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獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


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64 ホーウル王国からの要請

建国祭から一週間が経過していた。

今は丁度、夜十時。


何時ものように続き扉からノックがして、グレーシス様が私室に訪ねて来た。


あれ?何だか少し表情が固い?


ソファーに座っている私の右隣に腰かけると、紅茶に手も付けず、おもむろに話始めた。


「ホーウル王国に戻った三名が、ヒト型に戻ったと連絡があった。リーリスの癒し手は狂気病にも効果があると証明された事になる。」


口調は淡々として違和感を感じる。


「それは、良かったのですよね?」

思わずグレーシス様に、体ごと向けて顔色を窺った。


「次期国王と王妃の命を救えたのだから良かった。と言いたい所だが、厄介な事になった。ホーウル王国が治療をした王宮医師、クレインの派遣を要請してきた。」


ホーウル王国に患者を送る際、王宮医師のクレインが治療をしたから、暫く様子を見て欲しい。そう伝えていた。


「我々獣人は互いの国が危機的状況になった場合、要請があれば協力を惜しまない互助条約を結んでいる。ホーウル王国は狂気病の患者が爆発的に増え、まさに今、危機的状況にある。だから、我が国に要請があった。この場合、条約により、我々に断る選択肢がない。とは言え、相手国の望み通り、クレインだけ派遣しても治療出来ない。それでは意味が無い。」


グレーシス様はそこで話を切ったけれど、続きには察しがついた。


「つまり、私がホーウル王国へ行く必要があるのですね。」

「ああ。」


グレーシス様は眉間に皺を寄せて頷いた。

同時に尻尾が、ペシンとソファーを打った。


「では、私とクレインだけでホーウル王国に行かなければならないのですか?」


きっと護衛や侍女は付いて来てくれる。

でも、グレーシス様はこのテナール王国を魔物から守る仕事がある。だから、同行しない可能性が高い。


王族とは言え、私は外交経験なんて一切無い。

しかも、ホーウル王国の存在を知ったのは最近で、文化やしきたり、様々な情報について何一つ勉強をしていない。


治療が目的とは言え、無知のまま、テナール王国の王族として訪問しなければならないなんて、不安で仕方がない。

思わず顔が強張ってしまった。


「いや、暴走する患者の足止めに力を借りたい、と私や部下にも要請が来た。だから行く時は一緒だ。」


グレーシス様は、私の不安感を感じ取ったのか、顔の強張りを取るように、頬を手の甲で優しく撫でてくれた。


「良かった……グレーシス様が一緒なら安心です。」

安堵から顔が緩んでしまう。


頬に触れていた右手が背中の後ろに回され、肩ごと抱き寄せられた。

気付くとグレーシス様の胸板に顔が埋まっていた。


「正直行かせたくない。こんな事になるなら、ハーレンス達の治療をさせるべきじゃなかったと、王族らしくない事を考えてしまう。リーリスの治療で多くの命が救われる、だから行かせるべきなのは分かっている。だが、リーリスが感染したら……。」


背中に回されたグレーシス様の手に、力が入るのを感じて、耳元で聞こえる声色から、心配や葛藤する気持ちが伝わって来る。


私は自分自身を治癒出来ないから、感染するかもしれない。

それは凄く怖い。

行かなくて済むなら、それに越したことはない。


けれど、心の中では不安で逃げ出したくても、グレーシス様と同じで、多くの命と民の幸せを守る為に尽くさなくてはならない。

それが王族の役目だから。


唯一、今みたいに二人で過ごす時だけは、お互い王族ではなく、夫婦として本音をぶつけられる。弱音もこぼせる。

そんな関係になれた事が嬉しい。


だから私も、素直な気持ちを伝えたくて、そっと胸板から顔を離し、グレーシス様の顔を見上げた。


「私は患者さんの背中を撫でるだけで、噛まれたりしません。だから感染の危険は少ないでしょう。でも、グレーシス様は?暴走する患者さんを止める為に剣を振るうのですよね?噛まれたり、引っ掻かれるかもしれません。凄く凄く心配です。」


グレーシス様のシャンパンのような黄色い瞳が揺れて、あやすように大きな手が背中を撫でてくれた。


「リーリスが無事なら大丈夫だ。もし感染しても治療してくれる、だろう?」


それはそうかもしれないけれど、もっと自分を大切にして欲しいとも思ってしまう。


「……それはもう全力で治癒しますが、癒し手は万能ではないのです。だから―――」


話を遮るように突然、唇にキスされた。


「全力で気を付ける。」

「……はい。」

真剣な目をされたら、頷くしか出来ない。


「無事、任務を終えて、テナール王国へ一緒に戻ろう。」

「はい。また、ダンスを踊ると約束した事、覚えていますか?」

不安を消すくらいのご褒美が欲しかった。


「ああ、勿論。だから元気で帰る。必ずだ。」

「はい。」

互いに微笑んで、再びキスをした。


帰る。その言葉に全く違和感は無くて、当然のように受け入れていた。


いつの間にか、テナール王国が私にとって帰る場所になっていたのね。

そう気が付いて嬉しくなった。


グレーシス様とならきっと大丈夫。

不安な気持ちは、無くなっていた。


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