

「……貴様、許さん。」


エイガーは跪いたまま、剣を抜き、何とか意識を保っている。

矢は直ぐに抜いても、矢尻に塗られた薬のせいで、三十分は眠ってしまう。


きっと、限界が近づいているに違いない。

マーチス殿下が誰かに言った。


「始末しといて。」

「ハッ。」


まだ、誰かが待機していたなんて。

エイガーが殺される。

睡魔と戦いながら、必死でマーチス殿下に訴えた。


「お願い……エイガーを、殺さ、ないで……。」

もう体が怠くて目を開けていられない。


私は意識を手放してしまった……。


マーチスとネルの初登場は目次72です。

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