73 二日目の庭園
初日の昨日は、九時に療養所へ行った。
けれど、二日目の今日からは、薬草茶投与があるから、八時に行かなければならない。
朝食を終えて七時頃、自然エネルギーを吸収する為、護衛と共に庭園へ行く。
勿論、出会う獣人達に挨拶は欠かさない。
深呼吸しながら歩いていると、グレーシス様がやって来た。
「昨日、リーリスの護衛当番から、七時頃庭園で散歩すると聞いて、丁度、時間が合うと思って来た。」
「ずっと、すれ違いになると思っていたので、会えて嬉しいです。」
「私もだ。」
暫く二人で散歩して、ベンチに腰掛けた。
グレーシス様の腰ベルトには、剣の他に、見慣れない矢筒が下がっていた。
「これは睡眠矢ですか?」
「そうだ。常に睡眠矢を使えるように、全員矢筒を携帯している。ほら、今日の護衛も。」
グレーシス様が今日の専属護衛当番、カールセンを指差した。
「あら、本当。」
カールセンも、確かに矢筒を身につけている。
「矢と言えば昨日、任務の後、我が部隊がコリーニに呼び出された。治療した患者の矢を抜くから、暴れたら対応して欲しい。と、言われてな。」
グレーシス様から思わぬ話が出た。
「それでどうでしたか?」
「全員で警戒していたが、目覚めた患者は皆、理性を取り戻して、暴れなかった。」
「本当ですか?」
「ああ。今日、コリーニから話があるだろう。リーリスが提案したのでは、と思って、先に話してしまった。余計だったか?」
早く結果が知りたかったので、ブンブンと首を横に振った。
「いいえ、グレーシス様は何でも、お見通しなのですね。ずっと気になっていたので、話してくださって有り難うございます。これで治療した者に無理矢理、薬草茶を投与しなくて済みます。」
「薬草茶を投与。とは?」
グレーシス様が怪訝な顔をした。
「実は、睡眠矢で眠っている患者は何も与えられず、飢餓で衰弱していたのです。それで、直ちに栄養を与える必要があったのです。」
「随分と大変だったのだな。」
「ええ。でも、これで患者を見捨てずに済みますし、矢を抜いた患者は、食事介助に切り替えられるので、少しホッとしています。」
グレーシス様の獣耳が、ピクリと動いた。
「食事介助、やるのか?」
「ええ。まだ人数は少ないですが、今後、二十名ずつ毎日増えますから。」
「はぁ――――――。だよな――――――。」
グレーシス様が盛大なため息をついて、頭を垂れた。
尻尾はビッタン、ビッタンとベンチを打っている。
「グレーシス様?どうしたのですか?」
食事介助は前にも行ったから、特に心配事は無い筈だけれど。
「……邸で安静に出来る患者は、安静にする約束なり、動いたら死ぬと脅した上で、帰しても良いのではないか?それなら介助の人数は減るよな。」
グレーシス様から思わぬ提案が出た。
貴族なら、侍従が居るから介助者が確保出来る。
かつてのグレーシス様のように、自分のベッドでヒト型に戻るまで安静にする方が、療養所よりも休まるに違いない。
「患者だけでなく、手伝いの負担軽減にまで思い至るなんて、流石です。」
私は凄いと思うのに、グレーシス様は全くそんな風に思っていないようだった。
「私はただ、自分の為に言っただけだがな。」
「グレーシス様の為?」
グレーシス様のメリットについて考えてみたけれど、全く思い浮かばなかった。
首を傾げる私に、グレーシス様はクスリと笑って、
でも、何も教えてはくれなかった。




