65 ホーウル王国へ
リロイ国王陛下から正式に、ホーウル王国への派遣が伝えられた。
出立直前に、ホーウル王国に向かうメンバーが、謁見の間に集められた。
メンバーは、グレーシス様と、王魔討専部隊の選抜部隊二十名。
王宮医師のクレイン、侍女のマイとメイ、そして私。
更にハイヤー王国のカータンス王太子殿下と、その近衛騎士二十名だった。
リロイ国王陛下が高座から全員を見回して、口を開いた。
「今回は急を要する事から、ハイヤー王国が送迎をしてくれる。カータンス王太子殿下、協力感謝する。」
「とんでもございません。これもホーウル王国の要請の一つですから、協力して当然です。」
カータンス殿下が畏まって頭を下げた。
「皆、感染にくれぐれも注意して任務に臨み、全員無事に帰国せよ。」
「「「はっ。」」」
王宮内の馬車が停車する広場には、馬車の車輪が無い状態に似た箱が十五台ほどあった。
十台の箱は黒を下地に豪華な彫刻が施され、扉と丸い窓が付いている。
その中の一台は、金箔が使われて一際豪華な彫刻が目を惹いた。
残りの五台はシンプルな扉のみの黒い箱だった。
どの箱にもハイヤー王国の鷹をモチーフとした紋章があり、屋根に当たる上部中央には、取っ手のような物が付いていた。
「グレーシスとリーリス妃殿下は、私の部屋へ。」
カータンス殿下が、一番豪華な装飾の箱を指差した。
ハイヤー王国の騎士が、箱の扉を開けてくれたので中に入ると、クッションのきいた椅子が、向かい合わせに設置されている。
内装は馬車とほぼ同じだった。
グレーシス様の隣に座って、向かいに座ったカータンス殿下に聞いた。
「これで移動するのですか?」
「そうだ。準備しているから、外の様子を見てみるが良い。」
備え付けの丸い窓から、外の様子を見た。
ハイヤー王国の騎士達は靴を脱ぎ、裸足になっている。
さらに上着を脱ぐと、下に着ているシャツは特殊なデザインだった。
襟はあるけれど、袖はなく、背中が大きく開いて、後ろはほぼ裸に近い。
あれでは半分裸ではないかしら。
思わず目を覆って視線を反らした。
「リーリス妃殿下には刺激が強いらしいが、ここからが見所だ。」
カータンス殿下に言われて、再びチラリと騎士を見る。
裸足の足が大きな鳥の鉤爪に変わり、肩甲骨から指先は、大きな翼になった。
しかも翼は、本来の腕の長さの倍ほどの長さになっている。
更に腰の下辺りから尾羽が生えていた。
半分獣化?した騎士達は、全員が箱の上に乗ったのを確認すると、箱の上部に付いている取っ手を鉤爪で掴んで、一気に羽ばたき始めた。
最大で大人が四人乗っている箱が、宙に浮いた。
私達の箱もふわりと浮いて、みるみる高い場所に運ばれて行く。
「凄い、飛んでる……。グレーシス様、飛びました!」
「ああ、そうだな。」
隣に座るグレーシス様はご存知だったらしい。
でも、私の反応に、いつも通り優しく返事をしてくれた。
「町があんなに小さく見えます。鳥の獣人さんも凄いですね。」
「トリでは無くタカだ。まあ、いい。あの姿を見ても、君はそんな反応なんだな。」
カータンス殿下が腕を組んで、物珍しい生き物を見るように見てきた。
「すみません、あの何か間違えてしまいましたか?」
「いや、問題無い。無知な君に我々タカ科獣人について教えてあげよう。」
「はい。是非、お願いします。」
「相変わらず上から目線で偉そうだな。これだから鳥は。」
グレーシス様がポツリと呟いた。
「トリではない。タカだ。」
カータンス殿下から、何か理解出来ないこだわりを感じる。
「まあ良い。ネコがヒト型を常に保っているのに対して、我々タカは狩りや移動の際、半獣に成る。我々の場合は特に足と翼、そして、目の能力が高い。今のようにかなりの重量を運べ、テナール王国からホーウル王国まで馬車で二週間かかるのに対して、我々なら半日もあればたどり着ける。」
「半日!?それは凄いですね。」
「まあな、そして視野も広く視力も良い。だが、普段の生活を送るには何かと不便だ。それに服装も限定される。だから必要な時でない限り半獣には成らない。」
確かに普段着が背中が開いているシャツで、裸足なのは如何なものかと思う。
「因みにネコ科はヒト型を保ったままで充分に能力が発揮出来る。魔物討伐で剣を使う我々は、獣化すると不利だからな。」
