表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/128

60 肉祭り後編

「邪魔な奴は去ったし、屋台巡りを再開するとしよう。」

「次のお勧め料理は何ですかね。楽しみです。」


ハーレンス殿下が去って、再びグレーシス様と、ベインお勧めの屋台を回り、美味しい肉料理を堪能した。


「殿下っ!」


お腹が膨れた頃、後ろで声がした。

振り向くと、上から下までローブを纏った男性が三人居て、その内の一人が蹲っている。


「あれはハイヤー王国の王太子、カータンス殿下だ。カンムリクマタカの獣人だが、様子がおかしいな。」

「声をかけてみましょう。」

グレーシス様と、駆付けた。


カータンス殿下の髪色はチョコレートブラウンで、髪は、襟足より少し長く、前髪はオールバックにして後ろに流している。

瞳は濃いオレンジ色で、目付きは鋭いものの、顔は整っていた。


見た目は人間と何も変わらないので、もし、ヒト族の国で会っても、誰も獣人だと気付かない筈。


「私は第三王子グレーシスだ。一体どうした。」


「熱中症かもしれない。ハイヤー王国は高地にあり、年間平均気温がここより低いんだ。だから我々は暑さに弱い。」

カータンス殿下付きの護衛が答えた。


今日は秋晴れで、気温も高めだった。

馬車の待機場所までは、距離がある。

意識はあるけれど、グッタリしているカータンス殿下を馬車まで動かすのは無理そうだった。


周りを見回すと、近くの路地で日陰になっている場所があった。

「グレーシス様、あちらの日陰ならば、ここより涼しい筈です。移動をお願い出来ますか?服のボタンも緩めた方が、首もとが楽で良いのですが。」


誰もいないなら仕方がないけれど、男性がいるのに、私が進んでボタンを緩める訳にはいかない。


「それは私達がやります。」

良かった、カータンス殿下付きの護衛が申し出てくれた。


グレーシス様の指示で、護衛がカータンス殿下を日陰に運び、上着のボタンをいくつか緩めた。


「誰か町医者を呼んで下さらない?あと、冷たいお水、出来れば氷はあるかしら。」


遠目から私達を見ている町の獣人達に声をかけると、返事が返ってきた。


「妃殿下、任せろ。町医者は直ぐ連れてくる。」

近くにいた見知らぬ男性が走って行った。


「冷たい氷水ならあるよ。」

見知らぬ女性が、氷水の入った水差しと、コップを持って来てくれた。


「ありがとう。」

「この辺り一帯の奴らは伝染病で世話になったんだ。此くらいさせて貰うよ。」

女性はウィンクをして微笑んでくれた。


水差しからコップに水を入れて、カータンス殿下に差し出した。

「冷たいお水です。飲めますか?」


カータンス殿下は怠そうにしながらも、フイと顔を背けた。


「人間の入れた水など飲まぬ。毒入りかもしれん。」

「リーリス、見捨てよう。」


優しいグレーシス様が割と本気のトーンで言ったので少し驚いたけれど、先ほどのハーレンス殿下の時と言い、軽口をたたける程の仲だと分かるので、きっと本心では無いはず。


水は事前にベクターが毒味してくれたので、安全は確認済みだった。

コップの水を一口飲んで見せて、カータンス殿下に再びコップを差し出した。


「この通り毒は入っておりません。殿下を心配した町の皆さんから頂いたお水ですので、ご安心下さい。」


カータンス殿下はじっと私を見つめて、ため息を吐くとコップに手を伸ばした。が、その前にグレーシス様がコップを取り上げて、ゴクゴクと一気に飲み干した。


「え?あの、グレーシス様?」

「お前、折角……。」


カータンス殿下が手を宙に彷徨わせながら、不機嫌そうにグレーシス様を見た。

カータンス殿下を無視して、グレーシス様が私に笑顔を向ける。


「すまない、喉が渇いていたから、つい。カータンスがグズグズしているから、先に頂いてしまった。リーリス、もう一杯頼む。」


「まあ、喉が渇いていたなんて知りませんでした。言ってくだされば良かったのに。」


グレーシス様が持っているコップに水差しの水を注ぐと、グレーシス様がコップをカータンス殿下に差し出した。


「私から飲めないとは言わないよな。」

「……言うか。」


カータンス殿下はチッと舌打ちして、グレーシス様からコップを奪うように手にすると、少しずつ水を飲んだ。

その間に持っていたハンカチを、残った氷水で濡らして絞り、それをターカンス殿下に差し出した。


「使っていないハンカチですので、ご安心ください。これでおでこ、顔でも首でも良いので冷やすと、少しは楽になる筈です。」


「……本当だろうな。」

「はい、幼い頃、よく熱中症になって看病されておりましたから、ご安心下さい。」

お兄様が。そう思いながら微笑んだ。


カータンス殿下はハンカチを受け取ると、おでこに当てた。

冷たさが気に入ったのか、気持ち良さそうに目を閉じている。

ハンカチは直ぐに温くなるので、その度にハンカチを氷水で濡らして絞っていた。


「リーリス、指先が真っ赤だ。交代しよう。」

「少し冷たくなっただけです。これくらい大丈夫ですよ。」

「駄目だ。」


