表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/128

75 ひと月後の庭園にて

治療が始まってから二か月が経った。

初日に比べて新規の患者は減り、ここ数日は患者が運ばれていない。


四日目の患者を治療するので精一杯だったのが、余裕が出て来て、三日目、二日目の患者も治療出来るようになり、今現在、睡眠矢で眠っている患者は、五名だけになった。


朝の薬草茶を投与した後に、五名の患者に癒し手をして、昼の薬草茶投与を終了したら、患者達は別室に運ばれた。


睡眠矢を刺された患者が眠っていたこの大部屋は、ついに誰も居なくなった。


「やっと全員が、食事介助に切り替えられるまでになったわね。」

「このまま新規の患者が一ヶ月しても出なければ、終息と言えます。もう暫く、様子見しなければなりませんね。」


クレインと、ホッとしつつも、気を引き締める。

回復して日常生活に戻ったり、自宅療養をする患者も居るため、食事介助の人数も随分と減った。

でも、発症まで、一か月掛かる。


一人でも患者が出たら、感染者の可能性を考えて、その日から更に、一か月待つ必要がある。

治療は私にしか出来ないから、確実に終息するまでは、テナール王国に帰国出来ない。


「午後から治療する者もいませんし、手伝いだけで食事介助は出来ますので、今日は、ゆっくりお休み下さい。」

コリーニ殿下の申し出により、私とクレインは、午後から休みになった。


馬車で王宮に戻り、クレインと別れて、私はいつも通り庭園のベンチに座って、自然エネルギーを吸収していた。

足音がして目を向けると、グレーシス様だった。


「グレーシス様、お久しぶりです。」

治療が始まって一ヶ月した位から、グレーシス様は朝の庭園散歩も一緒に出来ないくらい、忙しくなってしまった。


会えない分、侍女を通して挨拶程度の、簡単な手紙のやり取りをしている。

けれど、本当はずっと会いたかった。


だから、ひと月ぶりに会えて、本当は抱き付きたいくらい嬉しい。

でも、感染対策の為に、ぐっと堪える。


「珍しく気付かれてしまったな。」


グレーシス様がふわりと微笑んだ。かと思うと、フラッとよろけて、ガクリと地面に膝を付いた。


「グレーシス様?」

「お待ち下さい。」


立ち上がって駆け寄ろうとした時、今日の専属護衛当番、カールセンに腕を掴まれた。


「カールセン?」


カールセンの視線の先に目を向けた。

グレーシス様の直ぐ後ろにいるエイガーが、矢を手にして、振りかぶっていた。


「待って!エイガー!!」


思わず叫んだ。

勢いのままグレーシス様の背中に、ブスリと矢が突き立てられた。


「リー……リス……。」


矢を突き立てられてから少しして、朦朧としたグレーシス様が私に手を伸ばす。


「グレーシス様っ!」

私も手を取ろうと必死に腕を伸ばす。

けれど、カールセンに片方の腕を掴まれたままで、とても傍には行けない。


「カールセン、お願い、手を離してっ。」

「出来ません。」


そのうちにグレーシス様は、バタリと倒れて、意識を失ってしまった。


「あ………。」

目の前で起きた出来事が、どうしても受け入れられなかった。


「グレーシス様は獣化していなかったのに、どうしてなのっ!」


責めるように、エイガーとカールセンに抗議した。


「突然立てなくなる、狂気病の兆候が出たからです。我々は仲間に兆候が現れたら、直ぐに、矢を突き立てる。と決めて、常に互いを監視していたのです。我々が獣化して暴れたら、厄介ですから。」


