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獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


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59 肉祭り前編




建国祭前日の今日は、王都で肉祭りが開かれる。


王都では、様々な魔物肉料理の屋台が並び、無料で食べ放題が出来る。


無料のからくりは、王魔討専部隊から魔物肉が大量に提供されるのと、高位貴族が領地の特産品を宣伝するために、出資しているからだそう。


「王族も護衛と毒味役を同行すれば、自由に王都を歩ける。だから、肉祭りを一緒に回れればと思ったのだが、その日は女性の招待客に向けて、王太子妃主催の茶会も開催される。リーリスも招待されるだろうが、断っても問題ない。肉祭りか茶会、好きな方を選ぶと良い。」


魔物討伐が忙しい時期に、たまたま休みが取れた日、グレーシス様から話があった。


セーラン王国にいる時は、殆ど王宮から出る事は許されず、引きこもり状態だった。

王都へは、たま~に癒し手の治療を目的として、王宮医師と共に、馬車で王立病院へ行くだけ。


だから祖国なのに、私の知っている王都は、窓から見える風景と、王立病院の大部屋と、教育係やお兄様が話してくれるくらいの知識しか無い。


シェリーお姉様のお茶会は是非、参加したい。

けれど、今までお許しが出なかったお出かけが、グレーシス様と出来る。

そんな魅力的なお誘いを断るなんて、あり得ない。


「肉祭りが良いです。町を散策なんて人生初なので、とても楽しみです。」

「人生初って……。そうか、では茶会は私から事前に断りを入れておこう。」


ポンポンとグレーシス様に頭を撫でられた。

私は嬉しくて、グレーシス様と肉祭りに出かける事を邸の者達に触れまわったのだった。


「王都ではラフな格好が良いですが、折角ですから、お洒落もしましょうね。」


執事のドルフが直ぐに商会を呼んでくれて、侍女のマイが服を選んでくれた。


「やはりグレーシス様の髪留めは必須ですよね。」

肉祭り当日の朝、侍女のメイが私の髪をハーフアップにしてから、グレーシス様から貰った髪留めを着けてくれた。


「旨い肉料理を出す屋台のリストだ。殿下に見せれば分かるから、連れて行って貰え。」


出かける直前、料理人のベインがメモを渡してくれた。

エントランスで待つグレーシス様に、早速ベインのくれたメモを渡す。


「私の時はここまで面倒見てくれなかったが、まあ、私に見せろと言うなら良いだろう。それより、今日の格好は可愛いな。リーリスによく似合っている。」


美しいシャンパンのような瞳を細めるグレーシス様を見て、頬を染めてしまう。


「有り難うございます。グレーシス様こそ素敵です。」


グレーシス様は品の良い前開きのシャツと、黒いトラウザーズ。そしてベルトには剣を差している。

服装はシンプルだけれど、スタイルの良さを際立たせて格好良い。


グレーシス様にエスコートされて馬車に乗ると、続いて、王魔討専部隊の部隊長補佐エイガーと、ベクターが乗り込む。

二人ともラフな格好で、やはり帯剣している。


「護衛と毒味役は二人が引き受けてくれる。リーリスも顔見知りだから安心だろう。」

「はい、エイガー、ベクター、よろしくお願いしますね。」


「「お任せください。」」

エイガーは微笑み、ベクターは頷いてくれた。


王都にある広場の近くに馬車を止めて降りると、町は沢山の獣人で賑わっていた。

伝染病患者の収容所だった仮設建物は撤去され、広場には屋台が並んでいる。


広場から東西と南北に伸びる二つの大通りにも、屋台が並んでいた。

肉料理だけではなく雑貨や花屋等、様々なお店が出ている。


「わぁ~。色々なお店がありますね。」

物珍しくて辺りをキョロキョロ見回していると、グレーシス様が私の手を握って、クスリと笑った。


「楽しそうで何よりだが、直ぐに迷子になりそうだ。ちゃんと掴まえておかなければな。」

「それは……あり得そうですので、お願いします。」


手を繋いだままグレーシス様と町を歩いて、ベインお勧めの屋台に向かった。


「ベインによると、ここの屋台では串焼きがお勧めらしい。」


メモを見たグレーシス様が、早速串焼きを注文してくれた。

目の前で店主が肉を焼いてくれるので、肉の焼ける様子を眺めていると、店主の男性と目が合った。


「あ、妃殿下、伝染病ではお世話になりました。ヒト型なので分からないと思いますが、お陰で兄弟揃ってまた元気に働けます。」


可愛らしい猫耳と尻尾があるガッチリした体格に、エプロン姿の男性が報告してくれた。


「まあ、それは良かった。皆さんを守る為に魔物と戦った騎士達もきっと喜ぶわ。」

「それにしても本当に魔物肉を食べに来るとは思いませんでした。」

「そうなの?お肉の食べ放題、楽しみにしてたのよ。」


話をしている間に、串焼きは出来上がった。

串には三つ、お肉が刺してある。


毒味役のベクターが持参していたナイフで、一番下の肉を少し削いで食べた。

それから手が汚れないように、持ち手に紙を巻いてから、私に渡してくれた。


グレーシス様にも同じようにして、串焼きを渡している。

ベクターはナイフで食べていたけれど、私はナイフを持っていない。

どうしましょう。


「このままかぶりつくんだ。行儀は気にしなくて良い。」

グレーシス様が串焼きの一番上のお肉を、パクリと、一口で食べて見せてくれた。


成る程、串焼きはそのようにして食べるのね。

私もなるべく大きな口を開けて、パクッとお肉にかぶりついた。