グレーシス様は、カータンス殿下から受け取ったハンカチを私から取り上げると、氷水でハンカチを濡らして絞る作業を、交代してくれた。


「妃殿下、医者を連れてきたぞ。」

「ありがとう、助かったわ。あら、テリー。」


男性が連れて来てくれた医者は、王都で伝染病が流行した時、終息に協力してくれた町医者の代表、テリーだった。


「妃殿下に再びお会い出来るとは思いませんでした。まさか祭りの日に妃殿下が、患者の面倒を見ているとは。」

テリーに呆れられてしまった。


「後は私に任せて、祭りを楽しんで下さい。」

「では、そうさせて貰おう。」


テリーの言葉を受けて、グレーシス様は中腰になっている私の手を引き、立たせてくれた。かと思ったら、片腕を私のお尻の下に回して、そのまま私を持ち上げた。


「ひゃっ!」

バランスを崩しそうになると、サッともう片方の手で背中を支えられた。


「医師殿、後は頼む。」

グレーシス様は顔色一つ変えず、治療費として、テリーに金貨を一枚渡した。


「は、はい、お任せ下さいませ。しかし、これは貰いすぎです。」

金額は勿論だけれど、私を抱き抱えるグレーシス様にも、テリーは驚いているようだった。


「彼は他国の王太子だ。丁重に頼む。」

「そうでしたか、畏まりました。」


グレーシス様の行動に驚き過ぎて、ポカンとした顔をしているカータンス殿下と、その護衛を見たテリーが、冷静さを取り戻して答えると、グレーシス様は再び頷いて、私に目を向けた。


「リーリス、落ちないように、しっかり捕まって。」

「え?は、はい。」


訳も分からず、グレーシス様の首に腕を回して、しがみつくと、こんなに早く走れるの?と思う程、凄いスピードで走り出した。

いったい何処へ?


振り向いて進行方向に目を向けると、狭い路地を突き進んでいる。

突き当たりは壁で、道は無い。


「グ、グレーシス様っ!ぶつかります!」

ギュッとしがみつく手に力が入る。


「問題無い。」

「ひゃああっ!」

ダンッ!


近くにあった木の箱を踏み台にして、これまた凄い跳躍力で、一気に屋根まで上り、そのまま屋根を走り出した。


「お、落ち、落ちっ!」

「大丈夫だ。絶対落とさない。」


屋根と屋根の間を走りながら飛び越えると、高い時計塔と、その隣に少し低い建物が見えた。

グレーシス様の、私を支える手がいっそう強くなって、嫌な予感がした。


「グレーシス様っ、何をっ。」

「黙って。舌を噛むぞ。」

「っ……。」

グッと口を閉じる。


走るスピードが更に上がって、屋根から隣の建物の壁に向かって、突進するようにジャンプした。

素早く方向転換するように壁を蹴って、隣の時計塔に向かって、更に高く跳躍した。

まさに三角飛び!


「きゃああぁぁぁぁ……」

時計塔のてっぺんにある展望台らしき場所に無事着地した。

声は我慢出来なかったけれど、舌は無事だった。


「怖かったか?」

ギュッとしがみ付いたまま、コクコク頷いた。

若干、いえ、かなりの恐怖で涙目になってしまった。


「そうか、これくらい割と普通なんだが、すまなかった。ここは私が一人になりたい時に、よく来ていた場所だ。ここなら煩わしい奴も来ない。」


グレーシス様はそう言って、ゆっくりと降ろしてくれた。

眼下には、王都の町並みと沢山の人々が小さく見える。

その先には王宮が、さらに遠くに目を向けると、森まで霞んで見えた。


「素敵……。」

「王都が見渡せて、なかなか良い景色だろう。」

「はい、とても。こんなに高い場所に来たのも、初めてです!」


思わず感動して、テンションが上がってしまった。

グレーシス様は目を細めて、穏やかに言った。


「リーリスは初めてが沢山だな。」

「すみません、色々と経験がなくて。」

仕方がないけれど、急に自分の経験の無さが、恥ずかしく思われた。


「責めている訳ではない。リーリスの初めてを私で埋めるのは悪くない。だが、初めての町歩きは邪魔ばかりだったな。楽しめなかったのではないか?」


気遣うようにグレーシス様の手のひらが優しく私の頬を撫でた。

真面目で優しいグレーシス様は、町歩きが初めてだと言った私の為に、楽しませようと頑張ってくれていたに違いない。


「いいえ、好きな方と一緒にお出かけする夢が叶って、美味しい料理を食べたり、町の方や騎士達に優しくして貰ったり、こんなに素敵な景色をグレーシス様と見れるなんて、楽しくない筈がありません。でも、グレーシス様が笑ってくだされば、私はもっと幸せになれます。」


グレーシス様の両頬を軽くつまんで口角が上がるように上に動かした。

思ったより可愛らしい顔に、思わず吹き出してしまった。


「私がリーリスを喜ばせたかったのだが、まあ良い。」

そう言って、グレーシス様がとても優しい笑みを向けてくれたので、幸せな気持ちになった。


横から当たる夕陽の光が、グレーシス様のシャンパンのような黄色い瞳を益々輝かせて、美しい笑顔が更に美しくて、暫く見惚れてしまった。


初めての町歩きデートは予想外の事ばかりで驚いたけれど、グレーシス様のお陰で、とても楽しく過ごせた。


でも、帰りは階段で歩いて降りる事を、切に、希望した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