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獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


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72 治療初日後編

治療が終わって大部屋の扉を開けると、コリーニ殿下が早速、手伝いの人員を集めて待っていた。


「コリーニ殿下、栄養を投与する前にお話があります。」

クレインからコリーニ殿下に、患者の状況説明と、矢を抜く提案をして貰った。


「そうですか、五日目からは、もう駄目ですか。分かりました。彼らは別室に移します。治療した者についても別室に移して、矢を抜いてみます。結果は明日、お伝え出来るでしょう。」


コリーニ殿下は手伝いで来ていた騎士に指示して、五日目から七日目の患者を直ちに別室に移し、治療した患者は栄養投与後、他の別室に運ぶよう、指示を出した。


患者達が運び出され、部屋には一日目から四日目の患者、約八十名程が残った。


栄養投与の為に集められた手伝いは、騎士が三十名、王宮の見習い医師、十名だった。


「アレが噂の人間の姫か。どうせ、見ているだけで何もしないだろう。」

「言えてる。邪魔でしかないな。」


こそこそと話し声が聞こえ、全員から冷たい視線を感じる。


「皆様、お集まり頂き有り難うございます。私はテナール王国、王宮医師のクレインです。こちらはリーリス妃殿下で、私の助手をお願いしています。」


「テナール王国第三王子、グレーシスの妻、リーリスでございます。どうぞ宜しく。」

淑女の礼をして微笑んだ。


「「………っ。」」

自己紹介をすると、毎回皆、同じような反応をする。

グレーシス様は、皆リーリスに魅了されている。なんて冗談を言うけれど、本当の所は分からない。


印象は悪くないと信じたい。

私の挨拶が終わると、クレインが口を開いた。


「今、患者は飲まず食わずで、狂気病と同時に、餓死の危機にあります。栄養の投与は緊急を要します。その手順を今から説明します。」


手順内容はまず、患者を起こして口をこじ開け、細長いチューブの付いた漏斗を患者の口に入れる。

チューブは胃まであるので、誤飲を防ぐ効果があるそう。


口にセットした漏斗の中にコップ半量程の、とろみのある薬草茶を少しずつ、二十秒かけて流し込む。


全て流し込んだら漏斗を外して口を閉じ、用意したクッションに上半身を乗せ、身体を起こした体勢を三十分ほど維持させる。


それを眠っている全員に一日三回施す。


患者の身体を起こし、体勢を維持したり、口を開ける作業をするのは騎士が。

漏斗の差し込みや、抜く作業は医師が。


二十秒を数えながら薬草茶を流すのは、手の空いている騎士が担当すると決まった。


役割分担を決めている間、クレインがメモで指示して事前に作られた、栄養補給効果の高い薬草茶を、コップに分ける所まで準備が整った。

全員と同じように、早速手袋を手にはめた。


「では、私は薬草茶を流す手伝いをするわね。」

「「え?」」

手伝いに来た全員の視線が、私に集まった。


「まさか下級の者達の世話を、リーリス妃もやるつもりですか?」

コリーニ殿下が、全員の意見を代表するみたいに、聞いてきた。


「ええ、人手はいくらでも必要ですし、皆でやれば、早く終わるでしょう?」

「確かにそうでしょうが、本気ですか?」


コリーニ殿下に謎の確認をされてしまった。

冗談に聞えたのかしら?


「ええ。治療の一貫ですから。助手として当然かと。」

「……そうですか。」

コリーニ殿下は、考え込むように黙っている。


「話が終わったのなら、作業に取り掛かりますので、失礼しますね。」


時間が勿体ないので、早速薬草茶の入ったコップを持って、漏斗を口に入れられた患者の元へ向かった。


「初めましてリーリスと申します。お名前を伺っても?」

「は?」

「え?」


ペアで作業している騎士と医師に驚かれた。

そんなに急に話しかけたかしら?


