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獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


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74 モネナール嬢

朝、療養所へ行く馬車の中で、コリーニ殿下から報告があった。


「治療した患者全員の矢を抜いても暴走はなく、意識もハッキリしていました。もう睡眠矢は必要無いと、その場にいた全員の意見が一致しました。」


その全員の中に、グレーシス様も居たのね。と思い至る。


「これで睡眠矢の致死量を気にする必要は無くなったわね。それで今後の介助についてなのだけど……。」


グレーシス様の提案してくれた自宅療養について、二人に話した。


「それは良い考えですね。眠らせている時は問題ありませんが、意識があるなら、例え獣姿とは言え、男女同室なのも、貴族と平民を同室で寝かせるのも気にするでしょうから、対策は必要だと思っていました。」


最悪見捨てる。と言っていたけれど、矢を抜いて暴れなかった場合についても、クレインはちゃんと考えてくれていた。


「問題は安静に出来るか、です。治療は一回で効果を得られる代わりに、動き回ったりして体力を消耗すれば、死亡してしまいます。」


一番の心配について話した。

癒し手を使えるのが奇跡と言える程、狂気病の患者は治る力が弱かった。

これで消耗したら、次は無い。


「それなら体力消耗の危険性を話し、絶対安静を約束出来る者のみ、自宅療養を許可しましょう。王族の私が本人と、その家族に書面で約束させれば、確実に守られます。」


王族のコリーニ殿下とした約束を破れば、不敬罪になる。だから、約束を破られる心配はない。


「男女別に部屋を分けるのは、食事介助後、手伝いの者達で行います。貴族と平民は衝立で仕切れば良いでしょう。」


馬車が療養所に着くまでに、コリーニ殿下のお陰で話は纏まった。


治療した患者の状況を(じか)に確認する為、コリーニ殿下の案内で、部屋を訪れた時だった。


「おはようございます殿下。昨晩、ここに運ばれた経緯は説明して頂き理解しましたが、公爵家の私が下級の者や、男性と寝食を共にするのは、やはり納得できませんわ。」


懸念していた通り、早速苦情が出た。

白いオオカミ姿の、おそらく公爵令嬢が、肩で息をして、息苦しそうにしながらも、コリーニ殿下に訴えた。


「モネナール嬢の言い分は(もっと)もです。朝食後、直ちに部屋は男女別にします。自宅療養も希望ならば、条件付きで可能になりますので、もう暫く我慢して下さい。」


「分かりましたわ。殿下、そちらは?嘘!?人間が何故居るのです!」


クレインを見た後、私に気付いたモネナール嬢がキッと睨んできた。

治療部屋にいる患者達も、一斉に険しい顔つきになる。

衰弱して体力が無いと思っていたのに、意外と皆元気そうでホッとした。


「彼らは我が国の患者を治療する為に、テナール王国から来て頂きました。王宮医師のクレイン殿と、助手のリーリス妃殿下です。」


コリーニ殿下が皆に紹介してくれたので、淑女の礼をして挨拶をした。


「皆様、テナール王国から来ました。第三王子グレーシスの妻、リーリスでございます。王宮医師クレインの助手として、皆様が早く元気になれるよう、尽力致します。」

勿論、笑顔は絶やさない。


「人間が獣人と結婚!?え!?その髪飾り、ハイヤー王国の国花!?嘘でしょう!」

モネナール嬢や患者達全員が驚いていた。


「クレイン殿とリーリス妃殿下は治療で忙しいので、私から今後について説明します。」


目覚めた患者はコリーニ殿下に任せて、私とクレインは、朝の薬草茶投与の準備に向かった。


眠っている患者に薬草茶を投与して、体勢を戻すまでの三十分で、治療した患者の食事介助をする。


「まだ患者は二十名なので、手伝いの我々が行けば充分です。」


食事介助に向かおうとしたら、騎士達に止められてしまったので、仕方なく大部屋で待機していた。

思ったより早く一人の騎士が部屋に戻って来た。


早いわね、もう介助が終わったのかしら。今まで食べれなかったから、余程お腹が空いていたのかもしれないわね。

一人で納得していると、騎士が困り顔でやって来た。


「妃殿下、他の患者は問題無いのですが、モネナール嬢から、我々男性からの介助は受けたくない。と言われまして、相手は公爵令嬢ですので、我々では対処が難しいのです……。」


手伝いの獣人は全員男性だった。

皆、下級貴族なので公爵令嬢に無理強い出来る立場には無い。


そう言えばモネナール嬢は、先程男女同室を気にしていらした。

もしかしたら男性に、あーんされるのが恥ずかしいのかもしれない。

私だって恥ずかしいし。


「では、私が行ってみますね。」

「申し訳ありません。」

すぐにモネナール嬢の元へ向かうと、ビックリされた。


「……妃殿下が直々に来るなんておかしいでしょう!侍女じゃないんだから。それに人間の手からなんて、食べたくないわ。」


牙をむき出しにするモネナール嬢の前に、お粥の入った皿を持って座った。


「でも、女性は私しか居ませんので。」

「別に女性じゃないと嫌なんて言っておりませんわ。」


フンッとそっぽを向かれてしまった。

あら?報告に来た騎士と話が違う。

首を傾げた。


「コリーニはどうしているの?」

そっぽを向いたまま、モネナール嬢がポツリと言った。


王族のコリーニ殿下を呼び捨てにするなんて、もしかして二人は仲良しなのかしら?