エイガーの話を聞いて、いつだったかグレーシス様と、朝の庭園散歩をした時の話を思い出した。

常に睡眠矢を使えるように、矢筒を全員携帯している。確かそう言っていた。


てっきり、ホーウル王国の患者に遭遇した時の話だと思っていた。

まさか仲間に使う為だったなんて、考えもしなかった。

エイガーは更に説明してくれた。


「獣化していないから、感染を信じられないのは当然です。ですが、ひと月ほど前、グレーシスには感染を確信せざるを得ない、切っ掛けがありました。」


「切っ掛け?」


「現地騎士が人払いしている筈なのに、子供が出て来て、グレーシスは、その子供を抱えて庇いながら戦ったせいで、返り血が目に入ったのです。」


「返り血が目に……そんな……。」

狂気病は粘膜からも感染する。


「グレーシスは自らが感染していると想定して、その日から、仲間や妃殿下から距離を取り、自らを常に監視するよう指示していました。」


確かにひと月前、忙しくなったから朝の庭園散歩に付き合えなくなった。と謝られて、それからグレーシス様に会えなくなった。


その間、手紙のやり取りをするようになったけれど、いつも返事は元気だ、と書かれていた。


「グレーシス様が一人で感染の恐怖と戦っていたなんて、私は何も………。」


知らなかった事も、知らされたとしても、私には何も出来ないと分かるだけに、不甲斐なくて、涙が溢れそうになる。


「妃殿下、それは誤解です。自分を責めないで下さい。部隊長は、妃殿下とクレイン殿が治療してくれるから、感染しても絶対大丈夫だ。と言っていました。ただ、我々に感染を広げたら、二人の負担が増えるから注意する、とも。」


そう言って、私の腕を掴んでいたカールセンが、手を緩めてくれた。


「誰が見ても全く、落ち込んでなかったし、吹っ切れたのか、誰よりも生き生きと、足止め任務をこなしてました。あと、妃殿下の手紙が嬉しいって、ムカつくほど惚気てましたよ。」


最後に、カールセンが忌々しそうに放った、予想外の言葉に、涙も止まった。


「え?」

「そうそう、あの時はきっと全員が、心の中でグレーシスに矢を突き立てていた。」


ハハッとエイガーは笑うと、いつの間にか獣化して黒豹姿になったグレーシス様を、マントにくるんで、肩に担いだ。


「さて、グレーシスも獣化したし、部屋に運びますので、治療をお願い出来ますか?」


あまりにも明るい二人を見て、呆気に取られてしまった。


「ええ、必ず助けます。」


コクリと頷く私に、エイガーは微笑みかけると、先導するように歩きだした。

その後に続く私の傍には、護衛として、カールセンが同行してくれる。


仲間に、矢を突き立てなければならない嫌な役目を遂行したエイガーと、王族に逆らえば不敬だと言われかねないのに、私の為に止めてくれたカールセン。


そんな忠誠心に厚い二人を、私は感情的に責め立ててしまった。


自分勝手な私に、彼らは嫌な顔一つしないで、丁寧に説明してくれて、私が落ち込まないように気遣ってくれている。

申し訳なくて、涙がボロボロと零れてしまった。


「妃殿下!?どうされましたか?」


カールセンの慌てる声に、振り向いたエイガーも私を見て驚いたようだった。

はしたないと思うのに、溢れ出すと、止められなくなってしまった。


「……っ、エイガー、カールセン、酷い事を言って、ご免、なさい。それなのに……有り難う。」


途切れ途切れ、何とか言葉を口にした。


「とんでもありません!我々は任務を遂行しただけです。本当に、お気になさらず。」

「部隊長補佐の言う通りです。何も情報がなくて、突然アレを見たら、仕方がありませんよ。」


二人が必死に慰めてくれるから、その優しさが嬉しいやら申し訳ないやらで、余計に涙が出て、二人を困らせてしまった。


「有り難う、騎士達に誇ってもらえる王族になれるよう、努めるわね。」


何とか微笑む。


「妃殿下、充分ですよ。」


エイガーの言葉にカールセンが激しく頷いている。


「そうです。これ以上、頑張らなくても良いですから。」


どこまでも、二人は優しかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