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獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


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61 肉祭りと騎士団(グレーシス視点)

今日はリーリスと肉祭りデートだ。


「町歩きなんて初めてです。」

王宮の中から出る事を許されなかったリーリスが、それはそれは嬉しそうに目を輝かせていた。


邸の者達も気合いを入れて、リーリスに肉祭りを楽しんで貰おうと世話を焼いていた。


私にはそんな世話をしてくれた試しは無かったが、リーリスを可愛らしく仕立て、私にお勧めの屋台を伝授してくれたから良しとしよう。


私自身、リーリスとの初デートに気合いが入る。

リーリスには是非とも楽しく過ごして欲しい。


父である国王陛下が、獣人の為に貢献したリーリスに勲章を授け、その事を知らしめた事で、表向き、リーリスに悪意は向けられないだろう。


だとしても、警戒は必要だ、と思っていた。が、実際、王都に着いた時、リーリスに向ける獣人達の視線は、予想外にも穏やかだった。


おそらく、リーリスに世話された伝染病患者の影響だろう。

リーリスの頑張りが、王都でも認められた事を嬉しく思った。


安心して町デートを楽しめそうだな。

そう思っていたのだが、我が部隊の騎士達が気配を消して尾行してくる。


リーリスを見守っているつもりらしい。

若干鬱陶しいが、邪魔しないなら放置しておくとしよう。


料理長ベイン伝授の、お勧め屋台と料理リストは、どれも美味しく、リーリスの舌を満足させたらしい。

初めての屋台料理を、どうやって食べるのか戸惑っていたが、私が教えると嬉々として料理を口にしていた。


「グレーシス様、この串焼きのお肉、肉汁がじゅわりと出て、噛みごたえもありつつ、固すぎなくて、美味しいです。」


リーリスは可愛らしい顔を綻ばせて、幸せそうにしながらも、実に的確な料理の感想を教えてくれる。


リーリスの、あまりにも美味しそうな顔と、食欲を刺激される感想に、周りにいた者達が食べたくなるのも仕方がない。その中には勿論、騎士達もいる。


リーリスのせいで、屋台は行列が出来るまでになったのに、当のリーリスは全く気付いていない。


「流石、ベインのお勧めね。」


ベインのお陰だと思っている。

間違ってもいないのだが、リーリスは自分の魅力を分かっていない。


リーリスの信者が加速度的に増えるのは、悪いばかりでは無いが、私だけのリーリスでなくなるようで、面白くないとも思ってしまう。


これが惚れた弱みなのだろう。


取りあえず、なるべく二人きりになる為、次の屋台を目指す。が、厄介な奴に声を掛けられた。


ホーウル王国の王太子、ハーレンスだ。

彼はハイイロオオカミのイヌ科獣人で、私より二歳年上だ。


明日の建国祭に参加するため、他国の来客は、前日の肉祭りから参加するのが恒例で、ハーレンスとは十五歳からの付き合いだが、鬱陶しい所がある。


しかも、やはり人間嫌いだ。

リーリスに何を言うか分からない。

そう思っていたが、やっぱりだった。


リーリスの体格を貧相だと侮辱した。

それに、人間だからシェリー(ティミラーの妻)主催の茶会に呼ばれなかった。等と憶測で見下してくる。

平静を保ってはいたが、正直不愉快極まりなかった。


それは私だけではなかったらしい。

周りの騎士達は勿論だが、意外にも一般獣人も、鋭い視線をハーレンスに向けていた。


リーリスの信者が、町にも増えている。と確信した瞬間だった。


周りの空気にも気付かず、ハーレンスは尚もリーリスを侮辱する。

私達の仲が上辺だけで、リーリスは心を開いていない、と。


ハーレンスが言っているのは、おそらく初夜の事だろう。

獣人にとって、女性が初夜を受け入れるのは、相手を心から受け入れる、と示す儀式とされている。


我々の場合、最初に私が一方的に拒絶してしまった結果、未だ手を出したいのに、出せずにいるのが実際だ。


獣人の場合、実のところ初夜は、男性より女性の方が権利を持っている。

従って、獣人女性は結婚しても、初夜を拒む権利がある。

実際は、ほぼ拒まないが。


一方、ヒト属の国では、初夜は跡継ぎとなる子を成す、という認識が強く、主導権は男性にある。

リーリスはヒト属側の価値観なのだろう。


私が求めれば応じるのかもしれないが、我が国はヒト属とは価値観が違う。

なかなか辛いが、私はリーリスの心の準備が整うのを待つ、と決めた。


イヌ科獣人はネコ科より鼻が利く分、初夜の儀式を終えたかが、傍迷惑にも匂いで分かるらしい。


だとしても、知らない振りをするのがマナーだろう。こっちはこっちの考えがある。リーリスを不安にさせるような余計な発言は控えて貰いたい。


ハーレンスを、ジロリと睨み付けるが、相手はニヤニヤしている。


「ハーレンス殿下にどう思われようと、私はグレーシス様を誰よりお慕いしています。」

リーリスが私の腕に、ギュッとしがみついて、初めて口を開いた。


今、誰よりって言った。

こんなに一生懸命な姿が、心を開いていない筈がないだろう。

私は幸せを噛み締めた。


ハーレンスは納得出来ないらしく、リーリスに近付いて、腕を掴もうとして来た。

肉祭りで鼻が利かないから、儀式をしたか確信を得る為に、匂いを間近で確認するつもりだろう。


そんな変態行為をさせるか!

リーリスを素早く背中に隠す。と同時に、騎士達が抜刀体勢でハーレンスの前に立ちはだかった。


居るとは思ったが、結構居たな。二十は居るか。でも、本当に切られては困るから退散で。

合図を送ると、皆、サッと散って行った。


尾行を放置して正解だったな。

我が部隊は、個性強めの変わり者ばかりだが、騎士としては優秀だ。

お陰でハーレンスは、びびって退散した。


騎士達には感謝として、後日、リーリスにクッキーを差し入れて貰うとしよう。


餌付けされてリーリスの忠誠心が、さらに爆上がりするのが目に見えて不本意だが、たまには鞭ばかりではなく、飴も必要だろう。


町を歩きながら、興味津々で、キョロキョロと目を動かすリーリスを愛でながら、そんな事を思っていた。


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