58 建国祭に向けて
就寝前、私の私室にあるソファーに座って、ハーブティーを飲みながら、グレーシス様と二人の時間をゆったりと過ごす。
それが日課になっていた。
「十月二日に建国祭がある。当日は夜会が開かれて、私達も王族として参加しなければならない。」
グレーシス様に言われて胸が高鳴った。
それって、もしかして……。
「夜会と言うことは、グレーシ様とダンスを踊るのですか?」
「ああ、嫌か?」
私はブンブンと首を横に振った。
グレーシス様の夜会服姿、絶対素敵に違いない。そのパートナーが私なんて、嬉しい、嬉しすぎる。
「嫌な筈ありません。テナール王国のステップは何か独自性があったりしますか?」
もしそうならば、早めに練習しなければ。
ヒト族の国では世界共通のステップが推奨されている。
それは左回りのワルツのステップで、外交等の社交界で、文化が違っても恥をかかない為に決められたのだとか。
だから、王公貴族ならば教養として、必ず身につけている。
けれど、獣人の国とは常識が違う可能性もあった。
「我が国も他国から来客が来るから、ダンスは世界共通のステップを適用している。だから心配無い。」
他国?グレーシス様は、確かに他国と言った。
「もしかして、テナール王国はセーラン王国以外にも国交があるのですか?」
セーラン王国とテナール王国以外の国は、海を越えた先にしかない。
テナール王国より北は、広大な自然が広がっている。
けれど、障気が強く魔物が多発する為に、開拓不可能とされ、未開の地と呼ばれている。
「ああ、言っていなかったか。イヌ科獣人のホーウル王国とタカ科獣人のハイヤー王国だ。」
イヌ科とタカ科?
「え?獣人ってネコ科以外にも存在してるのですか?」
獣人とは、ネコ科の特徴を持つ者達だ。と祖国では習った。
「知らなくて当然だ。彼らは我々よりも人間に対する警戒心が強く閉鎖的だ。だから獣人としか交流していない。我々も彼らの思いを尊重して、存在を明かしてはいない。だからこの事は極秘事項なんだ。」
「そうだったのですね。でも海を超えて来るにしても、セーラン王国の港は使っていませんよね。何処かに港を作っているのですか?」
「いや、彼らの国は人間達が未開の地と呼んでいる場所にある。我が国より北にホーウル王国、その更に北の高地にハイヤー王国がある。」
未開の地に国があったなんて。
またしても新事実。
「でも、魔物が多くて討伐が大変でしょうね。」
「それがそうでもないらしい。外交はティミラーやフレイルが担当しているから、私は実際に訪問した事はないが、ホーウル王国もハイヤー王国も地形を利用して、上手くやっているそうだ。」
未開の地から来るイヌ科とタカ科の獣人さん。
イヌ科は想像出来るけれど、タカ科はどんな感じなのか想像出来ない。
羽が生えているのかしら。
想いを巡らせていると、グレーシス様の手が私の手に重ねられて、我に返った。
「話は逸れてしまったが、私のパートナーとして夜会に参加で良いか?」
私の喜びが伝わっていないのか、グレーシス様は何故か、不安そうな表情をしている。
「はい。グレーシス様と夜会でダンスを踊れるなんて、また夢が叶いそうで、とても嬉しいです。」
「夢?」
成人になってこんな事を、と思われるかも知れない。 けれど、ずっと思っていた。
「はい、お兄様以外の好きな男性と、夜会でダンスを踊る事です。」
グレーシス様の獣耳が、ピコッと動いた。
「その夢、最高の形で叶えると約束する。」
グレーシス様が恭しく私の手を取り、チュッと手の甲に口付したので、ポッと顔に熱が集まった。
「……っ、ありがとうございますっ。」
約束の言葉を貰うだけで満たされて、もう叶った気になってしまった。