「その辺で待機しているかと。」

「婚約者なのに全然来てくれないなんて、信じられない。」

仲良しどころではなかった。一応確認しておく。


「婚約者、なのですか?コリーニ殿下の?」

「そうよ。何よ。貴女には関係無いでしょう!」

「ええ、確かに。」


でも、明らかにモネナール嬢の様子がおかしいので気になってしまう。

怒っている程怒っている感じでもなく、拗ねているような……ああ、なるほど。


「モネナール嬢、本当はコリーニ殿下にあーんして欲しくて、男性の介助を断ったのですね。」


バッとモネナール嬢が凄い勢いで、振り向いた。


「は?何よ、貴女、何を言っているのかしら。」

凄く慌てている。図星だったみたい。


「では、コリーニ殿下に交代して頂きますね。」

立ち上がるとドレスの裾を咥えられた。

「待って!食べる、食べるから!」


コリーニ殿下を望んでいるのは明らかで、折角呼びに行って差し上げようとしたのに、何故止めるのかしら?


「食べてくださるなら良いですが、私で良いのですか?」

座り直して、お粥を掬ったスプーンをモネナール嬢の口に運んだ。


「良いの。どうせ断られるに決まっているわ。私、嫌われているから。」

自棄になって、お粥を食べている。


食べ始めるとお腹が空いていたのか、お粥をスプーンで掬っていると、口を開けて催促してくる姿が可愛らしい。

尻尾がブンブンと、大きく動いている。


ネコ科とは違う尻尾の動きが、また新鮮で楽しくて、食事介助は、あっと言う間に終わってしまった。


「人間とは言え、王族からの介助なら、受け入れるしかないわね。断ったら不敬になりますもの。」


ツンとしているモネナール嬢は、素直ではないけれど、とても分かりやすい。

これはつまり、次の介助も私をご指名したいと。

思わず笑顔になってしまった。


「では、また。」

次の約束をして部屋を後にした。


昼休みになり、王宮へ戻ろうとした時、コリーニ殿下に声を掛けられた。


「婚約者のモネナールが我が儘を言い、リーリス妃殿下に食事介助までさせてしまったようで、申し訳ありませんでした。今後このような事が無いよう、モネナールには注意をしておきます。」


王族が下位の者に食事介助なんて、普通はしない。

だから、コリーニ殿下の言い分も理解出来る。

けれど、薬草茶投与だって食事介助みたいなものだから、私からすれば今さらだった。


「コリーニ殿下、謝らないで下さいませ。モネナール嬢に注意も必要ありません。モネナール嬢は、とても可愛らしい方でした。殿下に会いたくて寂しがっておりましたよ。」


モネナール嬢の慌てる姿を思い出して、思わず笑みが零れた。


「え?モネナールが!?」

コリーニ殿下が意外そうにしているので、私がモネナール嬢の介助をするに至った経緯を話した。


「……他の患者がいる手前、婚約者だからと特別扱いしないようにしていただけなのです。彼女もあの態度で平気そうでしたし。まさか淋しいと思ってるなんて……もっと分かりやすく言ってくれないですかね。」


コリーニ殿下が顔を覆って溜め息を吐いた。

それは不機嫌な溜め息ではなく、自分に向けているような、何か後悔しているようにも見えた。


「獣人は感情に敏感だと聞いていたのに、言葉にしないと分からない事もあるのですね。」


分かると分からないの違いが、何なのかが気になる。


「それは香水のせいです。我々イヌ科は特に鼻が利きます。でも半分ヒトだからか、全ての感情を知られたくないと思う事もあるのです。特に貴族女性はそうです。そこで鼻が利きにくくなる香水を付けるのです。感情を読まれなくて済みますが、相手も読めなくなるので、言葉が重要になるのです。」


つまり、香水のせいで言葉が必要になるものの、うまく伝えられず、互いの思いがすれ違っていたのね。


「彼女は直に公爵家で療養するでしょうが、それまでの食事介助は私がします。」

コリーニ殿下が申し出てくれたので勿論、お任せする。


「モネナール嬢の食事を催促する姿は、とても可愛らしいので是非、堪能してくださいませ。」

介助の楽しい所を伝えると、クスリと笑われた。


「貴女も充分、可愛らしいですよ。」

「え?有り難うございます?」


あまりに突然の褒め言葉と、初めて見るコリーニ殿下の笑顔に戸惑ってしまった。

確か女性を褒めるのは、社交界で挨拶みたいなものだと教わった。

きっと、これがそれね。


それでも、初めの舌打ちされる態度からすれば、随分変わったと思う。


少しはテナール王国の王族として認めて貰えたのかしら。

そうだったなら、嬉しい。


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