「……騎士のマーチスです。」

「……王宮見習い医師のネルです。」

警戒しながらも名前を教えてくれた。


「マーチス、ネル、宜しくお願いします。では薬草茶を入れますね。いーち、にーい、さーん………」

二十秒数えながら、コップの薬草茶を漏斗に注いだ。


「お疲れ様、よく頑張ったわね。」

薬草茶を注ぎ終えて、患者の喉をそっと撫でた。


「マーチス、ネル、後はお願いしますね。」

笑顔で声をかけてから、再び新しいコップを持って別のペアの所に行く。


名前を聞いて挨拶したら、漏斗に薬草茶を注ぐ。

それを全員分、用意された薬草茶のコップが無くなるまで繰り返した。


薬草茶投与が終わり、患者全員を元の体勢に寝かせ終えたのは、昼の一時過ぎだった。

治療した患者を別室に移して貰い、作業は終了した。


「次は夕方の六時にお願いします。」

「「はい。」」


クレインが終わりの挨拶をして、手伝いの皆がお昼に向かい、私達も昼食を食べるために、一旦馬車で王宮に戻った。


「私は庭園に寄ってから部屋に戻るわ。クレインは先に戻っていて。」

「畏まりました。では療養所へ行く際には、お声かけ下さいませ。」


クレインと別れて護衛と共に、王宮にある庭園に向かった。

庭園の敷地は広大で、歩く度に発見があって楽しい。

小さな小花が沢山咲いている場所を見つけて、近くにあるベンチに腰掛けた。


本当は癒し手をしたら、直ぐに自然に触れるのが理想だけど、今回は薬草茶の投与があるので、それは難しい。


伝染病の時は癒し手を、一日三十名にしていたけれど、私の体調を考慮してクレインが、二十名にした方が良いと判断してくれたのが助かった。


正直、午前中の十名だけで、少し息苦くて体が怠かった。

あと十名多ければ、薬草茶の投与は出来なかったかもしれない。


目を閉じてゆっくりと何度も深呼吸をして、自然エネルギーを吸収する。

身体が軽くなって、息苦しさも和らいできた。


大きく手を広げて、更に深く深呼吸した。

花の微かな甘い香り、秋の爽やかな風と青空、草や木々の微かに揺れる音。


全てが心地好くて癒される。

自然エネルギーもしっかりと吸収出来た。

空を見上げて気合いを入れ直す。


「よし、また頑張れそう。」

「一日目から飛ばし過ぎるなよ。」


いつの間にかグレーシス様が、隣に座っていた。


「え?グレーシス様!?どうして?」


「昼食を食べて任務に向かう途中、クレインに会った。庭園にいると聞いたから、顔を見に来たのだが、ずいぶん辛そうにしていたな。」


グレーシス様には何故か気付かれてしまう。

労るように、頬を指で撫でてくれるのが嬉しい。


「でも、大丈夫な範囲です。クレインが事前に調節してくれましたから。」


「なら良いが、無理せずクレインや護衛を頼れ。分かったな。」

命令口調なのに、表情はとても優しい。


「はい。グレーシス様もお気をつけて。」

頬から離れる指をそっと握った。

ずっと握っていたくなってしまう。


「ああ。行ってくる。」

互いに指を絡めて、惜しむように離した。


グレーシス様を見送った後、部屋に戻って昼食を食べた。

六時前に癒し手を終わらせる為、再びクレインと馬車で療養所へ向かう。


癒し手を十名終えて少しした頃、新たに患者が十八名運ばれてきた。

他の患者とは違って、後ろ足に包帯が巻かれている。

きっと今日、グレーシス様達が動きを封じた患者に違いない。


新たな患者にも薬草茶を投与する。


「薬草茶を注ぎますね。」

「はい、どうぞ。」


患者を固定した騎士と、漏斗を患者の口に差した見習い医師のペアが、快く応じてくれた。


「リーリス妃殿下、こちらも準備出来ました。」

コップを持っていると、他のペアが声をかけてくれるようになった。


「今、行きます。」

もう、私に冷たい視線を向ける者は、誰もいなかった。


明日、矢を抜いた患者の結果次第では、ここにいる彼らを見捨てる選択をしなければならない。

そんなの絶対に嫌。


どうか意識を取り戻しても、自我を保っていますように。

王宮にある庭園のベンチに座って深呼吸しながら、祈るような気持ちで、夜空を見上げた。


美しく輝く満月が、大丈夫だ。と、元気付けてくれているような気がした。


当然ですが、現実の獣医さんは、こんな処置はしません。気にすると、突っ込み所満載になってしまうので、異世界フィクションとして、お楽しみください。

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