「ん~っ、美味しい!タレに漬け込まれたお肉が柔らかくて、じゅわりと肉の甘味が口に広がります。」


私の言葉にグレーシス様が、目をパチクリと動かして、クスリと笑った。


「リーリスは本当に旨そうに食べるな。」

モグモグ口を動かしていると、周囲の視線が集まっている気がした。

きっとグレーシス様を見ているのね。素敵だから。


「妃殿下と同じものを!」

「私も。」

「俺も。」

次々と屋台にお客さんが押し寄せて来た。


「流石ベイン。本当に人気のお店なのですね。」

感心してグレーシス様に話すと、苦笑された。


「それだけではないと思うが、まあ良い。混んできたし次へ行くか。」


手を繋いで別の屋台に向かっていると、後ろから見知らぬ男性に声をかけられた。


「やあ、グレーシスじゃないか。丁度良い、旨い屋台を案内してくれよ。」


振り向くと、銀髪でエメラルドグリーンの瞳を持つ目鼻立ちのハッキリした男性がいた。

ピンと立った犬に似た獣耳と、フサフサした尻尾。

もしかしてイヌ科の……。


「ハーレンスか。今日は妻とデートだから案内は無理だ。」


グレーシス様、今デートって言った。

初めての町歩きが初デートなんて嬉しい。

さっさと私の手を引いて、歩きだそうとするグレーシス様。


「妻とはその人間の女だよね。」

ハーレンス殿下の視線が私に向いたので微笑むと、目を見開かれた。


「リーリス、彼はホーウル王国のハーレンス王太子殿下で、ハイイロオオカミの獣人だ。」


グレーシス様がちょっと嫌そうに、ハーレンス殿下を紹介してくれた。

やはり以前話してくれた、イヌ科の獣人さんだった。


「グレーシス殿下の妻、リーリスでございます。以後お見知りおきを。」

淑女の礼をする。


「妻、ねぇ。人間にしてはまともみたいだけど、随分と貧相だね。」

ハーレンス殿下が私を品定めするように、視線を動かした。


そりゃ、長身でスタイルが良くて、胸とお尻が出ている、ザ、獣人女性に比べたら、低身長で小ぶりな私は貧相でしょう。自覚はしておりますよ。


グレーシス様だって本当は肉感的女性の方が好みかもしれません。

どうなのでしょうか?

グレーシス様をチラリと見る。


「ハーレンスの好みはどうでも良い。私はリーリスに不満など何一つ無い。」


グレーシス様が私を見て優しい眼差しを向けてくれた。

グレーシス様の、その言葉が嬉しくて、拝みたい気持ちになった。


「ところで今、女性陣はお茶会の筈では?人間の彼女は呼ばれなかったのかな?」

ハーレンス殿下が、ニッコリと微笑む。


「リーリスと肉祭りに行きたいから断った。王太子妃からも了承を得ているので、問題無い。」

「ふーん、でも仲が良いのは上辺だけだね。夫婦なんて言いながら、心を開いていないよね。」


ニヤニヤするハーレンス殿下に、思わず言い返した。


「ハーレンス殿下がどう思われようと、私は誰よりもグレーシス様をお慕いしております。」


「では何故、(つがい)の匂いがしないのかな?」

(つがい)の匂い?」


ハーレンス殿下の手が、私の腕を掴もうと伸びてきた。

瞬間、グレーシス様に手を引かれ、背中に庇われた。

同時に、十名以上の騎士達が、グレーシス様の前に現れ、ハーレンス殿下に向かって剣の塚を握り、抜刀態勢に入っている。


ハーレンス殿下を守るように、護衛のイヌ科獣人二名も武器を手にした。


いつの間に?何処から?

騎士達の人数に驚いた。

それはハーレンス殿下も同じだったらしい。


「おいおい、人間の女にここまでする必要無いよね。」


ハーレンス殿下が両手を上げて、降参ポーズを取っている。

グレーシス様が騎士達に視線を送ると、皆去って、護衛のエイガーとベクターだけが、私の傍に控えた。


「今日の護衛は二名しか付けていない。後は勝手に沸いただけだ。」

「沸いたって。嘘だろう。」

「嘘をついてどうする。無意味だろう。」


確か獣人さんは感情に敏感で、嘘を見抜くと言っていた。

グレーシス様はその事を言っているのだろう。


「仕方ない。肉祭りの案内は諦めよう。騎士に刺されては敵わない。また建国祭で会おう。」

「いや、もう御免だ。」


バッサリと言いきるグレーシス様に、ハーレンス殿下は動じる様子もなく、にこやかに手を振って護衛と共に去って行った。


「嫌な思いをさせたな。」

グレーシス様が気遣うように、私の手を握ってくれた。


「大丈夫です。グレーシス様と騎士達が守って下さいましたから。それにしても突然騎士達が、あんなに沢山、何処から現れたのか驚きました。」


周りを見回しても、不思議と騎士達の姿は見えない。


「ここに着いた時から居たな。距離を取って気配も消していたから、普通は気が付かないだろう。何をやっているんだ。とは思ったが、ハーレンスを脅せたその点に関しては、感謝せねばならないな。」


そこまでして、グレーシス様を見守っていたなんて。


「皆さん余程グレーシス様と肉祭りを回りたかったのでしょうね。遠慮しなくても良いのに、気を遣わせてしまいました。」


「それは違う。今日は邪魔するな、と釘を刺しておいたんだ。」


真面目な表情になって、グレーシス様の指が、私の指と指の間に入り込み、貝殻繋ぎになった。

そして甘く囁かれた。


「何せリーリスとの初デートだからな。」

「………っ、はい。」


初町歩きであり、初デートでもある。

敢えて口にされると恥ずかしいような嬉しいような、ふわふわした気持ちになった。


今日はグレーシス様を一人占めさせて貰おう。

お詫びと、お礼にクッキーを差し入れするから、どうか許してくださいね。


心の中で騎士達に謝った。


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