グレーシス様も新たな事を教えてくれた。
「種族が違うと体の使い方も違うのですね。因みにハイヤー王国での魔物討伐は、どうされているのですか?」
この際、気になった事を聞いてみた。
「上からの投石と、止めの眉間には槍だ。我々の国は標高の高い崖に国があり、魔物の住む森は眼下にあるので、魔物に襲われる脅威が無い。魔物を食料として必要な時だけ狩れば良い。環境は違うが、ホーウル王国も同じだ。国の為に死に物狂いで魔物を討伐せねばならないなんて、テナール王国くらいだ。」
魔物討伐が必須なのは、テナール王国だけだったなんて意外。
「我々は空の安全圏からでしか戦わない。因みにイヌは十名以上の槍集団に対して、一体の魔物を相手にする。それに比べてネコは普段から死に物狂いで討伐しているからか、ずば抜けて個人の能力が高い。建国祭の夜会で、獣化した者達を封じたあの動きと剣さばきは、異常な早さだった。だから今回、グレーシスに応援要請が来たと言える。」
「つまり、グレーシス様の普段の頑張りが、他国にも認められた、と言う事ですね。」
嬉しくてグレーシス様に顔を向けると、頭を撫でられた。
「全然嬉しくないが、まあ良い。」
「我々タカの事は、まあまあ理解出来たと思う。ここからが本題だ。ホーウル王国の要請内容を共有しようではないか。」
私の頭を撫でていたグレーシス様の手が、ピタリと止まった。
「初めからさっさと本題に入れ。どうせタカを知らない人間のリーリスに説明して、優越感に浸りたかっただけだろう。」
「失礼な。親切心だ。肉祭りでは一応助けられたし。」
「一応?ガッツリ助けられただろう。ハンカチはどうした。まだ返していないだろう。」
「私が忘れたとでも?失礼な。ハンカチは今日、返すつもりだった。」
カータンス殿下が、私のイニシャルが刺繍されたハンカチをポケットから取り出した。
「肉祭りでは世話になった。医師には対処が良かったから、重症化せずに済んだと言われた。感謝する。この花は我が国にしか咲かない花で、女性は髪に飾る。受け取ってくれ。」
ハンカチと、小さな白い星の形をしている花を差し出された。
花は枯れないように、特殊な加工が施されて、髪に飾っても落ちない工夫がしてあるらしい。
「お役に立てたのなら良かったです。お花、ありがとうございます。」
耳に掛けるようにして、花を髪に飾ってみた。
「まあ、悪くない。」
顎に手を当てて、私を見ていたカータンス殿下の口角が、若干、上がった気がした。
グレーシス様が私の髪に飾った花に、そっと触れて、カータンス殿下に視線を移した。
「この花、国花だな。貴様がそこまでするとは意外だ。」
「王太子である私を助けたのだ。それなりの感謝を示さねば、王族としての格が疑われる。それに受けた恩は返す主義だ。」
二人の会話から、この花には何か意味があるのだ、と分かる。
その意味を質問する前に、グレーシス様が説明してくれた。
「その花はハイヤー王国の国花で、直系の王族以外には持ち出せない、特別な花だ。その花を渡す意味、それは大いなる信頼だ。その花を持つ者に危害を加えた場合、ハイヤー王国を敵に回す、という意味にもなる。」
身に付けるだけでハイヤー王国がバックに付くなんて、権力が凄い。
「そんな意味のある花を貰っても良いのでしょうか?」
畏れ多い気持ちでカータンス殿下を見ると、大きく頷かれた。
「良いから渡したまでだ。だから常に身に付けるようにしろ。我が国もそうだが、ホーウル王国は特に人間を敵視している。過去、獣人が独立国家を築く前、狂気病が原因で、人間により、老若男女関係なく無差別に大量虐殺された歴史があるためだ。人間のリーリスが入国した時点で、どんな酷い扱いを受けるか予想出来ない。だが、我が国の国花を身に付けていれば、無礼は出来ない筈だ。」
「カータンス王太子殿下、その気遣い感謝する。」
グレーシス様が畏まって礼をした。
それを見たカータンス殿下が、目を瞬いていた。
「まさかグレーシスが私に頭を下げる日が来るとは。お前、妻の事になると、なりふり構わないな。」
「当然だ。」
顔色を変えず自信満々に答えるグレーシス様の姿に、嬉しいけれど、恥ずかしくなって俯いてしまった。




